108 / 152
【最終章】魔王を護る黒騎士
十六話 山里は魔界で魔王様と話す
しおりを挟む高校を無事に卒業でき、一大イベントが俺を待っていた!
来たぞ魔界に。
正直、想像よりかなり綺麗というか、魔界はどちらかというと妖精の森だな。
俺は春野のファンタジー事情を知っているので、なんとリズさんが直々に迎えに来てくれた。
春野が上手く両親を移動させるまで、俺はリズさんと行動する事になっている。
グラハムは今は移動中の両親の方を守っているからだ。
魔城に荷物を置いてから、リズさんは魔界を見せてやると言って、こうして空の散歩までさせてくれている。
見えない床を歩いているみたいに、俺は今、空を歩いて気持ちが良い。
「呼吸は苦しくないか? 不調などがあれば直ぐに教えてくれ」
「あざっす! 今の所なんの問題もないどころか、地球より空気が綺麗」
「ふふ、それは良かった」
リズさんは既にワインレッドのタキシード姿をしている。
改めて脚長いな。長い黒髪と暗い赤がとても合う。
魔法ですぐ綺麗にできるし、着替えも簡単だから直前に着替える必要がないのがいいよな。
せっかくだし世間話でもしよう。魔王様と世間話とか俺くらいしかできないぞ。
「結婚式って緊張しますか?」
「式自体はそこまでではないが、これを渡すのが緊張する」
リズさんはそう言って、俺にペアの指輪を見せてくれた。
少し幅のあるシンプルな銀色の指輪だ。
「指輪交換ですか?」
「ただの指輪じゃなく、一種の契約アイテムなのだ。良く言えば加護かもしれないが、悪く言えばユタカを縛る鎖となる」
「へー、どんな効果があるんだろう」
俺がそう言うと、リズさんは指輪に触れた。
今まで無地だったのに、色の付いた三本のラインが浮かび上がった。
「魂の保護、赤い糸、解放を併せ持っている」
「三つの合成魔法的な」
「ヤマサトは本当に理解が早いな」
多分だけど二つまではそこそこ合成できるけど、三つは特殊なんだぜ、みたいな設定だと思う。そういうのよくあるじゃん。
「簡単に言えば互いに消滅しても、魂は保護され、神としての宿命からも解放される。愛が存在する世界に生まれ落ち、赤い糸で結ばれ、必ず出逢い、惹かれ合うのだ」
「来世でも結婚しようねってことですね」
「更に簡単に言えばそういうことだな」
リズさんは困ったような顔をして笑った。
少しぎこちない様子に、本当に緊張しているのがわかる。
「それを渡すのが怖いんですか」
「もし、怖がられたらと考えるとな」
「指輪の内容、春野は知らないんですね」
「聞かれないのをいいことに、あえて教えなかった」
あの春野が怖がるなんて絶対有り得ないと思うけど。
リズさんは続ける。
「私は魔王だ。魔物なのだ。神でも同じだ。人とは違う」
そう言ったリズさんは、とても美しいけど、凍てつくような笑みをしていた。
ほんの少しだけ、あの魔獣のグリストミルみたいな狂気を感じる。
「私はもうユタカが離れようとしても離してやれない所まできてしまった。来世も、その先もそのまた先も私を愛さなければならない。いつかユタカはあの時倒しておけばと後悔するだろう。だが、私を本気で惚れさせたユタカが悪いのだ。飽きようと、逃げようと、私は永遠にユタカを求めるだろう。なあ、ヤマサト、わかるか。これが人ではないものを愛するという事だ」
ギラギラと揺れる紫色と赤色の瞳に、獰猛さが滲み出ている。
なるほど、これは魔王だ。
「春野はちゃんと考えてますよ」
俺は明るくハッキリと言った。
だって俺はずっと春野が人でなくなるための準備をしているのを見て来た。
それが生半可な気持ちではない事くらいわかる。
アッサリ神になると決定したが、それがただの便利能力を得る手段じゃないと、ちゃんと春野は理解していた。
永劫の時をリズさんと生きるという決意は確実にある。
「リズさん、春野は勇者ではなく騎士を選びました。勇者だったらもしかしたら魔王とは対等だったかもしれませんけど、騎士は主に忠誠を誓う立場です。あいつは最初から貴方に全てを捧げているんです」
その俺の言葉に、リズさんは表情を和らげた。
少しばつが悪そうに、腕を組みながらこう言った。
「これがマリッジブルーというやつかな?」
「好き過ぎて困っちゃう~っていうのはブルーではないと思いますけど」
「ふむ。ではマリッジハイの方か」
「そっちの方がいいっすよ」
俺とリズさんは笑いながら城に戻った。
城は公園みたいになっていて、魔城という名前が合わない。
「リズ様! 山里!」
春野が駆け寄って来た。
ネイビーとグレーのなかなか洒落たタキシード姿だ。
無事に両親を連れて来られたみたいだな。
「ユタカ」
春野を見るリズさんは恋する乙女と言ってもいいくらい甘い声と表情だ。
「指輪が出来たんだ」
「本当ですか!? おお、線が三本光ってますね」
リズさんが浮かび上がらせた線は消えていて無地なのに、春野には見えているらしい。スゲー。
「どんな効果になったんですか?」
「普段の生活には役立たない。そもそも私達は最強の夫婦と言っても過言ではないのだから、便利機能なんてあってないようなものだ」
「ですね」
本当に二人の会話は面白いな。最強の夫婦とか真顔で言えるんだもん。
リズさんは視線を少しだけ俺に寄越して微笑んだ。
言うぞと、決意を知らせてくれているのだ。
俺は親指を立てて応援した。
「来世も私と出会って結婚してくれるか」
「え」
「そういう効果を付与した。お前はそれでもこの指輪を式で使うか?」
春野は言葉で返事をするより先に、リズさんの肩を掴んでキスをしていた。
衝動的としか言えない速度だ。やっぱり春野は喜んでいた。
城の公園で過ごしている魔物達がヒューヒュー囃し立て、盛り上がる。
あれ、春野なんか身長伸びてる?
まだリズさんの方が高いけど、もうあんまり差がない。
リズさんが春野の首に腕をまわして更に深くキスを続ける。
春野もリズさんの背中や腰に手を滑らせて官能的になってきた。
オーディエンスも増えている。
式の前から盛り上がっているなぁ。
「さあ、ヤマサト君の護衛を交代しよう」
「よっ、グラハム」
「私達は城内をまわろうか」
俺の後ろから肩に手を置き、グラハムは移動を提案してくれる。
「勝手に移動していいのかな?」
「もう二人は私達なんて見えていないよ」
「それな」
グラハムの言葉に納得しかなかったので、さっさと俺はその場を後にした。
0
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる