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【最終章】魔王を護る黒騎士
十一話 上位悪魔ブルガーの恋の決着
しおりを挟む俺は上位悪魔のブルガー。
あまりにも強大な魔力を持った悪魔が誕生したため、監視の任に当たる事になった。
まだ生まれたばかりの悪魔なのに、歴代最強と言われている現魔王に迫る力だった。
最初のシンクロテストで全ての対象を肉塊も残さず血飛沫に変えたそうだ。
前代未聞の事件だったらしい。
俺はその悪魔の教育係となって、今後の扱いを決める立場になった。
自分で言うのもなんだが、俺は悪魔内でとても優秀な成績をあげている。
魔力は人間より少し多い程度。
その範囲は最も操れる対象が多いため重宝される。
危うきに近寄らず、徹底的に己の出来る範囲のみで仕事をしてきた。
人間社会に入り込み、疑心暗鬼を生み出し、魔女狩りや戦争の火種を生み出すのが得意だ。
一般的な悪魔は村を蝕む程度だが、俺は国単位で動かす事が出来る。
しかし、勘違いしないで欲しい。
無いものを生み出す事が出来るのは神だけだ。
俺はその者が持つ心を揺らすだけ。
ただそれだけなんだ。
種族的な特徴とはいえ、そんな事をしてきたツケなのだろうか。
まさか自分が同じように魔剣に操られる事になるなんてね。
◇◇◇
「クラウン、俺はブルガー。君の教育係だ」
「ブルガー……」
危険な悪魔の名前はクラウン。
力が強すぎて神くらいしかシンクロできないという恐るべき存在。
下手な事をすれば大量殺戮を引き起こしかねない。
神を狂わせて、沢山の世界を崩壊させる可能性すらある。
「よ、よろしく……お願いします」
上目遣いに挨拶する姿は、魔力に関係なく人を狂わせる可愛らしさがある。
傾国の美貌まで備わってしまっているのか。
どう扱っていくかは、かなり慎重に考えなければいけない。
「敬語はいいから。もっと気さくに話そうよ、早速一緒に人間の世界を見てみないか?」
「うん、行きたい!」
クラウンは膨大な魔力を持っているせいか、少食だった。
あまり負の感情を摂取し過ぎると気持ち悪くなるらしい。
空から町を眺める程度で満腹になる燃費のよさは羨ましい。
気分が悪くなっても大丈夫なように、俺が抱っこして、空中散歩するのが日課となっていた。
「ブルガー」
「ん?」
「我は立派な悪魔になれるだろうか」
正直難しい。悪魔の社会ではクラウンは落ちこぼれの部類だ。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
その力を活用できる仕事を、情けないことに俺は思い付いていなかった。
もしくは意図的に考えていなかったのかもしれない。
「そうなれるように俺がいるんだよ」
「そっか……我も頑張る。頑張って、ブルガーに喜んでもらいたいな」
俺を見上げる笑顔が眩しい。
クラウンは素直で、向上心もあって、魅力的だった。
悪魔同士で効力がないはずなのに、魅了されていくのを感じる。
好きになってしまう。
認めたくはなかったが、いつしか完全に恋に落ちていた。
小さかった体も、俺ほどとは言わなくても高身長になった。
顔付きも、体格も男らしくなり、美しさが際立っている。
悪魔としては目立ち過ぎるが、どの世界でも好まれる容姿となった。
それに何故か胸がざわついた。
誰にも見せたくない。
そんな感情が消したくても消えずに心の奥底に残っていた。
俺が会いに行けば全身で喜んでくれる。
ブルガーは凄いと褒めてくれる。
抱きしめて温もりを与えてくれる。
仕事で人間の醜さを見続けていた俺の唯一の癒し。
悪魔なのに誰かを騙すなんて考えもない、真っ直ぐな心を持っている。
本来なら、狡猾さや悪事を教えなくてはならないのに、俺はそれをしなかった。
立派な悪魔になりたいというクラウンを裏切ったのだ。
悪魔の社会に染まらなくてもいいんじゃないかと考えるようになっていた。
もっと違う形でクラウンを幸せにしたいと思った。
彼を大切にしてくれる存在が現れるまで、俺が守ろうと心に誓った。
俺はクラウンのように美しい心を持っていないから、自分がクラウンの大切な相手になる気はなかった。
いや、なれないのだろうと勝手に諦めていた。
だから、その想いに封をしていた。
大事にし過ぎて、俺はある事件を起こしてしまう。
俺に恨みのある悪魔が、クラウンを唆した。
クラウンに精神干渉を俺に使うように仕向け、俺は瀕死となった。
死の淵を彷徨った事は別に問題ではない。
問題なのは、俺が瀕死となったせいでクラウンが傷付いた事だった。
以来、クラウンは完全にふさぎ込んでしまった。
クラウンは自らを責め、俺に嫌われたと泣いている。
どれだけ否定し、普段通りに接しても、クラウンは笑わなくなった。
クラウンの未熟な精神干渉は、俺の中にクラウンの感情も記憶も全て流れ込んで来た。
そのお陰でクラウンが俺に好意を抱いている事も、だからこそ甘言に乗ってしまった事も知っている。
クラウンが俺の事を好きだと知った時の喜びは想像を絶した。
だからなおのこと、唆した相手を許せなかったし、俺自身の弱さも許せなかった。
動けるようになってから、周りの邪魔者は全て排除した。
殺してはいない。死んだ方がマシだという状況で生かしている。
だが、そんな事でクラウンの心の傷は治らない。
俺が弱いから。
クラウンが傷付いたのには俺にも原因があるのだ。
もっと俺に魔力があれば。強さがあれば。
今まで一度も思った事はなかったのに、そう願った。
◇◇◇
「な、な、な……ブルガーは、我が、我が、すすす好きだという事を、し、し、知って……」
「ごめんね、ずっと黙ってて」
「それなのに何故、我がブルガーから逃げると思ったのだ」
「俺自身、自分の仕出かした事がおかしいとわかっていたからだよ。仕事を与えないのも、悪魔らしい行動や知識を教えないのも、外に出さないようにしたのも、いつ嫌われてもおかしくないからね」
お互いに拗れ、捻れていた糸を解いていく。
いつの間にか迎えの三人がいなくなっていたけど、心遣いに感謝してベッドに腰掛けながら、ゆっくり今までの事を包み隠さずクラウンに話した。
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「俺も本当は逃げて欲しくないから、遠回しな言い方になった」
少しの沈黙の後、お互い笑い出した。
自分も久し振りに心から笑ったし、クラウンの笑い声を聞いたのもどれだけぶりだろうか。
ひとしきり笑った所で、クラウンがおずおずと俺に言った。
「お願いがあるんだが」
「なあに」
俺はクラウンの艶のある黒い髪に触れ、頬を撫でる。
くすぐったそうにしながらも、ハッキリと告げた。
「ちゃんと、口付けをしたい」
可愛いことを言う。
眠り薬を飲ませた時はキスとも言えない。
身体を繋げた時はキス自体していなかった。
意思に反して暴く行為をして、キスを得る資格がないと思っていたから。
「うーん」
「嫌、なのか?」
悩む素振りを見せると、クラウンが目に見えて気落ちする。
その表情が見たかったなんて、本当に俺は性格が歪んでいる。
少しだけ自己嫌悪したが、悩むのも嘘ではなかった。
「キスだけで終わらせられないけど、いいの?」
そう言ってクラウンの太ももの内側に手を滑らせる。
負の感情を糧にしている悪魔は飲食をしない。
だからここは人と同じ作りだが、排泄ではなく、完全に快楽を得るためだけの器官となっている。
クラウンは小さく体を震わせ、反応を示す。
そして俺の手にそっと手を重ねた。
「何度も言うが我はブルガーのモノになるのが嬉しいんだ。キスだけで終わる方が困る」
言い終わるやいなやクラウンは立ち上がり、自ら衣服の裾を静かに持ち上げ、下腹部を晒した。
その動きには優美さがあり、全く下品さを感じない。
それどころかこちらが施しを受けているような気分になる。
「ブルガー、我が欲しくないのか?」
挑発するように、低く囁く声。
ビリビリと全身に甘い痺れを感じた。
妖艶に弧を描く唇が艶を持って、俺の視線を釘付けにする。
「……欲しい」
俺自身のゴクリと唾液を飲む音が頭蓋に響く。
クラウンの緩く開いた唇から覗く舌と、美しい肢体を見せつけられ、その直接的な誘いに俺の理性は瓦解した。
俺は、クラウンが本当に一人前の悪魔なのだと、否応なしに理解させられたのだった。
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