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【最終章】魔王を護る黒騎士
七話 黒騎士ユタカと魔剣グラハム
しおりを挟む『君と喋ったのは久し振りだね、ユタカ君。私は魔剣グラハム』
ブルガーの体で、グラハムは胸に手を当ててお辞儀をする。
気障な感じ。
相棒とまで言わなくても、そこそこ付き合いの長い奴に敵対されてちょっと寂しい。
でも起きたことは仕方ない。
俺は穴の空いた肩を押さえながらグラハムを見る。
「いや、あれは喋ったとは言わねーだろ。なんとかを捧げよって言って、結局俺はお前に何を捧げたんだ?」
そう言うとグラハムは一瞬キョトンとした後に、やべぇ、みたいな顔をした。
『えっと、欲望……だったかな……魂の源、だったっけ……?』
マジトーンで悩んでるんだけど、大丈夫か。
しばらく首を傾げながら考えていたが、すぐに諦めたようだ。
『台詞は覚えてないけど、貰ったのは魔力だよ、それは間違いない。いやぁ、御免ね、私も年齢のせいか記憶力に自信がなくて』
「そ、そっか」
隣の市に住んでるじいちゃんを思い出してしまう。
グラハムは確かに年齢いってそうな声はしてるけどさ。
『いやぁ、ユタカ君の魔力量には驚いたよ。沢山食べさせて貰ったお陰でもう誰かの体を借りる必要もなくなりそうだ』
「じゃあさっさとブルガー返してくんない?」
『まあ慌てるなよ、私だってね、おめかしの時間くらい欲しいじゃないか』
そう言ってブルガーの体はまた剣を俺に向ける。
今度は伸びるのではなく、魔弾が放たれた。
雹くらいの大きさの弾が次から次へと俺に向かって来る。
流石にもう油断はしていないので上手く避けられたし、一定距離を保てばそれ以上の追撃はなかった。
どうおめかしするのかわからないが、時間をくれるなら俺もありがたい。
刺された肩がめちゃくちゃ痛いんだよ。
自分で回復はできないけど、神の力を包帯みたいに体に這わせて応急処置はできた。
出血はすぐに止まって、痛みも和らいだので、そのまま拳に力を集めて攻撃準備をする。
「一応確認するけど、ブルガーがモラハラ野郎になってんのはお前のせいか」
『半分正解だな。私もねぇ、人格そのものを変えるなんて出来ないんだよ。ただ、相手の持っている欲望を増幅させてしまうのが魔剣の宿命なんだからしょうがないね』
「そういうもんならしょうがねーな」
生まれついたものを否定しても意味はないから頷いた。
俺の返事にグラハムは笑い出す。
『ワッハッハッ! さすがユタカ君だ』
「もしかして俺もお前の影響受けてた?」
『まあ、少しだけだねぇ。ユタカ君は歴代でも最も影響が少なかったと言える』
異世界の勇者の魔力のお陰かな。
歴代ということは、魔剣の持ち主は沢山いたという事だな。
そいつらはどうなったのだろう。
「お前はブルガーを使って何をする気だ」
『別に何って事はないよ。そうだなぁ、強いて言えば持ち主を破滅に導くのが魔剣なんだから、その役割を果たしているだけかな?』
そういや持ち主って俺なのかブルガーなのかどっちだ?
まあいい、どうにせよそんな理由なら、俺も遠慮なくグラハムを倒せる。
「結構グラハムの事気に入ってたんだけど、な!」
神速でブルガーではなく、魔剣を直接折りに行く。
刃に拳をぶつけ、ガァンと凄まじい接触音がして火花が飛んだ。
しかし確実に攻撃が当たったはずなのに、ダメージが通った気配はない。
「全然効かない!?」
『フッフッフ、私が持っているのはユタカ君の魔力だからね。触れても自分の魔力だと大部分は融合しちゃうんだよ』
「そっちの攻撃は効くのにかよ!」
めんどいな。なんか理由があるんだろうけど。
すぐにブルガーの体が慣れた手つきで魔剣を振るう。
動きは大きいのに、素早い。
一刀両断されそうでヒヤヒヤしながらも、あえて避けずに拳で弾いていく。
『おっと、思い切りがいいねぇ』
「まあな!」
直接魔剣に触れ、なんとなくわかった。魔力の色が違うんだ。
俺に攻撃を当てる時、絶妙なタイミングで別の魔力に切り替えている。
防御は俺の魔力で。そして攻撃は別の魔力。
「俺にもできる」
それなら俺も別の魔力を持っているから真似できる。
リズ様の魔力を借りればいい。
俺の方からだと、俺の魔力、神の力、リズ様の魔力、という配置で魔力を共有している。
普段、神の力は隣り合っているから頻繁に借りているが、リズ様の魔物としての魔力を俺が使う事は基本的にない。
そこまで引き出してしまうとリズ様がほとんど無力化してしまうから。
でも、今は側にレジィがいるから大丈夫なはずだ。
「リズ様、魔力の全てお借りします」
俺の拳の光が真っ黒になる。
「神速」
刃に拳を叩き込む。
瞬間にバリンとガラスみたいに割れ、キラキラと輝きながら消えていく。
そのままブルガーの手から魔剣自体が消えていった。
「やったか!?」
言った瞬間に、フラグってやつによくある言葉だと思った。
ブルガーが、グラリとこちらに倒れ込んできたので抱きとめる。
意識はないけど生きているようで良かった。
「いやぁ、危ない。おめかしが間に合って良かった良かった」
その声は、さっきまでブルガーの口を通して聞こえていた低いよく通る渋い声だった。
声の方を見ると、五、六十代くらいのたっぷりと髭を口元に蓄えた男だ。
オールバックにしたそこそこ長めのグレーの髪と肩にかけてる上着が風に揺れている。
イーグル程ではないが、かなり体格がいい。
「グラハムか」
「ムッフッフ、そうだよ、良い男だろう?」
ドヤ顔で言われたその言葉を否定する要素はないけど、頷いてやる必要もないので無視することにした。
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