【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【最終章】魔王を護る黒騎士

五話 黒騎士ユタカの魔剣との出会い

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「よっしゃ、行くか……っうわ!?」


 魔界を出発しようとしたら、突然手甲から魔剣が飛び出してきた。
 そういや最近ずっと素手で攻撃してたしなぁ。
 こいつも最初の黒騎士時代からの付き合いだから活躍したいのかもしれない。


「この鎧にはお前が一番似合うよな」


 ◇◇◇


 魔剣との出会いは、リズ様の騎士になりたくて形から入ろうと、装備をかき集めていた時だ。
 その時はまだ魔法の使い方もわからなかったから、魔王城から店のある所へ行くのは難しかった。
 魔法なら一時間でも、走ったら三日はかかる。それでも普通の人間が移動するよりだいぶ速いけど。
 だから買い物を諦めた俺は、アイテム狙いで魔王城近辺の洞窟とか廃墟を走り回った。


 昔、誰かが使っていた物なのか、持ち主が死んで埋められたのか、とにかく少し土を被った鎧一式が見付かった。
 一応、その場で手を合わせてから掘り出して、川で綺麗にしてから装備してみた。
 サイズはちょっと大きいけど、着れたから問題ない。
 その時は黒い鎧が見付かってラッキーくらいにしか思ってなかったけど、リズ様の魔力に触れていたから黒く変色していたんだろうなと今ならわかる。


 これで黒騎士に近付いたと喜んでいたら、森で何かに呼ばれた気がした。
 異世界では妖精やら不思議な声と現象にはそこそこ出逢う。
 慣れつつあった俺は、その気配に呼ばれるまま声の方向へ向かった。

 茂みを掻き分けた先には、剣が地面に刺さっていた。
 なんかゲームのパッケージとかで見たことある感じ。


『力を求めるか』


 そんな声がハッキリと聞こえた。
 驚きはしたけど、この世界はこういうもんだと理解もしていた。


「んー、まあ欲しいかな?」


 俺は曖昧に答えた。
 その時は力がどれだけ重要かも知らなかったし、ぶっちゃけ当時の俺は色んな事にやる気がなかった。
 唯一の目的があるとすれば、リズ様に近付く事。
 力というか、単純に黒騎士っぽい色をした剣が欲しいとは思った。


『求めるならば魔剣を抜け、そして──を捧げよ』
「え? なんて?」


 よく聞こえなかったから聞き返したのに、それからうんともすんとも言わなくなった。
 かといって他に良い剣なんて手に入るかもわかんないから、俺は迷わず抜いた。

 特に苦労する事もなく抜くことができたけど、体から何かが吸われたような感覚がしてちょっと疲れたかな、という印象が残っている。

 抜いた時は普通の銀色の刀身だったけど、俺が持ったら紫色になった。
 黒の鎧に合う禍々しい色に、妙にテンションが上がった。


「あははは! すげぇ、望んだ通りだ!」


 案外簡単に装備が揃って、まるで世界が俺に黒騎士になれと祝福してくれているみたいで嬉しくなった。
 突如、自分が万能にでもなった気分になり、気が大きくなったように思う。


 これで魔王様の側にいられる。
 そしていつかは俺を好きになってもらう。
 いや、好きになってもらう必要があるのか?
 魔王様を力で捩じ伏せて自分のモノにしてもいいんじゃないか。
 勇者なら、それも可能なんだよな。


 そんな危ない思いが次々と脳に浮かんで頭を振る。


「いやいや、さすがにそれは……」


 俺はこんな考えをするようなタイプだったか?
 いや、初恋の暴走か?
 有り得る。
 まあいいか。


 何故かそう納得したような気がする。


 ◇◇◇


「俺も成長したな!」


 なんか改めて思い返すと、魔剣との出会いに違和感があったけど、そんなのは些細なことだ。
 結果良ければ全て良し。リズ様と結婚できたし。
 俺の望みは完璧に叶えられている。

 まあ、それから子供っぽい感情に振り回されて、周りに迷惑をかけまくったけど、覆水盆に返らず。
 後悔するより、これから先も皆に感謝して、やれる事をして返していくしかない。


「どうしたのですか、ユタカ」
「あ、ごめん。感傷に浸ってただけ」


 双子に心配されてしまった。
 慌てて転移に必要な魔力を集めて双子に渡し、魔獣界への道を開いてもらう。
 俺は場所を知らないので、双子がいなければ向かう事すらできない。
 魔方陣が足元に発現し、光に包まれた。


 目を開けば、もうそこは俺の知らない世界だった。


 切り立った崖が多く、普通に歩けるような道がなさそうだ。
 ゴツゴツとした岩肌が地面全体を覆っている。

 それでも、植物は見事に緑を主張しているんだから凄いと思う。
 岩をも砕いて根付く木もあれば、根でヒョコヒョコ歩いて移動している花もある。

 崖や岩肌には、まるで壁に引力でもあるかのようにスイスイ歩く山羊みたいな魔獣がいた。
 地球の山羊も顔が怖いけど、魔獣はその五倍は怖い顔をしている。
 目が五つ並んでいるだけでも迫力なのに、口が異様にデカい。
 俺なんて一口で呑まれそう。

 空には地球で襲ってきた鳥型の魔獣が飛んでいる。
 今は全くこちらに目もくれず優雅に空中遊泳だ。

 滝が流れている部分では、イッカクのミニ版みたいな小さい生物が大量に上へ上へ泳いでいる。

 魔界は静かだけど、魔獣界はそこかしこで音が響いている。
 水音も、岩を砕く音も、風を切る音もよく聞こえて賑やかだ。


 勿論、魔獣の鳴き声も。


 ギャオオオオゥ!


 低いのか、高いのかもわからない気味の悪い声が響いた。
 さっきまでただそこで生活していた魔獣が苦しそうにもがいた。
 しかし、それも直ぐに治まり、こちらを睨みつける。
 その目は赤く血走っている。


「精神干渉でしょうね」


 あの様子はリズ様でよく見たから、リエールの呟きに俺もすぐに納得する。


「ってことは悪魔が」
「俺の事かな」


 ハッとその声の方を見ると、長身だけど、印象の薄い短髪の男がいた。
 コウモリみたいな翼を見たら、悪魔であるのは疑いようがない。


「お前がブルガーか」
「そうだよ、クラウンが世話になったね」


 ニコリと微笑むその姿は、誰もが良い印象を抱くだろう。
 しかし、直ぐにそれは変化した。


「俺からクラウンを奪おうとする奴は消えて欲しいな」


 そう言ったブルガーからは、さっきまでの笑顔が仮面だったかのように表情が抜け落ち、俺達への憎悪だけが滲み出ていた。

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