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【第五章】勇者を助けに異世界へ
十七話 神レジャンデールと神リスドォル
しおりを挟むレジィは神界で、ず~っと一人で肉体と戦闘技術を鍛えていたんだよ。
森で特訓したり、川で特訓したり。
そしたら、チラチラ視界に別の神がいる事に気付いたんだよね。
真っ黒な長い髪に目を引かれてその神を眺めてたら、地面に這いつくばったり、草を口に入れたり、木に登ったりしてた。
もうビックリだよね、すんごく綺麗な外見からは想像してなかった奇行に、思わず声をかけちゃった。
「何してるの?」
「植物を調べている」
「何かわかった?」
「この草は案外食べられる」
自然と差し出されたからつい受け取っちゃったんだよ。
なんとなく食べなきゃいけないと思って、口に入れちゃった。
そしたら苦味と酸味が強烈だったから叫んだよね。
「まっず!!」
「誰も美味いとは言っていない」
「えー!? そうだけど! 期待しちゃったじゃん!」
吐き出すのもなんか嫌だから頑張って飲み込んだけど、涙が出たよ。
そしたら今度は赤い小さい実をレジィに渡してきた。
「食べ切ったご褒美だ」
「今度は何!?」
「いいから食べろ、美味いぞ」
今度は言質がある。マズイ時はチョップしてやるんだから。
そう意気込んだけど、食べたら本当に美味しかった。
「あまーい! ジュワって甘さと美味さが広がる!」
「それ単体では味がしないが、さっきの草を食べてからだと何故か甘くなるのだ」
「へぇ、スゴーイ! 面白いね!」
「だろう? 私はこういった研究が好きなのだ」
そう微笑んだ神はリスドォルと言った。
それからレジィとリスドォルはどんどん仲良くなっていったんだよ。
「リスドォル、今日は何してるの?」
「世界を見ている」
「それ面白い?」
神の嗜みとでもいうのか、みーんなやってる世界創造。
何がそんなに楽しいのか、見せ合って評価をつける大会まで存在してる。
レジィは戦いの方が好きだからまだ自分の世界は持ってなかった。
あと世界を持ってないのは魔道具研究に没頭してるグリストミルくらいじゃない?
レジィの興味の無さは想定内なのか、リスドォルは笑ってた。
「面白いかどうかは自分次第だろう」
「じゃあリスドォルは何に楽しみを見出だしてるのさ」
世界にも植物は育つから案外リスドォルには相性がいいのかも。
人間を排除した森林世界にでもしてるのかな。
なんて考えていたら、予想は見事に裏切られた。
「魔力を封印した。魔法の存在しない世界にしてみたのだ」
「ええ!? そんなの絶対生物が生きられないよ!」
魔法は神からの贈り物なのに。
魔力はすべての源なのに。
それをなくしてしまったら、無力な生き物たちはすぐに死んじゃうよ。
リスドォルは恐ろしい事を考えるね。
世界が一体どんな酷い有様になっているのか気になった。
リスドォルは少し横にズレてくれて、レジィにも見せてくれた。
「えっ……スゴイ!」
「ふふ、魔法なんてなくても大丈夫だろう?」
どの生物も魔法が使えなくても元気に生きている。
攻撃手段を得ているし、攻撃手段を持たないものは逃げたり、守りを強化している。
道具を活用する速度も凄まじい。
それぞれの生物の変化も早いようだ。
魔法のある世界はこんなにも生物に種類は無い。
全て魔法で対処できるため、進化の必要があまりないからだ。
大体決まった形の生物でテンプレート化する。
しかし、リスドォルの世界には多種多様な生物が溢れていた。
「これ、品評会に出すの?」
「いいや。私はただ見ていたいだけなのだ。競争するつもりはない」
「えー!? 絶対優勝できるのにぃ」
もったいないと文句を言っていたら、リスドォルはレジィに言った。
「レジャンデールが創ればいいだろう。世界の魔力の封じ方を教えるから、自分で優勝したらいい」
「教えてくれるの!?」
「きっとレジャンデールなら優勝できるだろう。私の分まで頑張ってくれ」
「えへへ、頑張る! 二人の共同創造世界になるね~楽しみだね!」
「ああ、お前の世界を見るのが楽しみだ」
レジィは早速、お家に帰って世界を創った。
あとは明日、リスドォルに魔力を封じる方法を教えて貰えば完璧だ。
人間と自然が上手く共存して、リスドォルが見ていて楽しい世界がいいな。
レジィの世界、好きになってくれるかなぁ。
次の日。
期待に胸を膨らませながら、いつもの待ち合わせ場所に向かった。
でも、誰もいなかった。
そもそもレジィは何でここにいるんだろう。
なんで世界を持っているんだっけ。
そうだ、品評会で優勝するんだ。
なんで?
でも、優勝したら嬉しい。
誰が?
◇◇◇
「……こうしてレジィは戦いから退いて、自分の世界を育てる事になったのでした」
「記憶は無くなっても親友の誓いを忘れなかったのですね」
ファリーヌにレジィのこれまでの話をしていたら、あっという間に時間が過ぎちゃった。
イーグルが美味しいご飯を用意してくれるし、リスドォルのお家は最高だね。
「レジャンデール様が次にリスドォルと出会った時には魔王になっていたと」
「そうだよ!」
魔界に行くと、何故かすぐに会えた。
レジィだけじゃなく、リスドォルも会いたいって思ってくれてたのかな。
そうだといいな。
「しかしもう、魔王もレジャンデール様も記憶が戻ったのでしたら、世界をリセットして新しく『魔法のない世界』をお創りになられたら良いのに」
「ううん」
レジィは首を横に振って否定した。
ファリーヌの言う事もわかるよ。
でもね、大丈夫。
「魔法のない世界も良いけど、今はレジィの世界も気に入ってるの」
だってね、リスドォルが自分からメルベイユに遊びに来てくれるんだよ。
リスドォルに楽しんでもらいたかった願いは達成できたと言えるよね。
それにレジィの世界でリスドォルに友達ができたんだもん。
フランセーズとデュラムのお陰で、レジィの世界を好きになって貰えたと思う。
リセットなんでできるはずない。
「今のままでも、リスドォルとレジィの共同創造世界だし」
レジィのせいで、辛い思いをさせた人間は沢山いるけど、人間って強いなって思った。
もう二度と世界には手出しをしないよ。
フランセーズがまとめ上げる世界を見てみたいから。
「では、今後の品評会で優勝を目指すつもりは?」
「あるよ!」
今回は棄権したけど、次の参加は可能だからね。
でも見守るだけ。
剪定もしない。自然に任せる。
リスドォルがそう地球を育てたみたいに、レジィも生物を、人間を信じようと思うんだ。
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