【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【第五章】勇者を助けに異世界へ

十六話 英雄フランセーズは語り継がれる

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 魔王城での話し合いが一区切りつき、ユタカがデュラムに地球のお土産を渡しています。
 僕にもあるのかと気になり、ソワソワしてしまいますね。
 そんな僕に気付いたのか、ニコリと笑ってユタカが近付いて来ました。


「フランセーズにはこれな」
「わあ、とても小さい本だね」
「文庫本なら持ち運びやすいから」


 ブンコボンと呼ばれた本は手の平ほどの大きさで驚きました。
 こちらの世界では本は大きいのでとても珍しいです。
 持ち運びやすいとユタカは言いましたが、これを何も知らない人間に見られるのは良くないですね。
 厳重に城で管理する事になるでしょう。


「ユタカ……デュラムも心配してたけど、お金は大丈夫なのかい?」
「大丈夫だよ、それも子供の小遣いで買えるから。ちゃんと予算内で準備したって」


 数えると七冊もあります。
 これがそんなに安価で手に入る世界、いつか僕も観光したくなってきました。
 ユタカの故郷からすぐに帰って来たのは少し惜しい事をしたのかもしれませんね。


「王様が出てくる本にしたんだ。史実も創作も色々あるから」


 知らない世界の王がどのような道を歩んだのかとても興味があります。
 これからの僕の行動にも何か取り入れられるかもしれません。


「ありがとう、勉強する」


 勇者はどの世界の文字も自分のわかるものに翻訳されるようで、問題なく読む事ができます。
 一応パラパラと中を確認しましたが、地球の色々な国の王の名前があります。
 読むのがとても楽しみです。


「フランセーズはさ、リズ様の本をよく借りてたから読書が好きなのかと思って……これしか浮かばなかった」
「嬉しいよ。本も勿論嬉しいけど、ユタカが僕の事を見ていてくれた事がとても嬉しい」


 そう言って顔を見合わせると、お互い気恥ずかしくなって、少しだけ顔が熱くなります。
 しばらく笑い合っていると、横から凄まじい魔力の圧を感じました。
 おっと、魔王が睨んでいますね。

 出会ったばかりのユタカも、魔王を取られないか心配してこんな感じでした。
 似た者夫婦だと思います。
 ユタカは慌てて話題を変えました。


「これ、役立つかわかんないけどテリアなら使えるかなって。渡して欲しい」
「うわ、何この魔力量!」


 ユタカが僕の手に乗せたのは、この世界ではなかなか採れない魔石です。
 魔力濃度の高い所でしか見つからないのですが、そもそもメルベイユにはそんな場所が滅多にありません。
 希少価値が高いだけでなく、魔力に関する事全てに活用できるので、とても有用です。
 また管理が大変な物を渡されてしまいましたね。

 この魔力含有量だと、魔石一つで国が滅ぼせる大魔法を発動出来てしまうでしょう。
 それが今、僕の手に五つも転がっているのです。


「これさ、リズ様の自宅の周りにゴロゴロ落ちてるんだよ」
「あ……なるほどね」


 そういえばこの魔王城の周りでも、小さめの魔石が採れるようになっていたのです。
 てっきり初めからそういう土地だったのかと思っていましたが、魔王が住んでいたからなのですね。
 納得するしかありません。


「素材なら何かには使えるかなって。結婚祝いになりそうか?」
「なるよなるよ! テリアも喜ぶ。この魔力だけで何でも出来そうで怖いくらいさ」


 おどけた調子で言ってはみたものの、本当に恐ろしいです。
 戦争の火種になりかねません。
 テリアの魔法研究にしか使わないようにしましょう。

 そんな事を知る由もないユタカは嬉しそうです。


「結婚祝いなら私もこれを」


 魔王が木箱を二つ渡してきました。


「あ、さっきデュラムに渡してた果実だね」
「テリアと二人で食べるがいい」
「食べるとどうなるの?」


 求愛の証とは聞いたけど、具体的にどういう効果なのか気になります。


「催淫効果と、妊娠しやすくなるらしい」
「妊娠」
「人間にその効果があるのかはわからないが」


 一緒に暮らした事があるから、魔王が植物好きで、よく研究をしているのを知っているのです。
 そこである考えが浮かびました。


「もしかして、僕に試して欲しい?」
「うっ……か、可能なら報告が欲しいと思っている」


 魔王が珍しく、申し訳なさそうに視線が泳いでいます。
 その様子が面白くて思わず噴き出してしまいました。


「くっ……アハハハ、魔王でもそんなしおらしくできるんだね」
「毒性が無いのはわかっている。流石に危険な物を渡しはしないぞ。私だって遠くない未来に食べるのだからな。ユタカも食べたいと言っていたし」
「魔王必死過ぎ」


 少し早口になる魔王の言葉を止めました。
 ユタカは人間だけど妊娠する側ではないですもんね。
 デュラムはまだ食べるのは随分と先になるでしょう。
 となると、魔王の身近にすぐ使用できる人間は僕しかいません。


「これを食べる時に、擬似母胎魔法は使わなくていいのかい?」
「それも含めて調べたいのだが……」


 申し訳なさそうな態度ではあるのに、要求に遠慮がなくて面白いです。
 まずは擬似母胎魔法無しで妊娠可能か試して欲しいみたいです。
 もし魔法無しでも男性妊娠が可能になると歴史が動きそうです。


「ふふ、まあ、魔王には勇者にしてもらった恩があるからね」
「いいのか!?」
「そんな嬉しそうに言われたら断れないなぁ」


 僕もまだまだ忙しいので、国の再建が落ち着いたらという条件ではありますが、魔王の研究に付き合う事になりました。
 後日、魔王から大量の木箱が贈られて来たのですが、これも外に知られてはまずい物だと気付き、保管に困る事になりましたが良い思い出です。

 結果だけ言うと、歴史に残るくらい子宝に恵まれる事になり、僕とテリアは繁栄の象徴として、メルベイユで末永く語り継がれるのでした。
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