【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
86 / 152
【第五章】勇者を助けに異世界へ

十一話 悪魔クラウンの初仕事【後編】

しおりを挟む
 

 まさか神をも凌ぐと言われる魔王に喧嘩を売ろうとする存在がいるなど、我は想像していなかった。
 現魔王の力の強大さを考えれば、確かに悪魔内で我にしか出来ない仕事だ。
 こんなチャンスは二度と巡っては来ないだろう。


 しかし、我は召喚のコストが他の悪魔よりも圧倒的に大きい。
 悪魔は人間の一滴の血液程度で召喚できるが、我はそれこそ神の力程の供物が必要だった。
 活躍の場がほぼ無い上、召喚コストまで膨大だなんて本当に役立たずだと自分でも思う。


 それでも双子の魔神は我を喚んでくれたのだ。嬉しかった。
 そこまでして貰っておきながら、口下手とか言ってられない。
 我は双子の魔神のために悪魔として可能な限り、強そうに、尊大に振る舞って見せた。


 双子の願いは『魔王が大切な存在を自ら殺め、絶望させること』だ。


 久し振りに使う能力は怖かった。魔王も強そうで怖かった。
 だが、我は初めて自らの能力を全力で発揮することができ、魔王を操る事に成功した。
 双子の望み通り、魔王の大切な仲間にけしかける事もできた。
 我の悪魔としての仕事は完璧にこなせたと思う。


 だが、勢力図というのは日々変化しているらしい。
 魔王はあっさりと人間に拘束されてしまった。
 その人間は勇者の中でも一番幼いのに、魔王を組み伏せる事ができる特別な存在だったらしい。
 記憶を整理したらなんと伴侶でもあった。


 そのまま魔王は拉致されてしまい、双子は唖然としている。
 この状況は想定外だ。
 我は魔王に恨みはない。
 しかし、この双子には恩義がある。もう少しだけ頑張ろうと思った。


「貴様ら勇者の手には、この魔神にとって有益な情報があるのだろう」


 我はその場に残った二人の勇者にそう告げた。
 出来る限り虚勢を張り、声を上げる。


「我は魔王に干渉したことで様々な記憶を見たのだ。我を欺くことはできないと心得よ」
「へえ、それは話が早いね。その通りだよ」


 白い勇者が頷いた。
 双子は力無く顔を上げる。


「は……僕達に有益だと」
「そうだ」


 我は、久しく作れずにいた笑顔を双子に向ける。
 安心させたかった。上手く笑えただろうか。
 魔王と干渉して得たこの情報は、魔王を殺すより、よっぽど大きな収穫だった。
 きっとこれが本当の双子の願いだ。


「例のモノを……紅い勇者、貴様が持って来るのだ。白い勇者は人質だ。我は欠陥品ゆえ、神以外に干渉すると相手は弾け飛びミンチにしてしまう。そんな事故を起こしたくなければ早くしろ」


 白い勇者と目を合わせた事で、準備は整った。
 干渉直前で止めるが、白い勇者は頭を抱えて痛みに耐えるような動きをしている。


「ぐっ……デュラム、頼む」
「くそ、わかった、すぐ戻る!」


 紅い勇者はその場から飛び去った。
 我は安心して、こっそりと息を吐いた。


 もし本当に事故が起きても、相手が勇者なら死にはしないと思う。
 勇者の魔力は強いから、ブルガーの時のように血が噴き出す範囲で止まるはずだ。
 せっかく相手が我の情報を持っていないのだから、その情報の優位で脅すくらいは許して欲しい。


 双子は我の様子に驚いているようだった。


「悪魔、一体何が……」


 我は答えず質問する。


「そのレンズ、我の魔力を吸収できるか?」


 魔王の記憶によれば、グリという魔物になったグリストミル神は、魔力供給で人の形に戻せるらしい。
 レジャンデール神から奪った力を、我なんかに使ってしまった二人のため、返せる事があるとすればこれしかない。
 双子は訝しげに我とレンズを見つめる。


「それは可能だが……」
「では我の魔力を可能な限り吸収してくれ。そなたらの大切な者が魔力を必要としている」
「グリストミル様が!?」


 我はグーデの左手と、リエールの右手を握り、二つのレンズにしっかり触れる。


「死なない程度に我の力をレンズに注ぐ」


 二人は困惑の表情を浮かべながらも頷いてくれた。
 良かった。と思う間に、全身の力が抜ける。魔力がゴッソリ抜かれたのがわかる。
 崩れ落ちそうな我の体を二人が支えた時、紅い勇者が戻って来た。
 目当ての小さい魔物を抱えている。


「……勇者、それをこちらに」
「わかってるよ、頼むからもう俺らを襲ってくれるなよ?」
「その心配はない。これで魔神が魔王を恨む理由はなくなったはずだ」


 我は人質にしていた白い勇者を解放した。
 それを見た紅い勇者は魔物をこちらに連れて来て、そっと二人に渡してくれる。
 小さな魔物は嫌がる様子もなく、二人の腕に収まった。


「キュイ……」
「まさか、そんな」
「グリストミル、さま……?」


 双子の首の目は正直だ。既に涙を流している。
 何故か紅い勇者までグスグスと涙を流し始めてギョッとした。
 さっきまでの魔力枯渇の怠さが少し取れ、動けるようになった我はそっと二人から離れた。


「グーデ、リエール。それを元の姿に戻してやれ。勇者はそれで問題ないか?」
「ああ。ユタカに双子とグリを引き合わせてやれと言われていたからね」


 白い勇者がそう言うと、双子は気まずそうに口を開く。


「感謝する」
「謝罪は追ってさせてもらう」


 そう言って、レンズを小さい魔物に触れさせた。
 レンズは球体となって魔物の体内に吸収され、消えた。
 まばゆい光が魔物を包み、その光がどんどん大きく膨れ上がる。
 それは人の形になり、徐々に光の勢いがなくなっていく。
 光が消えると、そこには魔王の記憶にある、神の姿に近いグリストミルがいた。
 長身痩躯で、肉体派だった魔獣の時とは違った雰囲気がある。


「グリストミル様!」


 まだ完全に魔力も姿も定着していないため、グリストミルは双子に支えられて眠っている。
 早く落ち着ける場所で寝かせてやって欲しい。


「後始末は我に任せ、二人は早く神界に帰るが良い」
「しかし、悪魔、お前を最後まで守るのも契約だ」


 律儀だ。双子はただ真面目で真剣なだけなのだ。
 真っ直ぐ過ぎて周りが見えないのは、好きな相手のため。
 我は、愛する者のためなら何でもする双子を密かに尊敬していた。
 臆病な我にはできないことだから。


「我に戦闘意思はない。勇者はどうだ?」
「ないな。魔王とグリストミルが鉢合わせする方がよっぽど迷惑だよなぁ」


 紅い勇者がそう言うと、瞳を潤ませた双子が小さく『ありがとう』と呟いて姿を消した。
 白い勇者が我に声をかける。


「こっちとしては魔王を元に戻してくれたらそれでいいんだけど」
「ああ……それはもう終わったようだ。魔王に直接ユタカという者の魔力が流れ込んだことで改変も濯がれてしまったな」


 性交渉が最も自然に解除できるとよく知っていたな。
 人間とは侮れない存在である。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...