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【第五章】勇者を助けに異世界へ
十話 悪魔クラウンの初仕事【前編】
しおりを挟む我はクラウン。落ちこぼれ悪魔だ。
いわゆる引きこもりというやつで、ほとんど用がない限りは外に出ない生活を送っている。
悪魔は欲望や負の感情などを糧にしているから、ただ生きるだけなら努力せずとも何も困らない。
少し別の世界に顔を出すだけで空腹は満たされる。どこにだって欲望は転がっているからだ。全く足しにならない存在なんて天使くらいだ。
欲望に味の良さを求めるグルメな者は、サキュバスやインキュバスになったりする。
出世欲のある者は、契約社員の上位悪魔になって成績を競う。
それぞれ自由にやりたい事を選べるのは悪魔の良い所だ。
働かない事だって選べるのだから、我は本当に悪魔に生まれて良かった。
そんな何もせず、なんの価値もない我にも、心のよりどころが存在する。
兄のような存在である、幼なじみのブルガー。
ブルガーがたまに遊びに来てくれるのが、我の唯一の楽しみだった。
ブルガーは、好青年という評価がしっくりくる、短髪地味顔である。
ニコニコ常に笑顔で、誰にでも優しい。
どこに行っても好かれるが、少し離れればすぐに忘れてしまう、そんな存在感。
それは悪魔にとって、とても理想的な容姿と性格なのだ。
我はどちらかと言えば、少しだけ顔立ちが派手で、かなり変化しないと目立ってしまう。
悪魔の中でもあえて容姿を活かしてアイドルになって、直接欲望を集めるタイプもいるが、我には向かない。
口が上手いのが悪魔なはずなのに、我は口下手だからだ。
我が落ちこぼれであると自覚し、引きこもる切っ掛けとなったのはブルガーだった。
悪魔は幼少期、先輩悪魔が世話を焼いてくれ、能力を磨いてくれる。
我のパートナーはブルガーだった。
悪魔は同程度の魔力を持った相手に精神干渉がしやすい。
種族として最も数が多いのは人間だ。
だから、食事のメイン材料である人間に近い程、良いとされている。
つまり悪魔は、あまり魔力が高くない方が価値があるのだ。
それなのに、我の魔力は神に等しかった。
魔力に差があり過ぎた場合、相手を破壊してしまう。
人間だと風船が割れるみたいに、一瞬で弾け飛んでしまうのだ。
悪魔の精神干渉は、魔法ではなく、シンクロする能力なため、調整ができない。
その代わり、強力で、成功すれば痕跡も残らず、対象に健康的な被害を出す事もない。
ひっそりと人間のコミュニティに紛れ込んで、長期間食事が得られるように、少しずつ破滅させるのに特化しているのだ。
仲の良かったはずのグループや村に、じわじわと不和が生じていたら、そこには悪魔が紛れ込んでいると思っていい。
悪魔は資源を大切にするから、直ぐに人間を殺してしまう者は落ちこぼれと評される。
我は、練習として干渉を試みた相手を全て殺してしまった。
落ちこぼれであるとハッキリ自覚し、落ち込んだ。
しかし我が落ちこぼれでも、ブルガーは優しかった。
気が付けば、ずっと側にいてくれたブルガーを好きになっていた。
それがどういう好きなのかはわからない。
実は今でもよくわかっていない。
友人としてなのか、家族としてなのか、恋愛としてなのかはわからなくとも、とにかく我はブルガーが大好きだった。
悪魔同士では精神干渉は効かないというのが通説だった。
まだ幼かった我は、あまり深く考えずに『ブルガーの好きな相手』を直接精神干渉で探ってしまった。
本当にただの興味本意だった。効かないとも思っていた。
運が良ければ知りたいという思いもあったが、悪魔同士ではやっぱり干渉できなかった、という事実を見たかっただけなのだ。
その場でブルガーは、全身の毛穴から血が噴き出した。
真っ赤に染まったブルガーが倒れた。
正直、その時の事はそれ以上よく覚えていない。
悪魔同士だったから、効果が薄かったお陰でブルガーは死ななかった。
死ななかったのも、ブルガーが高位の悪魔だったから耐えただけだ。
パニックになっていたから、探った結果を見る事すらもできなかった。
ただブルガーを傷付け、命を脅かしただけの最悪な出来事だ。
ブルガーには、ずっとずっと謝ったけど、干渉した理由だけは言えなかった。
大好きという気持ちで傷付けたなんて知られたら、怖がられると思った。
もう二度と会ってもらえないと覚悟したけど、ブルガーは何も変わらなかった。
我に世話を焼き続けてくれて、無理に外に出なくても悪魔は問題なく生きていけると教えてくれた。
そうして我は引きこもった。
ブルガーに嫌われなかっただけで、十分幸せだった。
それが変わったのは、突然訪ねてきた二人の魔神によってだ。
『お前の力が必要だ』と言ってくれた。
魔王に復讐したいから協力して欲しいと依頼されたのだ。
我は、二つ返事で契約を交わした。
もし、この仕事を成功させることができたら、教育係のブルガーにも良い評価が与えられる。
役立たずな我にも、ようやく活躍の時が来たのだ。
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