【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
85 / 152
【第五章】勇者を助けに異世界へ

十話 悪魔クラウンの初仕事【前編】

しおりを挟む
 

 我はクラウン。落ちこぼれ悪魔だ。


 いわゆる引きこもりというやつで、ほとんど用がない限りは外に出ない生活を送っている。
 悪魔は欲望や負の感情などを糧にしているから、ただ生きるだけなら努力せずとも何も困らない。
 少し別の世界に顔を出すだけで空腹は満たされる。どこにだって欲望は転がっているからだ。全く足しにならない存在なんて天使くらいだ。


 欲望に味の良さを求めるグルメな者は、サキュバスやインキュバスになったりする。
 出世欲のある者は、契約社員の上位悪魔になって成績を競う。
 それぞれ自由にやりたい事を選べるのは悪魔の良い所だ。
 働かない事だって選べるのだから、我は本当に悪魔に生まれて良かった。


 そんな何もせず、なんの価値もない我にも、心のよりどころが存在する。
 兄のような存在である、幼なじみのブルガー。
 ブルガーがたまに遊びに来てくれるのが、我の唯一の楽しみだった。


 ブルガーは、好青年という評価がしっくりくる、短髪地味顔である。
 ニコニコ常に笑顔で、誰にでも優しい。
 どこに行っても好かれるが、少し離れればすぐに忘れてしまう、そんな存在感。
 それは悪魔にとって、とても理想的な容姿と性格なのだ。


 我はどちらかと言えば、少しだけ顔立ちが派手で、かなり変化へんげしないと目立ってしまう。
 悪魔の中でもあえて容姿を活かしてアイドルになって、直接欲望を集めるタイプもいるが、我には向かない。
 口が上手いのが悪魔なはずなのに、我は口下手だからだ。


 我が落ちこぼれであると自覚し、引きこもる切っ掛けとなったのはブルガーだった。


 悪魔は幼少期、先輩悪魔が世話を焼いてくれ、能力を磨いてくれる。
 我のパートナーはブルガーだった。


 悪魔は同程度の魔力を持った相手に精神干渉がしやすい。
 種族として最も数が多いのは人間だ。
 だから、食事のメイン材料である人間に近い程、良いとされている。
 つまり悪魔は、あまり魔力が高くない方が価値があるのだ。


 それなのに、我の魔力は神に等しかった。


 魔力に差があり過ぎた場合、相手を破壊してしまう。
 人間だと風船が割れるみたいに、一瞬で弾け飛んでしまうのだ。


 悪魔の精神干渉は、魔法ではなく、シンクロする能力なため、調整ができない。
 その代わり、強力で、成功すれば痕跡も残らず、対象に健康的な被害を出す事もない。
 ひっそりと人間のコミュニティに紛れ込んで、長期間食事が得られるように、少しずつ破滅させるのに特化しているのだ。
 仲の良かったはずのグループや村に、じわじわと不和が生じていたら、そこには悪魔が紛れ込んでいると思っていい。


 悪魔は資源を大切にするから、直ぐに人間を殺してしまう者は落ちこぼれと評される。
 我は、練習として干渉を試みた相手を全て殺してしまった。
 落ちこぼれであるとハッキリ自覚し、落ち込んだ。


 しかし我が落ちこぼれでも、ブルガーは優しかった。
 気が付けば、ずっと側にいてくれたブルガーを好きになっていた。
 それがどういう好きなのかはわからない。
 実は今でもよくわかっていない。
 友人としてなのか、家族としてなのか、恋愛としてなのかはわからなくとも、とにかく我はブルガーが大好きだった。


 悪魔同士では精神干渉は効かないというのが通説だった。
 まだ幼かった我は、あまり深く考えずに『ブルガーの好きな相手』を直接精神干渉で探ってしまった。
 本当にただの興味本意だった。効かないとも思っていた。
 運が良ければ知りたいという思いもあったが、悪魔同士ではやっぱり干渉できなかった、という事実を見たかっただけなのだ。


 その場でブルガーは、全身の毛穴から血が噴き出した。
 真っ赤に染まったブルガーが倒れた。
 正直、その時の事はそれ以上よく覚えていない。


 悪魔同士だったから、効果が薄かったお陰でブルガーは死ななかった。
 死ななかったのも、ブルガーが高位の悪魔だったから耐えただけだ。
 パニックになっていたから、探った結果を見る事すらもできなかった。
 ただブルガーを傷付け、命を脅かしただけの最悪な出来事だ。


 ブルガーには、ずっとずっと謝ったけど、干渉した理由だけは言えなかった。
 大好きという気持ちで傷付けたなんて知られたら、怖がられると思った。


 もう二度と会ってもらえないと覚悟したけど、ブルガーは何も変わらなかった。
 我に世話を焼き続けてくれて、無理に外に出なくても悪魔は問題なく生きていけると教えてくれた。
 そうして我は引きこもった。
 ブルガーに嫌われなかっただけで、十分幸せだった。


 それが変わったのは、突然訪ねてきた二人の魔神によってだ。


『お前の力が必要だ』と言ってくれた。


 魔王に復讐したいから協力して欲しいと依頼されたのだ。
 我は、二つ返事で契約を交わした。
 もし、この仕事を成功させることができたら、教育係のブルガーにも良い評価が与えられる。
 役立たずな我にも、ようやく活躍の時が来たのだ。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...