80 / 152
【第五章】勇者を助けに異世界へ
七話 ユタカは新たな勇者誕生を見守る
しおりを挟むフランセーズもデュラムも元気そうで良かった。
テリアの攻撃もかなり効いてるし、今のうちに二人から力を貰おう。
「フランセーズはわかったけど、デュラムはいいのか?」
「ん? ああ、俺は子供らが守れる程度の強さがありゃ十分だし。勇者になる前からそれくらいの腕っ節はあったから大丈夫だよ」
こちらもあっさりである。
本来なら強大な力が必要ない世界が一番良いに決まっている。
過ぎた力を望む人間は少ないのかもしれない。
「じゃあ俺の腹に手を」
便利な魔力通路になってる俺の腹に二人が触れる。
金色の光がどんどん吸い込まれていく。
俺に、リズ様の神の力があるお陰でレジィとのやり取りも難しくない。
しっかり魔界にいるレジィに繋がっている。
「ユタカ、デュラムを掴め」
「え、はい」
リズ様がそう言うとガクンとデュラムの全体重が俺に掛かった。
フランセーズはしっかりリズ様が抱き留めている。
完全に二人から神の力が無くなった影響なのか、気を失ってしまったみたいだ。
「大丈夫なんですか?」
「健康には問題ない。今のうちに二人をまた勇者にするぞ」
「そう言うと思いました」
「自分の身は自分で守ってもらわないと足手まといだからな」
そういう建前ですね。
レジィに二人をよろしくと言われた時点で、リズ様は自分の神の力を二人に分け与えると決めていたんだと思う。
互いに記憶が無くてもレジィはリズ様のために頑張っていた。
リズ様もレジィのため、メルベイユのために出来る事はしてあげたいはずだ。
「常に強い魔力を持っていても、今回のように外部から狙われる事もある。テリアに渡した短刀のように、武器を所持している時にのみ任意で勇者になれるようにする」
「変身戦隊ものみたいでいいですね」
「私が魔王なせいでどちらかと言えばヒーローよりも敵の幹部だな」
そんな事を言いつつ、眠っているフランセーズの腕に真っ黒な聖剣が抱かれている。早い。
「真っ黒になった聖剣って英雄的に大丈夫なんでしょうか」
「心配ない、中央の宝玉に触れれば今までのデザインにもなる」
至れり尽くせり。ボタン一つで色が変わるペンライトみたいだな。
地球の知識が入ったせいなのか、考える機能が俗っぽくなっていくリズ様が面白い。
「フランセーズは聖剣でいいが、デュラムは普段から持てるように包丁にでもするか……」
「外でも使いやすいようにナイフの方がいいんじゃないでしょうか」
「では折りたたみとシースナイフどっちがいい」
「俺としてはデュラムが鞘に格好良くナイフを片付ける姿が見たいです。あ、二刀流とかどうですか?」
「ふむ、いいだろう」
本人の要望ではなく俺の要望でデュラムはシースナイフ二本になった。
そうこうしてるとデュラムが起きた。
「ん……なんかあんま変わった気がしねぇな……」
「今、お前の手にあるナイフが新しい勇者の証だ。普段は普通の人間だが、これを持って私に願えば勇者の力が発揮できる」
簡潔に説明を終わらせるリズ様にデュラムは苦笑いだ。
「勇者って言うより魔王の眷属みたいだな」
「その認識でも間違ってはいないな」
「ありがとな。守るものが増えた今、正直いざという時のために、この力はありがたい」
デュラムはナイフをギュッと握り、その手を見詰める視線の力強さに、それが本心からの言葉だとわかる。
数人の人間相手くらいならデュラムが言っていたように本当に問題はないだろう。
しかし武装した集団だった場合はただの人間では限界がある。
野盗や他国の軍からの襲撃は、この世界では珍しい事ではないんだ。
「あれ……僕は寝ていたのかい?」
リズ様の腕にいたフランセーズも目を覚ます。
直ぐにリズ様が説明を始める。
「フランセーズ、新しい聖剣だ。これでしっかり民を守るのだぞ」
「え、え? 何、なんで聖剣があるの? しかも真っ黒じゃないか……僕の心はいつの間にか汚れてしまった!?」
珍しくフランセーズが慌てている。面白い。
「そうではない、ベースが私の魔力だからそうなっているだけだ。ここを触ればお前の色に戻る」
言われるままフランセーズが試すと、いつもの白銀の姿が現れる。
「ああ、良かった……」
安心しているフランセーズにも、再び勇者となった説明をリズ様がする。
「事後報告になるが、この聖剣を通して私に祈れ。さすればこれまでの様に英雄として力を振るう事が出来るだろう」
「……ふふ、あんな事を聞いておいて、また勇者にするだなんて意地悪だなぁ」
そう言うフランセーズの声は柔らかかった。
「正直、とてもありがたいんだけど……これって、聖剣を握っている間だけなのかい?」
「いや、起動装置なだけだから手放しても問題はないが……」
「そう、ありがとう。助かる」
フランセーズが妙に真面目な顔付きで礼をした。
まあ剣を取り落とした瞬間に弱体化じゃ大変だもんなぁ。
そんなほのぼのとしていた時、まだ俺達が戦闘の最中にいた事を思い出した。
「魔王リスドォルッ!!」
「貴様だけは許さん!!」
激昂した声が聞こえ、大気が震える程の怒気だ。
それは魔神の声だった。あ、二人の男って双子なのか。そっくり。
ミステリアスさのある綺麗な顔立ちの、どちらかと言えば中性的な雰囲気のあるスラリとした姿は、筋肉を誇示するイーグルとは正反対なタイプだ。
首に並んだ目が双子の怒りを表すかの様に血の涙を流している。
「何で名指しなのだ……何で私なのだ」
リズ様は全く心当たりがない様子なのに、明らかに双子の目的が自分であるとわかった瞬間、その場で崩れ落ちてしまった。
「り、リズ様、今度お祓い行きませんか……?」
「ど、ドンマイ……塩でもかけるか?」
「僕も浄化の魔法をかけようか?」
思わず俺達三人は戦闘中である事も忘れ、口々にリズ様を慰めていたのだった。
0
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる