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【第五章】勇者を助けに異世界へ
二・五話 テリア×フランセーズ【前編】 -フランセーズ視点-
しおりを挟む「フラン、愛してる」
「ふふ、僕もだよテリア」
愛を囁きながら、互いに寝間着を脱ぎ捨てました。
なんとなく照れも残っていて、まだ下着は残しています。
ベッドに身を委ねる僕に、テリアは覆いかぶさってきます。
僕は少しだけ緊張していました。
王子という身分が無くなってから、僕は浮浪者と同じ生活をしていたのです。
危険な事も沢山ありました。
命を守るために奪った命も沢山あります。
消えない傷跡も僕の体には多く残っています。
勇者になってからの傷は元通りになりますが、その前についた傷はうっすら残り続けているのです。
そして、旅をして駆けずり回ってきた体は鍛えられ、テリアより肉厚です。
着痩せする方なので、もしもこの脱いだ状態がテリアの想定を越えていたら。
テリアがガッカリしたり、萎えてしまったらどうしようなんて考えてしまいます。
ですがそれは杞憂でした。
「フラン……綺麗だ、ずっとこうして直接触れたかった」
興奮気味に僕の肌に手を滑らせているテリア。
そしていわゆる“呪い”はどんどん凶悪さが増しています。
まだ直接は見ていませんが、下半身に擦り付けられている熱の塊の範囲が物語っています。
「あっ」
テリアが僕の胸の先を吸い上げ、甘噛みしました。
思わず声が出て、直ぐに両手で口を押さえます。
「フラン、君の色んな声が聞きたい」
お願いしているようでいて、有無を言わせずにテリアは僕の両手を外します。
なんだかテリアがいつもより強引です。
「恥ずかしい……」
「もっと恥ずかしい事をこれからするんだよ?」
「わかっては、いる……けど」
そもそも僕に恥ずかしいという感情があった事に驚きです。
魔王城で魔王とユタカと暮らしていた時に、湯浴みの交代で裸を見られる事は珍しくありませんでした。
城の掃除で汗をかいて暑くなったら上半身は脱いで作業というのも普通です。
なのにテリアを前にすると色々な事が気になって仕方がありません。
僕は、思っている事を告白しました。
「怖いんだ……」
「フラン?」
「行為が怖いんじゃない……全てを曝け出して、テリアにおかしいと思われたり、不快を与えてしまうのが、とても怖い」
自分にこんな臆病な部分があるなんて知りませんでした。
誰に何を思われても、僕は今まで前を向いてきたのに。
たった一人の視線や感情が気になってしまう。
テリアは硬い表情の僕に、何度も頬や額にキスをしてくれました。
「フラン……だから、僕と距離を置いていたの?」
僕はゆっくり頷きました。
いくら忙しいと言っても、普通の人間と違い、勇者の能力のお陰で移動にあまり時間がかからないのです。
飛べるし、本来陸路で三日かかる移動を数時間でできてしまうのだから、その分僕には時間があります。
でも、その時間をテリアにではなく別の仕事や用事に使いました。
「テリアは僕をずっと愛してくれていた。会っていない間ですら。もし、テリアの描いた僕と本当の僕に差があって、幻滅されたらと思うと、怖くて向き合えなかった」
言い終わると同時に僕の瞳からは涙が流れ落ちていました。
もしかしたら、泣くなんてもう十年以上経験がないかもしれません。
大切なものができるとこんなにも弱くなる。
テリアは僕を痛いくらい抱きしめました。
「僕は会えない間、ずっと心配してた。フランが過酷な状況下にいる事は幼ない時の僕でもわかる。もしも君に取り返しのつかない事があったらって、考えない日はなかったよ」
確かに、過去には危うく売られそうになるとか、襲われそうになる事が無かった訳ではありません。
ですが僕は死に物狂いで純潔を守りました。
もう効力がないような婚約であっても、悪しき者に屈しないための理由として大きな心の支えでした。
婚約者がいなければ、僕は抗う事なく諦めていたかもしれません。
「なんの証拠も出せないけど、僕は婚約者がいた身だよ。この身体を誰かに触れさせた事なんてない」
「……そうやって、いつも君は自分の事よりも僕の事を考えてくれていたんだね」
顔を上げたテリアは今にも泣きそうでした。
「君が一人で大変な時に何もできなかった僕を許さないで」
「え……」
テリアがそんな事を言う意味がわからなくて、僕は慌てて弁解します。
「許さないも何も、テリアは僕のためにずっと待ち続けてくれて、今だって多大な補助をしてくれているのに。感謝こそすれど、恨みや怒りなんて微塵も持ったことない」
「僕も、フランと会えてから幻滅したこともないし、むしろ劣等感だらけ。僕の方がいつ振られるのか怖かった」
互いに存在しない何かに怯え、恐怖していた。
それは紛れもない愛からくるものだった。
しばらく見つめ合っていましたが、テリアがふと表情を緩めました。
「ねえフラン。僕達は思い違いをしていたのかもしれないね、相手を想うあまり」
「そうだね……ごめん、こんなくだらない事でテリアを避けていたなんて馬鹿みたいだ」
「謝らないで。くだらないなんて、むしろ逆。フランが僕の事を愛してくれているからこその行動だってわかったら、もう寂しさとか全部吹き飛んじゃった。嬉しくてニヤけちゃうくらい」
僕達は改めて顔を見合わせます。
テリアは大きな瞳が特徴的で、吸い込まれてしまいそうな魅力があります。
ニヤけると言うより、その顔には花が咲き誇ったような笑みが溢れて、本当に嬉しそうでした。
「テリア。本当に今更だけど……ようやく僕達、ちゃんと夫婦になれた気がする」
僕は心からそう言えました。
やっと、少しだけあった心の距離が埋まったのです。
しかしテリアは意地悪そうに笑いました。
「ふふ……それは、これからが本番なんじゃない?」
そうでした、僕達はこれから肉体の距離を埋めるのです。
テリアが僕の唇に口付け、首筋にも、鎖骨にも同じように触れていきます。
また胸の先を啄まれて小さく身体が震えました。
「やっ……あ……」
「敏感だね」
「ち、違うよ、テリアだから、おかしくなってるだけ」
少しムキになって言うと、テリアはクスクスと上品に笑いました。
「そんな可愛いこと言ってくれるんだ」
「だって、テリアに淫乱みたいに思われたくない……」
自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。
初めての経験ですから、想像以上に僕は混乱しているようです。
「思う訳ないよ。むしろ初めてなんだなぁって実感してるくらい……」
「て、テリアは……初めてじゃ、ない?」
僕のいない間に何かあったかもしれないのはテリアだって同じです。
急に不安になりました。
青年としての凛々しさを持ちながらも、美少年と称しても良い容貌なのです。
今まで数多の誘惑があったに違いありません。
「ちょ、ちょっとフラン! 僕は呪いがあるって言ったでしょ!? いや、呪いなんてなくても君にしか興味ないんだけどね!?」
「後ろは……」
「処女です! もう、フランほどじゃないけど、僕は国一番の魔術師ですよ! そこそこ強いんだよ!」
そうでした。普段おっとりしていて温厚なので、見た目だとわかりませんがテリアは生きた魔術兵器とまで言われていました。
「もういい!? 続けるよ!?」
「うん」
ホッとしたのも束の間。
もどかしそうに下着を取り去ったテリアの呪いを目の当たりにしました。
「……え、それ、どうやって下着に入ってたの?」
僕は目を見開いて間抜けな質問をしてしまいました。
女性の上腕ほどの大きさのソレは、今まで布越しに感じていた大きさとは全く違っていたのです。
「衣類に……ほら、こんな感じで刺繍した魔方陣で視覚と触覚を平均化してるんだよ」
確かに、そうでもしないと目立ち過ぎてしまうでしょう。
呪いと言われても、普段からピッタリとしたパンツスタイルでも違和感がなかったので、あまり深刻に考えていませんでした。
しかしこれは、確かに呪いと言いたくなります。
「フラン……やっぱりやめておこうか?」
呪いを凝視して動かなくなった僕にテリアが不安げに声を掛けてきました。
いくら驚いたとはいえ、僕は反応を失敗してしまったと悟りました。
誰よりも呪いを気に病んでいるのはテリアなのに。
絶対に動揺を表に出してはいけなかった。
「いや、勿論するよ。しよう」
「無理しなくていいよ。すぐにする必要もないんだしさ。それに僕はフランに好かれてるってわかっただけでも今日は十分だし。また今度でもいいんじゃないかな、夜も遅いし、疲れてるよね」
「テリア」
こちらを見ずに早口で言葉を紡ぐテリアを制止します。
僕はテリアの顔に両手で触れ、じっと目を見つめました。
ここでやめてしまえば、テリアは二度と僕を抱こうとしないでしょう。
また今度、なんて日は来ないと察していました。
「驚いてごめん。パートナーである僕が支えなきゃいけないのに……不安にさせたよね」
「そんな……フランは何も悪くない」
「テリアだって悪くない」
僕はそう言うと身体を反転させ、テリアを押し倒しました。
元より僕の方が筋力は強いのです。
テリアは目を白黒させています。
「僕が、したいんだ。テリアと一つになりたい。抱いて欲しい」
「ふ、フラン……」
テリアの顎を指で上に向かせ、僕は唇と舌を激しく貪りました。
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