【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
74 / 152
【第五章】勇者を助けに異世界へ

二・五話 テリア×フランセーズ【前編】 -フランセーズ視点-

しおりを挟む
 

「フラン、愛してる」
「ふふ、僕もだよテリア」


 愛を囁きながら、互いに寝間着を脱ぎ捨てました。
 なんとなく照れも残っていて、まだ下着は残しています。
 ベッドに身を委ねる僕に、テリアは覆いかぶさってきます。
 僕は少しだけ緊張していました。

 王子という身分が無くなってから、僕は浮浪者と同じ生活をしていたのです。
 危険な事も沢山ありました。
 命を守るために奪った命も沢山あります。

 消えない傷跡も僕の体には多く残っています。
 勇者になってからの傷は元通りになりますが、その前についた傷はうっすら残り続けているのです。

 そして、旅をして駆けずり回ってきた体は鍛えられ、テリアより肉厚です。
 着痩せする方なので、もしもこの脱いだ状態がテリアの想定を越えていたら。
 テリアがガッカリしたり、萎えてしまったらどうしようなんて考えてしまいます。

 ですがそれは杞憂でした。


「フラン……綺麗だ、ずっとこうして直接触れたかった」


 興奮気味に僕の肌に手を滑らせているテリア。
 そしていわゆる“呪い”はどんどん凶悪さが増しています。
 まだ直接は見ていませんが、下半身に擦り付けられている熱の塊の範囲が物語っています。


「あっ」


 テリアが僕の胸の先を吸い上げ、甘噛みしました。
 思わず声が出て、直ぐに両手で口を押さえます。


「フラン、君の色んな声が聞きたい」


 お願いしているようでいて、有無を言わせずにテリアは僕の両手を外します。
 なんだかテリアがいつもより強引です。


「恥ずかしい……」
「もっと恥ずかしい事をこれからするんだよ?」
「わかっては、いる……けど」


 そもそも僕に恥ずかしいという感情があった事に驚きです。
 魔王城で魔王とユタカと暮らしていた時に、湯浴みの交代で裸を見られる事は珍しくありませんでした。
 城の掃除で汗をかいて暑くなったら上半身は脱いで作業というのも普通です。
 なのにテリアを前にすると色々な事が気になって仕方がありません。
 僕は、思っている事を告白しました。


「怖いんだ……」
「フラン?」
「行為が怖いんじゃない……全てを曝け出して、テリアにおかしいと思われたり、不快を与えてしまうのが、とても怖い」


 自分にこんな臆病な部分があるなんて知りませんでした。
 誰に何を思われても、僕は今まで前を向いてきたのに。
 たった一人の視線や感情が気になってしまう。
 テリアは硬い表情の僕に、何度も頬や額にキスをしてくれました。


「フラン……だから、僕と距離を置いていたの?」


 僕はゆっくり頷きました。
 いくら忙しいと言っても、普通の人間と違い、勇者の能力のお陰で移動にあまり時間がかからないのです。
 飛べるし、本来陸路で三日かかる移動を数時間でできてしまうのだから、その分僕には時間があります。
 でも、その時間をテリアにではなく別の仕事や用事に使いました。


「テリアは僕をずっと愛してくれていた。会っていない間ですら。もし、テリアの描いた僕と本当の僕に差があって、幻滅されたらと思うと、怖くて向き合えなかった」


 言い終わると同時に僕の瞳からは涙が流れ落ちていました。
 もしかしたら、泣くなんてもう十年以上経験がないかもしれません。
 大切なものができるとこんなにも弱くなる。
 テリアは僕を痛いくらい抱きしめました。


「僕は会えない間、ずっと心配してた。フランが過酷な状況下にいる事は幼ない時の僕でもわかる。もしも君に取り返しのつかない事があったらって、考えない日はなかったよ」


 確かに、過去には危うく売られそうになるとか、襲われそうになる事が無かった訳ではありません。
 ですが僕は死に物狂いで純潔を守りました。
 もう効力がないような婚約であっても、悪しき者に屈しないための理由として大きな心の支えでした。
 婚約者がいなければ、僕は抗う事なく諦めていたかもしれません。


「なんの証拠も出せないけど、僕は婚約者がいた身だよ。この身体を誰かに触れさせた事なんてない」
「……そうやって、いつも君は自分の事よりも僕の事を考えてくれていたんだね」


 顔を上げたテリアは今にも泣きそうでした。


「君が一人で大変な時に何もできなかった僕を許さないで」
「え……」


 テリアがそんな事を言う意味がわからなくて、僕は慌てて弁解します。


「許さないも何も、テリアは僕のためにずっと待ち続けてくれて、今だって多大な補助をしてくれているのに。感謝こそすれど、恨みや怒りなんて微塵も持ったことない」
「僕も、フランと会えてから幻滅したこともないし、むしろ劣等感だらけ。僕の方がいつ振られるのか怖かった」


 互いに存在しない何かに怯え、恐怖していた。
 それは紛れもない愛からくるものだった。
 しばらく見つめ合っていましたが、テリアがふと表情を緩めました。


「ねえフラン。僕達は思い違いをしていたのかもしれないね、相手を想うあまり」
「そうだね……ごめん、こんなくだらない事でテリアを避けていたなんて馬鹿みたいだ」
「謝らないで。くだらないなんて、むしろ逆。フランが僕の事を愛してくれているからこその行動だってわかったら、もう寂しさとか全部吹き飛んじゃった。嬉しくてニヤけちゃうくらい」


 僕達は改めて顔を見合わせます。
 テリアは大きな瞳が特徴的で、吸い込まれてしまいそうな魅力があります。
 ニヤけると言うより、その顔には花が咲き誇ったような笑みが溢れて、本当に嬉しそうでした。


「テリア。本当に今更だけど……ようやく僕達、ちゃんと夫婦になれた気がする」


 僕は心からそう言えました。
 やっと、少しだけあった心の距離が埋まったのです。
 しかしテリアは意地悪そうに笑いました。


「ふふ……それは、これからが本番なんじゃない?」


 そうでした、僕達はこれから肉体の距離を埋めるのです。
 テリアが僕の唇に口付け、首筋にも、鎖骨にも同じように触れていきます。
 また胸の先を啄まれて小さく身体が震えました。


「やっ……あ……」
「敏感だね」
「ち、違うよ、テリアだから、おかしくなってるだけ」


 少しムキになって言うと、テリアはクスクスと上品に笑いました。


「そんな可愛いこと言ってくれるんだ」
「だって、テリアに淫乱みたいに思われたくない……」


 自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。
 初めての経験ですから、想像以上に僕は混乱しているようです。


「思う訳ないよ。むしろ初めてなんだなぁって実感してるくらい……」
「て、テリアは……初めてじゃ、ない?」


 僕のいない間に何かあったかもしれないのはテリアだって同じです。
 急に不安になりました。
 青年としての凛々しさを持ちながらも、美少年と称しても良い容貌なのです。
 今まで数多の誘惑があったに違いありません。


「ちょ、ちょっとフラン! 僕は呪いがあるって言ったでしょ!? いや、呪いなんてなくても君にしか興味ないんだけどね!?」
「後ろは……」
「処女です! もう、フランほどじゃないけど、僕は国一番の魔術師ですよ! そこそこ強いんだよ!」


 そうでした。普段おっとりしていて温厚なので、見た目だとわかりませんがテリアは生きた魔術兵器とまで言われていました。


「もういい!? 続けるよ!?」
「うん」


 ホッとしたのも束の間。
 もどかしそうに下着を取り去ったテリアの呪いを目の当たりにしました。


「……え、それ、どうやって下着に入ってたの?」


 僕は目を見開いて間抜けな質問をしてしまいました。
 女性の上腕ほどの大きさのソレは、今まで布越しに感じていた大きさとは全く違っていたのです。


「衣類に……ほら、こんな感じで刺繍した魔方陣で視覚と触覚を平均化してるんだよ」


 確かに、そうでもしないと目立ち過ぎてしまうでしょう。
 呪いと言われても、普段からピッタリとしたパンツスタイルでも違和感がなかったので、あまり深刻に考えていませんでした。
 しかしこれは、確かに呪いと言いたくなります。


「フラン……やっぱりやめておこうか?」


 呪いを凝視して動かなくなった僕にテリアが不安げに声を掛けてきました。
 いくら驚いたとはいえ、僕は反応を失敗してしまったと悟りました。
 誰よりも呪いを気に病んでいるのはテリアなのに。
 絶対に動揺を表に出してはいけなかった。


「いや、勿論するよ。しよう」
「無理しなくていいよ。すぐにする必要もないんだしさ。それに僕はフランに好かれてるってわかっただけでも今日は十分だし。また今度でもいいんじゃないかな、夜も遅いし、疲れてるよね」
「テリア」


 こちらを見ずに早口で言葉を紡ぐテリアを制止します。
 僕はテリアの顔に両手で触れ、じっと目を見つめました。
 ここでやめてしまえば、テリアは二度と僕を抱こうとしないでしょう。
 また今度、なんて日は来ないと察していました。


「驚いてごめん。パートナーである僕が支えなきゃいけないのに……不安にさせたよね」
「そんな……フランは何も悪くない」
「テリアだって悪くない」


 僕はそう言うと身体を反転させ、テリアを押し倒しました。
 元より僕の方が筋力は強いのです。
 テリアは目を白黒させています。


「僕が、したいんだ。テリアと一つになりたい。抱いて欲しい」
「ふ、フラン……」


 テリアの顎を指で上に向かせ、僕は唇と舌を激しく貪りました。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...