【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【第五章】勇者を助けに異世界へ

二話 王子テリアは英雄の伴侶【後編】

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 いてもたってもいられず目を開き、僕を覗き込むフランと目が合いました。


「……テリア?」
「フ、フラン!」
「わぁ!?」


 勢い余ってフランの肩を掴んでベッドへ押し付けてしまいました。
 だって、フランが僕にキスなんてするから……。


「テリア、起きてたんだ」
「眠れなくて……いつもは寝てるんだけど」
「うん、知ってるよ。いつもよく眠ってる」


 押し倒されているのにフランは普通に会話を続けます。
 僕が男として見られていないからでしょうか。


「フラン……どうして、キスしたの?」


 本当にただ疑問で、深い意味もなく聞いてしまいました。


「あ……嫌、だった?」
「違うよ!」


 そんな寂しそうな顔しないで。
 上目遣いに申し訳なさそうな声で問われ、即座に否定し、僕は堪らずフランに激しく口付けました。


「テリ、ん、っふ……んぅ」
「フラン、フラン……」


 今まで我慢していたものが溢れ出し、何度も何度もフランの唇を求めました。
 漏れ出す息遣いと、絡み合う水音が耳を刺激します。
 フランは抵抗を見せる事なく、僕の動きに合わせてくれました。


「ぁ……テリア……」
「僕は、その、フランに、あまり好かれていないと思っていたから……」
「え」
「だから、フランからキスしてもらえる理由がわからなくて」


 そう僕が言うと、フランは僕を抱きしめました。


「キスをしたのは、僕達が夫婦だから。テリアを愛しているからに決まっているだろう?」
「フランが、僕を愛してる?」


 僕は自分の上体を少し起こして、フランの顔をまじまじと見つめてしまいました。
 ずっと欲しかった言葉。
 だけどまだ実感が湧きません。


「いつから……?」
「いつから、だろう……でも、結婚して欲しいと言った時には、ちゃんと好きだったよ」


 そうだったんだ。良かった。本当に良かった。
 フランが僕の頬を優しく撫でてくれました。


「不安にさせてごめん。僕は、全然余裕がなくて、テリアに対して恩知らずな態度だったと思う。だから、これから沢山、君に愛を返していきたいと……」
「……フラン?」


 急にフランが静かになってしまいました。
 伏し目がちに何度か瞬きをしたあと、少しだけ頬を赤く染め、僕を見上げました。


「テリアは……僕を抱きたいのかい?」


 僕はハッとしました。
 フランを組み伏せ、重なり合っている僕の下半身が猛り立っているのです。
 激しく深い口付けによって目覚めてしまった欲は主張をやめる気はなさそうです。


「えっと……本心を言えば……抱きたい」


 自然と腰が動いて、今もフランに擦りつけてしまって情けないのですが、それ程に僕はフランを求めていました。
 毎日早く眠りについていたのだって、起きている状態でベッドで触れ合って我慢できる自信がなかったのも大きな理由でした。
 それでも別々に眠る事はしたくなかった、僕なりの折衷案だったのです。


「でもね、フラン……僕は呪われているんだ」
「え……呪い?」


 ずっと隠していました。
 それを最初に言うと、そういう関係を求めていると主張している様なものだし、それで嫌われるのが怖かったのです。
 だから、騙したような形になってしまいました。
 フランとここまで進展する可能性は高くないと思っていたから、という理由もあります。
 なんと言おうと、僕の臆病さのせいなのは変わりませんが。

 表情が沈む僕とは反対に、フランは普段通りの様子です。


「僕、回復魔法は得意だよ。浄化だって得意だし。早く言ってくれたら良かったのに」


 フランはキラキラという効果音でも出ているかのような、明るい笑顔でそう言いました。
 可愛い。


「ありがとう、前向きな提案をしてくれるんだね」


 フランが僕に抱かれる事に不満がないとわかっただけでも死んでもいい。


「でも、その……多分、魔法でどうにかはならない、かな……」
「どういうこと?」
「“半人半馬の呪い”って聞いた事あるかい?」


 フランは書物で得た知識を必死に思い出しているようでした。


「オーベルジュの医学書で見た……ね」
「そ、それ……です」


 二人でソワソワと赤面してしまいました。
『半人半馬の呪い』とは簡単に言ってしまうと、下半身が馬になったと表現されているものです。性器が一般基準よりもかなり大きい、という意味になります。
 馬並、なんて表現される事もありますね。
 病気でも怪我でもないただの巨根なので、オーベルジュでは呪いと言われています。
 受け入れられる存在が単純に減るため、子を成しにくいというのも呪いと言われる由縁です。


「女性とは苦痛を与えるだけだと言われ続けていて……きっとフランにも苦痛だと思う。ごめんね、今更こんな事……フランが嫌じゃないなら逆でもいいけど、それよりフランは側室を迎える方がいいよ」


 僕を愛してくれているならそれでいい。
 別にラトラの復興に僕は必要ないのです。フランには、僕より良い相手がすぐに現れるでしょう。
 本心で言ったつもりなのに、ポロポロと僕の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていきました。
 僕の下にいるフランの頬に雫が落ちたのを見て、離れないといけないと思い、咄嗟に身を起こそうとしました。
 しかし、僕の体はフランの胸に抱き込まれていました。


「テリア、ごめん。僕が君に甘え続けていたせいで、こんなにも追い詰めてしまった。僕の怠慢でテリアを傷付けた事を許して欲しい」


 フランは優しく僕の背中をさすってくれました。
 でも、その優しさにもっと僕の涙が溢れてしまうのです。
 泣き止まない僕をあやすように、フランは続けます。


「もっとちゃんと、テリアを愛していると伝えるべきだった。僕はテリア以外の相手をつくる気なんてない。テリアがいてくれたから、どんな逆境にも耐えられた。待っていてくれる人がいる安心感に、僕の心はとても長い間守られていたんだよ」


 まさかフランがそんな事を思っていてくれたなんて。
 ずっと一人で頑張ってきたフランの支えになれていたのでしょうか。


「フランのためなら、何でも我慢できると思っていたんだ……僕は都合の良い存在でもいい、他の相手を娶ってもいいって……でも、本当は僕だけを見て欲しいし、傷付けてもフランの中に入りたいと望んでしまう」
「いいよ」


 フランの肯定に、僕は目を見張りました。


「僕は回復が最も得意な勇者だよ」


 まるで死地に赴く兵士の顔です。
 愛の営みに対する雰囲気ではない事が、逆に僕を冷静にしてくれました。


「こんな時にまで自己犠牲の精神を出さなくても……」
「ちょっと、テリア。笑わないでよね」


 僕達はクスクスと笑い合い、自然と口付けを交わしていました。


「ねえフラン、無理だけはしないで」
「やってみないとわからないけど、今、僕は勇者で良かったって思ってるよ」


『勇者は魔力も身体能力も特別になり、人間を超越した存在になる』と言ったのは僕でしたね。
 まさか、神もこんな用途で勇者を活用されるなんて思ってもみなかったことでしょう。


 結論から言うと、無事に僕達は一つになることができました。
 明日は神殿で神に感謝を捧げる事にします。


 そこでまさかフランを狙う者と遭遇するとは知らず、今の僕は幸せを噛み締めていたのです。

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