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【第四章】魔王様との魔界生活
十五話 ユタカはファムエールが少しわかる
しおりを挟むリズ様は俺と同じように、フリアンには正しい情報を伝えないと決めたらしい。
どんどんフリアンの中でリズ様がおかしな方向へいくのは大変申し訳なくもあったが、それでも意向を変えずに貫くリズ様が愛おしかった。
こんな素晴らしく魅力的なお方が俺の伴侶なんだと叫びまわりたい気分だ。
「とにかくだ、私はユタカを選んだのだからフリアンの相手はできない。ユタカ、帰るぞ」
リズ様はそれで話を切り、フリアンに背を向ける。
「あ、リスドォル、さっき天使が魔王の家を探してたぞ」
「なに?」
俺達は思わず足を止めた。
リズ様の眉が跳ね、警戒をあらわにしている。
「狩りのついでに教えに来てやったんだぞ~感謝しろよな。あ、さっきの猪ちゃんも狩ろうとしちまって悪かったな」
「キューイ」
グリも特に怒ってはいないようで、直ぐに打ち解けフリアンに抱き上げられている。
グリは意外にも人懐っこい。擦り寄ってくるし、抱っこも好きだ。
俺もついつい撫で回してしまう。
俺がリズ様にグリが人懐っこいと言ったら、他者との接触で魔力を吸収して、復活を虎視眈々と狙っているのではないかと予想していた。
神に戻れないとしても、人型になれる可能性はあるそうだ。
リズ様はそこまで理解していても、グリを撫でたり膝に乗せたりもしている。
グリストミルに対して負の感情がないのであれば、俺も特に反発はないので気にせず可愛がっている。
フリアンもかなり強そうだし、良い魔力が吸えそうだな。
そう思いながら眺めていると、あっという間にグリはフリアンの腕の中で寝てしまった。可愛い。
「……そいつの外見は?」
リズ様がフリアンに尋ねる。
その天使がパノヴァとファリーヌなら問題ないんだけど。
「体格良くて髪が長かった。丁寧な態度で悪い奴じゃなさそうではあったなぁ」
完璧にファムエールだ。
天界のイーグルの家に行ったら帰ってなくて探しに来たって感じかな。
イーグルは拉致監禁されなくて良かったな、なんて思ったけど、ファムエールはそこまでする気はないんだよな。
俺もリズ様にストーカーはするだろうけど自由を奪いたいとは思わないから同じ感覚なんだと思う。
うーん。俺はついファムエールに感情移入してしまう。
「場所を教えたのか?」
「まさか! 知らないって言っておいた。つーか実際俺も結界のせいで場所自体はよくわかってねーもん。感覚でリスドォルん家行ってるし」
「それが出来るのはフリアンくらいだ」
野生の勘というやつだろうか。
結界は基本的には効力が高ければ高い程、硬度があって触れるとわかる。
フランセーズが結界を張れば水族館の水槽くらい分厚くなるんじゃないかな。
リズ様の結界は分厚いが膜なので、生物の様に動いて対象が触れてもわからないようになっており、自然と誘導されていつの間にかリズ様の家から逸れているのだ。
そんな特殊な結界を判別でき、訪問してくるのがフリアンなのだが、もしかしたら俺の想定よりも手練れなのかもしれない。
「道理で見付からぬはずだ」
その瞬間、空からファムエールが降りてきた。
まあ力尽くで俺とリズ様には勝てないだろうから慌てる事でもない。
「何用だ、天使ファムエール」
「これは魔王リスドォル様。先日は大変な御無礼を働きました事をお許し下さい。イーグル様をこの付近の温泉にお連れしたのですが、その後の足取りが掴めなくなりまして……イーグル様を召喚したリスドォル様ならばご存知なのではと、お探ししておりました」
本当に態度だけは丁寧だよな。
「何故イーグルをあの場所に放置した?」
「いえ、本当は意識のないイーグル様の身を清めてから神界へお連れする予定でしたが、イーグル様があまりにも魅力的なので気持ちが舞い上がってしまい。恵みを頂いておりましたらイーグル様が途中で意識が戻り、一人にしてくれと泣いて哀願なされたので、その通りに……」
うわあ、意識があろうとなかろうとお構いなしとは恐れ入る。
超絶倫に泣かされるイーグルと、一応は気を使うが遠慮のないファムエールという所か。
イーグルが怯える気持ちが少し理解できる。
「ふむ、お前はイーグルをどうしたいのだ」
「私はただイーグル様をもっと知りたいだけなのです。もう一度可能であればお会いして言葉を交わしたい。イーグル様が指一本触れるなと仰るならば触れません。口をきくなと言うのであれば言葉も交わしません。それでも視界に入る事をお許し頂きたいのです」
紳士だよな。印象としては紳士なんだよ。
「よくわかんないけど、そのイーグルってのと会わせてやったら? もしくは言付けだけでもさぁ」
俺もフリアンの意見には賛成だ。
別にファムエールに味方したい訳じゃない。
ただ、ずっと匿う訳にもいかないし、早々に本人同士で解決できるならそれに越した事はないからだ。
「そうだな」
リズ様も頷いてフリアンと一緒に自宅にイーグルを呼びに行ったので、俺は監視という名目でファムエールと共にその場で待機する。
「なあファムエール」
「なんだ人間」
「俺、なんとなくお前の考える事がわかるんだけど」
「ほお」
ニヤリと腕を組んで笑うファムエール。とても男前だ。
「俺だったら指一本触れるなって言われたら、触れられたくなるような方法を考えるし、あの約束って意味あるのかなって思ってさ」
ファムエールの笑みが更に深くなり、とても悪い顔になる。
「なんだ、口止め料でも欲しいのか?」
「いや、イーグルを大事にしてくれればそれでいい」
虚を衝かれた表情になるファムエール。
先程までの悪い顔は消え、深く考え込んで、こちらを見た。
「善処したいが、私には大事にするという事がよくわからないのだ」
リズ様も最初似たような感じだったもんな。
愛だの恋だのが理解できないらしいけど、少しずつ知っていって欲しい。
「ま、いつかわかったらでいい」
それに対してファムエールは答えなかった。
でもそれが否定じゃなくて、自信の無さから約束はできないという感情が伝わってきたので十分だった。
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