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【第四章】魔王様との魔界生活
十四話 魔王リスドォルは葛藤する
しおりを挟む私はユタカと別れ、補充したかった薬草を集めに少し離れた土地に来ていた。
薬草以外にも、上位互換の存在しない低レア素材も拾っている。
例えば、どこにでも転がっているような小石が逆に私の住む地域には無い。
いつの間にか高濃度の魔力を溜め込んだ魔石になってしまうからだ。
ただの雑草や木の実なども、私にとってはそこそこ貴重な素材なのだ。
しばらく採集した所で、ふと思い出した。
ここからもう少し進んだ先にある湖付近で、魔界一美味な果実が採れるのだ。
ユタカも味に興味があるようだったしな。
私も食べた事がないし、ちょうど良いのではないか。
別に何かを期待しての行動ではない。純粋に味が知りたいだけだ。
……いや、私は何を自分に言い訳しているのだろうか。
どう考えても下心しかないだろう。
身も心も繋がってしまうと、満足して落ち着くものだと思っていた。
だが、実際はその逆だった。
次はもっと深くだとか、まだ見ぬ表情や仕種を知りたいだとか、より多く満たされたくなり、期待ばかりが膨らんだ。
端的に言えばとても良かった。次を期待するほどのものだった。
発情恐るべし。いや、この場合は愛か。
愛とは予測がつかなくて恐ろしいものだと私はようやく知った。
そんな事を考えていたらお目当ての湖に来ていた。
湖の中央がとても深くなっており、ずっと沈んでいくと横穴がある。
そこを進むと頭上に空間が現れ、水色の透き通った果実のなる木があるそうだ。
水龍の棲み家となっていて、昔は倒さなければ手に入れる事はできなかったが、今は普通に渡してくれるらしい。
特に採取に難しい事はないので、水に濡れないように保護魔法をかけて情報通りに進めばあっさりと果実を手に入れる事ができた。
水龍は寝ていたので関わることもなかった。
果実は世話になったフランセーズとデュラムの分もある。上司からの祝いの品という形なら渡しても問題ないだろう。
イーグルにも一応持って行くか、家事の礼だ。
地上に出た瞬間、ユタカの魔力に揺らぎを感じた。
何か想定外の出来事があったようだ。
危険はなさそうだが、気になるので急いで私はユタカの元へ戻った。
◇◇◇
「フリアン」
「お、リスドォルじゃん、お帰り~」
見知った顔があって私は少し顔をしかめた。
まさかユタカとフリアンが鉢合わせするとは面倒な。
フリアンは狩った肉をおすそ分けに来てくれるご近所さん、といった所か。かれこれ三百年の付き合いがある。
良い奴ではあるのだが、発情期の度に迫ってくるのだけは面倒だった。
他の弱者の発情期の発散に抱いてやったり、面倒見が良いため人気もあるのに、わざわざ私に抱かれたがるのだ。
「リズ様」
「ユタカ、大事ないか?」
「はい、まあ……」
ユタカはとても複雑そうな顔をしている。フリアンと何を話したんだ。
「リスドォル、この人間の伴侶になったって本当かよ!」
「ああ、そうだが」
「弱くてすぐ死ぬ人間のどこがいいってんだよ、俺がもっと弱かったら良かったのかよぉ!」
なるほど。フリアンはユタカが弱者の立場だと思っているのか。
フリアンは私の森の近くで暮らすくらいには強い。
もう少ししっかり魔王軍を作る事になれば四天王というやつにフリアンは確実に入る。
だからこそ強者に惹かれるらしい。単純に数が少ないからな。
まあ今の私も似たようなものだから気持ちはわかる。
そこで私もユタカの複雑な表情の意味に気付いた。
もし、ここでユタカの強さを知ってしまえばフリアンは確実にユタカに交尾を迫るだろう。
フリアンも他の者と同じで、私の強さしか見ていないタイプだ。いや、本来はそれが正しくて、ユタカの方が珍しいのだが。
私はユタカの強さを隠す事に決めた。
「そう、だな……か弱い所が良い」
「うーん、俺よりも小さいし……そういう所もいいんかなぁ」
フリアンはそう言うが、別にユタカとフリアンにそこまで体格に差はない。
ほんの少しユタカが小さいかもしれないが、年齢を考えればユタカは成長途中だ。
「まだユタカは若いから、これから成長する伸び代も良いのだ」
「リスドォル年下好きだっけか? 俺だって年下じゃん」
「ユタカはまだ十七年しか生きておらぬからな」
「え……」
瞬間、フリアンの表情が固まった。
その様子に私も焦る。
フリアンの視線に批難の感情が混ざっていたからだ。
「あはは……そっか~そりゃ俺じゃ無理だわ……小児性愛には対応できねぇわ」
その言葉に頭痛を覚えた私は額を押さえた。
「ちょっと、待て、フリアン、勘違いするな、人間では普通の年齢だ。見た目だって十分発育しているだろう」
何故私はこんなよくわからない言い訳をしているのだ。
だが、実際、日本としてもまだ結婚が認められていない年齢という点で言えば、私にもやましい部分はあるのかもしれない。
「いやぁ、まあ、ほら、性癖はそれぞれじゃん? 若々しい魔力の方が嬉しいのはわかるって」
あからさまに気遣われている。
確かにユタカは三百年以上年下ではあるが、種族が違うのだから仕方ないのだ。
そもそもそれは魔物になってからの年齢であって、神からだったらもう年齢差なんてあってないレベルである。
むしろそんな年上を抱きたがるユタカの方が枯れ専というやつなのではないか。
いや、私はまだまだ枯れてはいないが。
「確かに若いが、若いから選んだ訳ではなく……」
「弱いだけなら沢山魔物にもいるのに、人間をわざわざ選んだ理由が他にあんの?」
くそ、本当はユタカが誰より強くて格好良いと言ってしまいたい。
むしろ私がこの子供と言える年齢の人間に組み敷かれているのだとぶちまけてしまえたら。
だがそれは許されないのだ。
ユタカを狙われるくらいならあらぬ誤解くらい……とんでもなく不名誉だが受け入れよう。
「い、いや……幼く、未熟な所も可愛いだろう……?」
私の本心であるはずの言葉が、普段と全然違う意味に聞こえる。
ユタカが笑いを堪えきれない様子で私の背後で震えている。
この場では私は小さく肘でユタカの脇腹を小突くしか出来なかった。
後で覚えていろユタカ。
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