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【第四章】魔王様との魔界生活
十三話 ユタカとグリの素材集め
しおりを挟む「キキィ」
「お、さすがだなグリ。これは魔草か」
魔界の地理がわからない俺は、リズ様の家の周辺を探索している。
リズ様はもう少し離れた場所で採集したいとのことで別行動だ。
その際にグリをお供にと言われ、グリと一緒に行動している。
魔界で暮らす事に適した存在である魔物は、生まれながらにして本能的に地図が頭に入っている感覚があるらしい。
勿論、地図は地図なので使い方がわからないヤツもいれば、地図があっても迷うヤツはいる。
グリはその地図の扱いがとても精密らしく、素材の分布まで把握しているようだった。
「これと、これ、あと……これかな」
素材に種類があり過ぎるので、俺は自分なりの基準を決めていた。
闇か光の属性のもの。リズ様が落下した際の神の力を含んだもの。これが最優先。
あとは食べられる物。俺は判断がつかないのでグリが選んでくれる。デュラムへの土産も兼ねているので沢山欲しい。
ついでに回復効果のありそうなものも集めている。俺にほとんど回復手段がないからだ。
変に現代医学に触れているせいで、魔法でどうやって治っているんだ、という疑問を持ってしまって回復魔法が使えないのである。
あとは鉱石も気になったら集めている。フランセーズが結婚を決めたらしいのでお祝いになるかもしれない。
そんな感じでゆる~く、ほんの二十分程の素材集めという名の散歩をして、あることに気付いた。
「選ぶ必要もないくらいどれも魔力の含有量がすごい」
ある意味ここって魔王の棲み家だ。ゲームだったら良いアイテムとか上級素材ばかり手に入るラストフィールドみたいなもんだよ。
森のメルヘンな木の家に騙されてはいけない。
これが本物の魔王城なんだ。
もう両手に持った籠にはアイテムが山盛りで、今ある物より上質な物があれば入れ替えるという運用になっている。
「これ、どんだけの価値があるんだろうな……」
もっとダンジョンの主を攻略とか、絶壁に咲く花とか、極寒の地に赴くとか、マグマの中に入るとか、危険な冒険があると思うじゃん。
逆。
素材の質を落としたい時に行く場所。
リズ様の別行動の目的はそれだった。
品質が高過ぎるせいで欲しい効果が得られないという贅沢な悩みを持っているのだ。
「帰るか、グリ」
「クィイ」
最高品質の素材を抱え、本気でやることがなくなってしまった俺は早々にリズ様の家に戻ることにした。
リズ様が暇だ暇だって言う理由はこの恵まれた環境のせいかもしれない。
だが、やることがない以外にも帰りたい理由はもう一つあった。
実は木の陰とかにチラチラ見たこともない魔物を見掛ける。
ぶっちゃけ、見た目だけだとめちゃくちゃ怖い。
ドロドロに皮膚が溶けてるマンモスみたいなのとか、首が異様に長い人面ドラゴンとか、目が百個はありそうな巨大ウサギとか。
これぞ魔界って感じがするけど、温厚なのでただ通り過ぎるだけだったり、たまに擦り寄って来る。行動は可愛い。
俺が探している物に気付いて渡してくれることもある。良い子ばかり。
でも見た目が本当に怖いのだ。
慣れるまではもうちょっと待って欲しい。
その時だった。
「キキィイ!」
グリが凄い速さで走り、木を踏み台に跳び、何かを空中で蹴り飛ばした。
「グリ!?」
「フスン」
得意げに息を吐くグリの足元には、吹き矢の矢がいくつか落ちている。
何者かに狙われたらしいが、さすが格闘スタイルの元魔獣。難なく対処し終えた。
「ありゃー、誰かのペットだったんかい。悪い事をしたな」
ガサガサと木の上から何かが軽やかに降りてきた。
小麦色の肌にベリーショートの薄い桃色の髪に、特徴的な獣耳と尻尾の青年だった。豹に近いかも。
「うぇえ、しかも人間じゃんか、迷子なん?」
「いや……迷子じゃない。コイツが案内してくれるし、家はすぐ近くだし」
人型の魔物に出会えてちょっと安心した。
リズ様を見慣れてしまっているが、この青年もかなり整った顔立ちとスタイルだ。人型の魔物は美しいのが共通点なのだろうか。
「ん? ここいらはリスドォルの家しかないぞ?」
「それで合ってる」
「いやいやいやいやいやいや、嘘じゃん絶対!」
嘘と言われてもな。こればかりは事実だ。
「俺はユタカ。魔王リスドォル様の伴侶だ。だから俺の家でもある」
実際はまだ暮らしてはないけど、すぐにそうなるし問題ないだろう。
獣耳青年は顎が外れんばかりに口を開けている。
「は、は、はぁああああああ!? あのリスドォルだぞ!? 俺がどれだけ発情期に子種をくれって言っても拒否してたリスドォルだぞ!?」
「んんん?」
待て待て待て待て。
聞き捨てならん内容が聞こえた。
リズ様に抱かれたいパターンのライバルは初めてで動揺したが、そりゃリズ様は魔物の中ではアイドルだよな。
最強の存在に抱かれたいなんてのは弱肉強食な魔物の中では共通認識なのだろう。
周りに神とかそういうのばっかりだったからちょっと新鮮な気持ちになった。
「どうやって籠絡したんだ……その体に何か秘密が? 人間にしかない器官が存在しているとか? 実は人間くらい弱々しい方がリスドォルの好みだったんか?」
そう言いながら俺を全身なめ回すように観察する青年。
逆逆逆逆。俺が強いからだよお兄さん。
「なあ、もし魔王様より強い存在が現れたら、そっちに魅力感じるもんか?」
「そりゃあ、強い存在に惹かれるわなぁ……しかもリスドォルより強い……想像だけでも発情しそうじゃん」
よし。
想像だけでウットリしている青年を見て、俺がリズ様を抱いた事は何が何でも隠そうと心に決めたのだった。
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