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【第四章】魔王様との魔界生活
三話 ユタカは魔城で襲撃を受ける
しおりを挟む「リズ様は俺の事、カッコイイって思ってるんですか?」
「……高校に行った時に、ユタカの同年代の者を見ても、お前が最も精悍で引き締まっていた」
褒められた。そんな事を思っていたなんて。
いや、でもよく考えたらリズ様はいつも鎧のデザインが俺に合ったものを作ってくれていた。
俺が思うよりずっと前から、俺のことをしっかり見ていてくれたのかもしれない。
「ちゃんと男として見てくれてるんですか?」
「日本では婚姻は書類一つの事かもしれないが、私達は魔力まで交わしているんだぞ。その時点で身も心も魂までもお前に明け渡しているというのに、お前の方がよっぽど私の気持ちを軽く見ているのではないか?」
うっ、と言葉に詰まる。
リズ様が俺を大切にしてくれているのもわかってるし、好意を向けてくれているとも認識している。
でも、それと性的に相手を思っている事は違う。
なんとなくリズ様にその点を諦めていた部分もあった。
それでもやっぱり求められたいって気持ちもあったり、自分でも面倒くさい思いを抱えていたのだ。
「愛されてるな~……とは思ってます」
「そうだ。お前が表現を惜しまないから、私も行動に出しているつもりだ」
「でも、それと性的に魅力を感じているかは別なのかなと……」
「まったく。こっちへ来い」
リズ様は三階の寝室に俺を呼んだ。
「あ、魔王城のベッド」
二人で使うはずだった寝室のベッドが置かれている。
どうなったんだろうとは思っていたが、リズ様の家に運び込まれていたなんて。
「今回、客間の用意はしていない。私とお前はここで寝る」
「はあ」
広いですしね。
お喋りして、少しずつ歩み寄れればいいね、と魔王城で用意したものだし。
それに特に違和感はなかった。
だが、そんな俺の反応にリズ様はムッとした。
「前の私は人間の知識が足りなかったから、共寝にあまり深い意味は持っていなかった。だが、今の私は知識を得て、全ての意味を理解した上でこの環境を用意した……とまで言えばわかるか」
そう投げやりに言ったリズ様の耳が赤い。
これは、勘違いのしようもないお誘いだ。
どうしょう、俺、めちゃくちゃ愛されてるじゃん。
「えっと、あの、はい……わ、わかりました」
顔が一気に熱くなる。泣きそう。完全に相思相愛だ。
神になってからのリズ様がどんどん人間を理解していく。
興味とかではなく、本当に俺を見ているんだ。
「まあ、ユタカが温泉で発情して外で、というのは良くないからな。今回は汗を流すのは別々でいいだろう」
「それが助かります」
もうすでに俺の中で色々ヤバいですけどね。
必死にリズ様以外の事を考えて平静を保とうとしている。
「あ! あの魔城に行きたいです! それ見てからゆっくりしましょう!」
「わかった。観光が先だな」
「はい、なんかもう家から出たくなくなりそうなので」
リズ様はクスクス笑い、俺の手を引いて寝室を後にした。
◇◇◇
権力の象徴でもある魔城は、とても大きいが、かなり老朽化が進んでいる印象だった。
前の所持者も魔城には住んでおらず、物置くらいにしか使っていなかったらしい。
リズ様も住むつもりはないので、前の所持者にもこれまでと変わらずに使ってくれと伝えたそうだ。
本当に平和だなぁ。
「歴代魔王が城を持て余しているなら、いっそマンションとか、貸し店舗とか、共有施設にしたらどうですかね?」
「悪くないな。恐らく私が消滅しない限り、魔王が交代することはないだろうからな」
魔物最強な上、神の力まで持っているリズ様を超える存在が現れる事はないだろう。
今後、魔城の所有権がリズ様から動くことはなさそうだ。
「折角得たものだ。ゆっくりユタカと活用方法を考えよう」
「なんだか経営者になった気分ですね」
娯楽がないって言っていたし、安全に遊べるような場所とか、物々交換がしやすいシステムを作ったり、魔界を便利にするという目的があると楽しいだろうな。
やり甲斐がありそうだ。
魔城運営のために大学に行って勉強した方がいいのか?
俺も、一年かけて真剣に将来を見つめ直そう。
そんな大きな計画を立てていた時だ。
ズドォンと大きな音と共に城が大きく揺れた。
「リズ様!」
「攻撃だと?」
平和なはずの魔界で爆発音を聞く事になるとは思わなかった。
断続的にドンドンと大きな音がして瓦礫が落ちる。
このままでは破壊されてしまう。
「とにかく城から出ましょう!」
「ああ」
もう使う事がないと思っていた黒勇者の鎧を纏う。
リズ様も戦闘向きにデザインし直した魔王服になった。
「あれぇ? 城に何もいなくな~い?」
「魔物の軍勢がたくさん出てくると思ったのですが」
「いてもいなくてもやる事は変わらん。さっさと城を壊すぞ」
空には、翼と頭上に輪を持つ三人がいた。
「天使……?」
俺が印象を口にすると、三人はこちらに気付いた。
「おや、城からネズミが出てきましたね。魔王であると嬉しいのですが」
目を常に閉じたままの、落ち着いた仕草と声の長めのマッシュルームヘアみたいな男が言う。
とりあえず、リズ様を狙っているという事はわかったので、俺は魔剣を取り出した。
まったく、毎回毎回リズ様のモテっぷりには困ったものだ。
「ユタカ、あれは確かに天使だが、地球の天使とは全く異なる存在だから気を付けろ」
「神の使いじゃないんですか?」
「地球の言葉で言い表すなら、こいつらは“宇宙人”だと思え」
そのリズ様の一言で、魔神とも魔獣とも違うヤバい存在なのだと理解した。
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