【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
45 / 152
【第三章】異世界からの帰還と危機

十一話 勇者ユタカは神になる

しおりを挟む
 

 勇者でも騎士でもなく神ときましたか。
 ちょっとビックリしたけど、リズ様がやれと言うのなら悪いようにはならないだろう。


「なります!」
「そうか、何も考えてないな」
「はい! でもリズ様が俺と離れる選択肢を出すとは思えないので」


 俺はここにきて自分に自信がついていた。
 リズ様は好きじゃない相手へはちゃんと拒絶する。
 困りつつも本気で拒否られたことがない事実が俺を強気にさせた。

 少し呆気に取られた顔をしていたリズ様だったが、少しずつ笑いに変わっていく。


「くくく……それがわかっているなら良い」


 そう言いつつちゃんと説明してくれた。
 リズ様は全く神に戻る気はないが、地球を完全に放棄はさすがにしたくない。
 俺の世界でもあるし、それならいっそ俺に管理をさせたいという事らしい。


「どうやるんですか?」
「デュラムにあの世界での契約を教えて貰っただろう。神の力を解放しているうちに魔力共有の契約をする」


 契約書と魔力を交わすっていう。
 それって……。


「プロポーズですね!?」


 俺が目を輝かせていると、リズ様の眉間にどんどんしわが寄る。


「今更プロポーズもあるか。私は契約などなくても、お前がイーグルに勝った時点で気持ちは共にあったのだ。既に伴侶だと思っていたのは私だけだったようだな」


 ツンと顔を逸らしているリズ様の唇が少し前に出ている。
 そんな絵に描いたような拗ね方ある!?


「リズ様!」


 俺は多分、今までで一番の身体能力を発揮した。
 瞬時にリズ様に足を掛け、背中を支えつつ、仰向けに床に押し倒す。
 片手でグリをフランセーズに投げ、リズ様が抵抗する前に両手首を押さえ付けた。


「な……!?」


 戦闘でもここまでの動きをしたことがない。リズ様は組み敷かれて初めて状況を理解したみたいだ。


「そんな嬉しい事言われたら我慢できないです」
「ユタ……」


 リズ様の顎を掴んで、顔を近付け、ギリギリ唇が触れないくらいで止める。


「初めて会った時からずっと我慢してたんですよ。俺の愛が足りないと思われるのは心外です」


 リズ様の紫と赤が交互に揺れる瞳がやっぱり綺麗だ。
 そこに俺しか映っていないこの瞬間がとても幸福に感じる。


「こらこらこらこら!」


 デュラムが慌てたように俺をリズ様から引きはがす。
 別に抵抗はしてないけど羽交い締めにされてる。
 フランセーズは急いでリズ様の上体を支え起こしている。


「魔王、大丈夫?」
「あ、ああ……」


 全然大丈夫じゃなかったみたいで、リズ様の顔が見たこともないくらい赤い。
 リズ様と俺の目が合った。


「……ユタカ、人前ではやめろ」
「はい」


 人前じゃないならいいんだ。


「はぁ……とりあえずさっさと契約を終えてしまうぞ」


 そう言ったリズ様の手には羊皮紙みたいな紙がある。
 指先に魔力を集めて、自分の名前を書くだけでいいそうだ。


「魔力を交わす三日三晩の儀式は……」
「お前の腹を通ったり、光の剣が通ったり、完璧過ぎるくらいに交わせている」


 やっぱりそうですよね。
 少しだけ残念に思いながら名前を書く。
 二人とも書き終えると、紙が突然ビー玉くらいの大きさの球になった。
 球は二つあり、俺とリズ様の胸元に取り込まれてしまい、訳がわからなかった。


「これで私の神の力が使える。ユタカの思うように地球を守ってやれ」


 よく見ると俺からも金色の靄が出てる。強そう。


「いっそ、外からは見えなくしちゃいます?」
「なるほどな。確かに強固な守りを張るよりも、狙われない事が最も安全だ」


 神にとって世界は美術品だから隠すってしないらしいけど、俺には関係ない。
 防壁を一応用意はするけど、不可視機能に魔力の大半を使った。
 魔力のない世界の存在には見えるようにしておいたから、衛星写真に地球が写らない、なんてことはないはずだ。
 あとは魔力以外の手段では普通に入れる。ロケットとかUFOとかな。


「これで終わりました」
「うむ、上出来だ」


 良かった。無事に何もかも終わったみたいだ。
 俺は勇者の鎧を学ランに戻し、自分の席に座る。


「疲れました……これからどうするんですか?」
「折角だ、私はしばらく残る」


 そう言ったリズ様は私服になった。美し過ぎる事を除けば完璧に人間である。


「レジィの世界は大丈夫なんですか?」
「レジャンデールは今回の品評会を諦めたそうだ。元は親友である私に優勝すると約束をしていたから頑張っていたらしい。私を忘れてもその気持ちだけは残り続け、評価に執着していたが今はもういいと言っていた。私に直接世界を見せられただけでも十分だと」


 神側の事情も何やら複雑そうだが、問題ないならいいや。


「僕は帰るよ。やるべき事があるからね」
「俺も。自分の世界でやりたい事があるんだ」


 フランセーズとデュラムはあっさりと戻る事になった。


「本当にありがとな。フランセーズ、デュラム」
「別に永遠の別れって訳でもないんだし、地球のお土産期待してる」
「美味い食い物、沢山待ってるぜ」


 口々に言って、二人はグリを連れ、俺のお腹に入っていった。
 今更だけどこの移動手段どうにかならないの。


「さて、私はユタカの家へ行く」
「えぇ!?」
「お前は既に両親に私の事を言っているのだ。この機会に会っておきたい」


 少しずつ目覚める人が増えて賑やかになりだした世界だが、午後の授業とか受けてる場合じゃねぇ!
 俺は全速力で早退届けを職員室に取りに行った。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...