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【第三章】異世界からの帰還と危機
九話 勇者ユタカは魔王様に見惚れる
しおりを挟む「いくぞ」
インドア派にしか見えなかったリズ様は、身軽な動きで次々に攻撃を仕掛ける。
拳の速さも凄いが、特に脚が長いので蹴りの迫力が桁違いだ。
上段、下段、足払いと連続で繰り出される技を支える体幹は見事だ。
いつも着込んでて見えないけど、リズ様って着痩せしているだけで、実は筋肉質なのかもしれない。
「いい、イイですよリスドォル! もっともっともっともっと触れ合いましょう!」
「そういう解釈はいらぬ」
攻撃を触れ合いと言えるグリストミルの前向きさは見習いたいものだ。
先ほどまでの動揺した様子は消え、冷静にリズ様の攻撃をいなしている。
本当に戦いが好きなのか、嬉しそうだ。
でも、俺と戦っていた時とは違う。触れて逸らす回数が圧倒的に多い。
避けるというより、全て受け流しているのだ。
「触れ合い、かぁ」
俺はそう呟いた。
過去のグリストミルの愛情表現は最悪だが、本当にリズ様が好きなのだとしたら。
嫌われた相手との触れ合いの手段になり得るから、無意識下で戦闘スタイルに格闘技を選んだ可能性があるのではないか。
勝手な妄想だけど、俺もそういう考えが無いとは言えない。
すごく苦い顔になった。
「我が伴侶を待たせる訳にはいかんな」
苦い顔の俺を見たリズ様が微笑み、瞬時にグリストミルの背後に移動し、重い回し蹴りを腰に叩き込んだ。
「グガッ!?」
瓦礫と化したコンクリートへ激突するグリストミルに、リズ様は間髪入れずに顔面に膝蹴りをお見舞いする。
そのままリズ様は胸ぐらを掴んでグリストミルを片手で持ち上げた。
「もう神の力がほとんど残っていないな」
「グぅ゛……ええ……もう意識も……グウゥウウ゛……ほとんど、残っていませんね」
リズ様との触れ合いに全ての気力を使っていただけのようで、今は人型になったり、獣みたいになったり変化が激しい。
「私は本当に過去の事はどうでもいいし、今なら愛というものも、少しは理解できる」
「ギャウゥウ゛……んふふふ……で、どうするのですか?」
「そうだな、お前に呪いを返そう」
呪いを返す? どういうことだろう。
しかし、グリストミルは何かを察したのか、大笑いした。
「アハハハハハ! 甘いですねぇ、リスドォル」
「神を捨てて魔獣に堕ちようともまだ私を求めるのならば、今後もどう私に絡んで来るかわからないからな」
「フフ……罰でもあるのでしょうね……」
「当たり前だ。ただの魔獣を何度も嬲り殺す趣味はないし、これが一番楽だ」
完全に二人の世界で嫉妬しそうだ。
でもリズ様はいきなり地面へグリストミルを放り投げた。
そのまま倒れるかと思ったグリストミルはもう人の形ではなく、鵺のような四足歩行の獣になっていた。
グオオオオンという咆哮から、高速でリズ様に飛び掛かる。
しかし、リズ様の手前で急に床に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
リズ様の植物がグリストミルを地に縛り付けているのだ。
黒い靄がグリストミルを包み込み、苦痛にもがくように暴れ出す。
植物の拘束がブチブチとちぎれている程の激しさだ。
だがすぐに新しい蔦が生え、押さえている。
それから少しして、グリストミルが全く動かなくなった。
「リズ様」
声を掛けると、視線を一度こちらに向けただけで、黒い靄に包み込まれて姿が完全に見えなくなったグリストミルに歩み寄る。
黒い靄がどんどん小さくなっていき、小型犬ほどの大きさに圧縮された。
「なんですかそれ?」
「新しい魔物だ」
そうリズ様は言って、黒い塊を抱え、靄を払っていく。
「ウリ坊!?」
「なんだそれは」
リズ様の腕にいるのは銀色をした猪の子供に見える生き物だった。
「これ、グリストミルですか?」
「もう意識もないし、神の力もないただの魔物だ。まあ、名前はグリでいいだろう」
スヤスヤ眠っているウリ坊を腕に抱きながら、リズ様は外を見た。
仕事を終えたであろうデュラムが空に立ちながら号泣している。
「敵だった゛のに゛、魔王……お前、スゲェ、優じい゛なぁ……!」
さっきまでのデュラムのカッコ良さはどこかへ行ってしまった。
鼻水と涙で顔がグチャグチャだ。
「別に優しくなどないさ。恋慕している相手が、別の相手と仲睦まじくしている姿をずっと見続ける事になるのだ」
悪戯な笑みを見せるリズ様。
俺と仲睦まじくしてくれるんだ。それを疑わないでいてくれるリズ様好きです愛してる。絶対幸せにします。
ということはグリはペットなんですね。別に問題ないですけど。
ぶっちゃけ可愛いから俺も触りたい。
なんて考えていたら急に山里がリズ様に歩み寄る。
「一番の復讐は幸せな姿を見せることって言うよな、リズサン」
「ユタカの友人だな。ヤマサトだったか」
笑顔でリズ様に声を掛けている山里。お前メンタルマジで強いよな。
紹介するとは言ってたけど、ちょっと早過ぎて俺の心の準備ができていない。
男ってことをなんとなく伏せちゃってたし、もう完全に魔王ってわかってるし。
「もう少し私とユタカに仕事が残っているのだ。もう少しだけ待ってくれ」
「仕事?」
なんかもう完全に終わった気になってました。
それに気付いたであろうリズ様は溜め息をつきながら俺の頭に手を置いた。
「お前の世界を直さなければいけないだろう?」
そう言ってリズ様は俺の頭を撫でてくれた。
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