【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
43 / 152
【第三章】異世界からの帰還と危機

九話 勇者ユタカは魔王様に見惚れる

しおりを挟む
 

「いくぞ」


 インドア派にしか見えなかったリズ様は、身軽な動きで次々に攻撃を仕掛ける。
 拳の速さも凄いが、特に脚が長いので蹴りの迫力が桁違いだ。
 上段、下段、足払いと連続で繰り出される技を支える体幹は見事だ。
 いつも着込んでて見えないけど、リズ様って着痩せしているだけで、実は筋肉質なのかもしれない。


「いい、イイですよリスドォル! もっともっともっともっと触れ合いましょう!」
「そういう解釈はいらぬ」


 攻撃を触れ合いと言えるグリストミルの前向きさは見習いたいものだ。
 先ほどまでの動揺した様子は消え、冷静にリズ様の攻撃をいなしている。
 本当に戦いが好きなのか、嬉しそうだ。

 でも、俺と戦っていた時とは違う。触れて逸らす回数が圧倒的に多い。
 避けるというより、全て受け流しているのだ。


「触れ合い、かぁ」


 俺はそう呟いた。
 過去のグリストミルの愛情表現は最悪だが、本当にリズ様が好きなのだとしたら。
 嫌われた相手との触れ合いの手段になり得るから、無意識下で戦闘スタイルに格闘技を選んだ可能性があるのではないか。

 勝手な妄想だけど、俺もそういう考えが無いとは言えない。
 すごく苦い顔になった。


「我が伴侶を待たせる訳にはいかんな」


 苦い顔の俺を見たリズ様が微笑み、瞬時にグリストミルの背後に移動し、重い回し蹴りを腰に叩き込んだ。


「グガッ!?」


 瓦礫と化したコンクリートへ激突するグリストミルに、リズ様は間髪入れずに顔面に膝蹴りをお見舞いする。
 そのままリズ様は胸ぐらを掴んでグリストミルを片手で持ち上げた。


「もう神の力がほとんど残っていないな」
「グぅ゛……ええ……もう意識も……グウゥウウ゛……ほとんど、残っていませんね」


 リズ様との触れ合いに全ての気力を使っていただけのようで、今は人型になったり、獣みたいになったり変化が激しい。


「私は本当に過去の事はどうでもいいし、今なら愛というものも、少しは理解できる」
「ギャウゥウ゛……んふふふ……で、どうするのですか?」
「そうだな、お前に呪いを返そう」


 呪いを返す? どういうことだろう。
 しかし、グリストミルは何かを察したのか、大笑いした。


「アハハハハハ! 甘いですねぇ、リスドォル」
「神を捨てて魔獣に堕ちようともまだ私を求めるのならば、今後もどう私に絡んで来るかわからないからな」
「フフ……罰でもあるのでしょうね……」
「当たり前だ。ただの魔獣を何度も嬲り殺す趣味はないし、これが一番楽だ」


 完全に二人の世界で嫉妬しそうだ。
 でもリズ様はいきなり地面へグリストミルを放り投げた。
 そのまま倒れるかと思ったグリストミルはもう人の形ではなく、鵺のような四足歩行の獣になっていた。


 グオオオオンという咆哮から、高速でリズ様に飛び掛かる。
 しかし、リズ様の手前で急に床に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
 リズ様の植物がグリストミルを地に縛り付けているのだ。


 黒い靄がグリストミルを包み込み、苦痛にもがくように暴れ出す。
 植物の拘束がブチブチとちぎれている程の激しさだ。
 だがすぐに新しい蔦が生え、押さえている。
 それから少しして、グリストミルが全く動かなくなった。


「リズ様」


 声を掛けると、視線を一度こちらに向けただけで、黒い靄に包み込まれて姿が完全に見えなくなったグリストミルに歩み寄る。
 黒い靄がどんどん小さくなっていき、小型犬ほどの大きさに圧縮された。


「なんですかそれ?」
「新しい魔物だ」


 そうリズ様は言って、黒い塊を抱え、靄を払っていく。


「ウリ坊!?」
「なんだそれは」


 リズ様の腕にいるのは銀色をした猪の子供に見える生き物だった。


「これ、グリストミルですか?」
「もう意識もないし、神の力もないただの魔物だ。まあ、名前はグリでいいだろう」


 スヤスヤ眠っているウリ坊を腕に抱きながら、リズ様は外を見た。
 仕事を終えたであろうデュラムが空に立ちながら号泣している。


「敵だった゛のに゛、魔王……お前、スゲェ、優じい゛なぁ……!」


 さっきまでのデュラムのカッコ良さはどこかへ行ってしまった。
 鼻水と涙で顔がグチャグチャだ。


「別に優しくなどないさ。恋慕している相手が、別の相手と仲睦まじくしている姿をずっと見続ける事になるのだ」


 悪戯な笑みを見せるリズ様。
 俺と仲睦まじくしてくれるんだ。それを疑わないでいてくれるリズ様好きです愛してる。絶対幸せにします。
 ということはグリはペットなんですね。別に問題ないですけど。
 ぶっちゃけ可愛いから俺も触りたい。

 なんて考えていたら急に山里がリズ様に歩み寄る。


「一番の復讐は幸せな姿を見せることって言うよな、リズサン」
「ユタカの友人だな。ヤマサトだったか」


 笑顔でリズ様に声を掛けている山里。お前メンタルマジで強いよな。
 紹介するとは言ってたけど、ちょっと早過ぎて俺の心の準備ができていない。
 男ってことをなんとなく伏せちゃってたし、もう完全に魔王ってわかってるし。


「もう少し私とユタカに仕事が残っているのだ。もう少しだけ待ってくれ」
「仕事?」


 なんかもう完全に終わった気になってました。
 それに気付いたであろうリズ様は溜め息をつきながら俺の頭に手を置いた。


「お前の世界を直さなければいけないだろう?」


 そう言ってリズ様は俺の頭を撫でてくれた。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...