【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【第三章】異世界からの帰還と危機

七話 春野豊は勇者の鎧を纏う

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 デュラムのお陰で体の震えも不安もなくなっていく。
 本当に俺は誰かに守って貰わなきゃ何もできない。
 異世界に行って強い力を得た事で、逆に自分の弱さを知ることができた。


「デュラム、ありがとう!」
「どういたしまして~でもまだ俺の仕事はこっからだぜ」


 地上の炎はどんどんデュラムに集まり、火事とは無縁の世界になっていく。
 集まった炎をデュラムは小さな火の玉に分けていき、生物のような形に変化させた。


「ドラゴン!?」


 人の二倍はありそうな大きなドラゴンが空に群れとなって現れる。その全てがデュラムの操る炎だ。


「この世界はすげぇな! 大量に魔力があるからなんでもできそうだ。世界全体を守るのも不可能じゃないな!」


 デュラムは自分の力を確かめるように、何度か掌を開いたり握ったりしてから、白い歯を見せて笑った。


「ドラゴンよ、魔獣を一つ残らず焼き尽くせ!」


 叫びと共にデュラムは炎の剣を正面に向け、進撃の合図。
 大量のドラゴンは高速で魔獣に襲い掛かった。
 炎のドラゴンは物理攻撃は効かないようで、魔獣が反撃手段を選ぶ間もなく次々と燃えていく。
 デュラムは絶え間無く炎のドラゴンを生み出し、空へ放ち、魔獣の数を減らし続ける。
 それに比例してフランセーズの表情が穏やかになっていくのがわかる。攻撃の手数が減っている証拠だ。
 グリストミルを守るように廊下側の窓から魔獣が飛び込んで来るが、それをフランセーズが剣で切り付け牽制している。
 俺はすぐに加勢して魔獣を斬撃で倒した。
 グリストミルは回復した腕の動きを確認してからこちらに向き直る。


「全く……次から次へと邪魔が入る」


 苛立ったように、グリストミルは眼鏡を指先で持ち上げる。


「雑魚魔獣は全滅させてやっから、お前はさっさとそのオッサンを片付けろ」
「ああ!」


 デュラムの応援に、俺はかつてない程やる気に満ちていた。
 仲間がいるってこんなに心強いんだな。レジィが最初に仲間を集めろって言ってたのは、正しい助言だったみたいだ。
 フランセーズがいなければ地球はとっくに地獄絵図に変わっていた。
 デュラムがいなければ俺の心はポッキリ折れていた。
 パーティーが全員勇者って、恐ろしく豪華で絶対に負ける気がしない。


「今度は俺から行くぜ」


 闇の魔剣の刀身が無意識にでも変化するのなら、ちゃんとイメージすれば別の形にできるはずだ。
 柔らかく、もっと細くなるようにイメージした。
 それを素早くグリストミルに振りかぶると、黒板があった壁が粉砕する。避けられたけど、スゲー破壊力だ。


「鞭ですか」
「剣って身近じゃないからさ」


 鞭も身近ではないけど、縄跳びとか、ヒモ状の物が攻撃手段になるイメージは剣より掴みやすい。
 それに、肉弾戦の奴に近付いてやる必要はないので、鞭でガンガン攻撃する。
 さすがにグリストミルも鞭を腕で弾くのが精一杯で、こちらになかなか近付けないようだ。


「遠距離から嬲ってやるぜ」
「どっちが悪役だよ」


 俺の台詞に、フランセーズの後ろに隠れていた山里がツッコミを入れる。


「ユタカはあれが通常運転だよ」


 おい、フランセーズ。事実だけど人聞きの悪い事を言うな。
 その時、グリストミルに変化が起きた。


「少し目が慣れましたね」
「どぉわ!!」


 防戦一方に見えたグリストミルが、鞭の先を掴み、そのまま全力で引く。
 反動で俺は思い切り前のめりになり、グリストミルの蹴りが胴に入った。


「いっててて」
「やはりその鎧は頑丈ですねぇ、そのリスドォルの魔力が不愉快極まりない」


 金色の光の弾がグリストミルの指先から放たれる。
 いきなりの遠距離攻撃に驚く間もなく、黒騎士の鎧が少しずつ破壊されていく。


「はぁ!? なんでこんな簡単に壊れんだよ!」
「アハハハハハ! 私は一度死んだことで神の力が戻っていると言ったでしょう。完全に力が戻ればこんな世界もお前らも全て消滅させてやりますからねぇ!!」


 くっそ、半分以上破損した事で、騎士の鎧が自動的に学ランに戻ってしまう。


「ようやく生身になりましたか」


 俺が防具を失ったのを機に、グリストミルが攻撃に転じる。
 普通の魔獣じゃなく、神の力を持った存在の攻撃は一度でも当たれば命は無いかもしれない。
 俺は避けに徹する。今までだったらこんなピンチにすぐに動揺していただろう。
 でも、俺は笑っていた。


「何がおかしいのです」
「おかしいんじゃなくて、嬉しいんだよ」


 強敵と対峙して嬉しい、なんて戦闘狂みたいな話では断じてない。

 少しずつ、腹に熱を感じるからだ。
 もう三回目ともなると、この意味がわかる。
 最も会いたいお方がすぐそこにいるのだ。


「魔王様、ごめんなさい。鎧が壊れてしまいました」


 そう俺が呟くと、まるで俺自身が闇と同化したみたいに全身が黒い靄に包まれた。


「これは!?」


 グリストミルが警戒し、距離を取る。

 黒い靄は次第に薄まり、俺に新たな鎧を纏わせた。
 以前のように全身を覆うのではなく、部分的にプレートがあるだけで、布部分が多い。


「勇者だ」


 俺を見ていた山里がそう呟いた。

 黒を基調としていて、魔王様のマントを外した時の魔王服がベースになっている。それに肩や胸に防具が追加されている。
 騎士ではなく、勇者のイメージと言われれば、確かにしっくりくる。

 しかし、俺は新たな衣装に感動する間もなく、すぐ真後ろに感じる愛しい気配に心臓が爆発しそうだ。
 長い髪が俺の頬に触れる。魔王様の顔がすぐそこにある。


「さあ、新しい鎧だ。私の勇者よ」


 囁きかけるような声。


「魔王様……」
「呼び方が戻っているぞ?」
「すみません、リズ様」


 ドキドキして声が震える。そんな俺の様子に、リズ様は喉の奥でククッと小さく笑った。


「なんだ、リズとはもう呼んでくれぬのか」
「き、聞いてたんですね……」


 恥ずかしすぎて俺は振り向く事が出来ず、赤くなる顔を両手で隠すしかできなかった。

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