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【第三章】異世界からの帰還と危機
五話 春野豊は新たなライバルと遭遇する
しおりを挟むよくわからないが光の剣を装備出来た。
身体能力は上がっているし、前みたいに戦えるかもしれない。
「春野……スゲェ、お前ファンタジーだな」
「多分だけど俺、勇者だわ」
そう俺が冗談っぽく笑うと、山里はえらくウケていた。
ファンタジーが過ぎると逆に受け入れちゃうよな、わかる。
『多分じゃないだろ、ユタカ』
聞き覚えのある声がしてキョロキョロしてしまう。
山里が俺の腹を凝視している。またここかぁ。なんか光り出してるもんな。
フランセーズに刺された所が更に温かくなっていて、その範囲も広がっている。
「お前、ヤバいもん産むんじゃないか?」
「多分だけど金髪のイケメンを産む気がする」
そう言った瞬間、俺の腹から手が生えた。
「うわあああああ!!」
「やっぱり」
山里の絶叫をよそに、ヌルンとあっさりフランセーズの全身が飛び出してきた。
華麗に前転からの着地は見事だ。立ち上がる姿も優雅で、俺の腹から出てきたとは思えない。
「ふふ、初めましてユタカの御友人。僕はフランセーズ」
「……本当に金髪のイケメンだ」
腰が抜けた山里はそう言うだけで精一杯みたいだった。驚かせてスマン。
フランセーズは魔方陣の描かれた黒い手甲を俺に投げて渡す。
「流石にそのままじゃ目立つだろうって、魔王から」
「魔王様から!!」
喜び勇んで装備して、いつもの黒騎士スタイルになる。フランセーズも同じく対の装備になった。
「それのが目立たねぇか?」
「俺ってわからなきゃいーんだよ」
山里の的確なツッコミ。だが、全校生徒に俺がこれから戦うと知られるのは困る。顔が隠れるならこれが一番楽だ。
「都合良く皆の記憶が消えてくれればいいんだけど」
俺がそう零すと、フランセーズが肩を竦めた。
「魔王が今、神と話し合い中。それが終われば何かしらの対策はされるんじゃないかな。まあ、僕が来たからには死人は一人も出さないから安心しなよ」
それは助かるな。俺は遠慮なく戦闘に集中出来る訳だ。
これから魔獣がどう襲って来るのかわからないし、戦闘要員はもう少し欲しい所だけど。
「デュラムは?」
「一緒に来ようとしたけど一人しか通れなかったみたい。後で合流できるんじゃないかな」
「それまで持ちこたえればいいって事だな」
そう言って闇の魔剣も出現させ、両手に光と闇、それぞれの剣を握った。
結構カッコ良くキメたつもりだったんだけど、魔剣の刀身がすんごく長くなってるんですけど。物干竿くらいはある。
そのせいでめちゃくちゃ両手の剣の長さのバランスが悪い。
後から聞いたが、魔剣は魔力で成長するから、俺の魔力大放出でそうなったらしい。
「春野、それ剣か? 槍投げした方がよくねー?」
「俺もそう思った」
山里の突っ込みに同意すると、ちょうど良いタイミングで、今度は人面鷲のような魔獣がこちらに向かって飛んで来ていた。
ほとんど壁がなくなってしまった窓際から離れ、教室の端から助走をつける。
全身の筋肉を活性化させ、思い切り振りかぶって闇の魔剣を魔獣に向かって投げた。
パンッという音がして、空中を飛んでいた3メートルありそうな巨体の中央に大きな穴が空いて、そのまま地面へ落下した。
「イエー! お見事!!」
「イエー」
足腰が復活した山里が駆け寄って来たのでハイタッチをした。
その後すぐに仕事を終えた魔剣は俺の手元に戻って来て、やっぱり便利だなと思った。
安堵する暇もなく、フランセーズがすぐに状況を見て俺に指示を出す。
「ユタカ、魔獣の群れが向かって来ているみたいだ。僕は聖剣で全ての生物を守護する。君は魔獣を全て退治してくれ」
「わかった」
本当に心強いなフランセーズは。
そうだ、と思い出したようにフランセーズは軽く魔法のレクチャーをしてくれる。今の俺には魔法が使えるらしいのだが、基礎が無いのだ。
「君の場合は魔法を魔法だと思うより、やりたい事をそのまま思い浮かべた方がいいかもしれない」
「やりたいこと……」
急に言われると結構悩むな。
攻撃の魔法。実は俺、ゲームも漫画も詳しくないんだよな。たまに雑誌読んだり、話題に乗ってソシャゲした事があるくらいで。
「おい春野! 剣で、斬撃みたいなの飛ばそうぜ! 振りかぶった風圧を刃にして飛ばすイメージでさ」
バットを素振りするような動きを見せる山里。
なるほど、刃を飛ばすか。
闇の魔剣を一旦消して、光の剣を構える。
空を飛ぶ魔獣が二十体くらいが校庭まで来ていた。
光の剣を高速でスイングすると、ザンッという音と共に、全ての魔獣が上半身と下半身で真っ二つになった。
ドサドサと地面に死体がばらまかれる。視覚的に刺激が強いため、そこかしこで悲鳴が上がっている。
やっぱ皆の記憶に残ると大変なトラウマになってしまうな。
「凄い……あんなにも一瞬で」
フランセーズが感心している。山里の助言は恐ろしく効果的だった。本人は憎らしい程ドヤ顔になっている。
「おやおや、おかしいですね。この世界の人間は全くの無力だと聞いていたのに、何故勇者の力が発動できているのでしょう」
その声で、あの斬撃をかわし、ここまで来た存在がいた事を知った。
空中に立っている人間がいる。いや、角が三本あるから魔獣だ。
白い肌に、所々、顔や首に紫色に変色した部分がある。
長い銀の髪を三つ編みにした、小さめの丸眼鏡をかけた神経質そうな顔のおじ様といった風貌だ。
「勇者ユタカを無力なまま嬲り殺しにするより、やはり全力で殺し合う方が楽しいですものね。良しとしましょう」
「あんた、誰?」
本気で誰だ。俺は全く知らないが、相手は俺を知っているみたいだ。
その疑問にはフランセーズが答えてくれた。
「こいつは多分、魔王に倒された魔獣の親玉だ」
「ウフフフフ、そうです、私はグリストミルと申します」
恭しく一礼し、顔を上げると、その表情は歪んでいた。笑いとも、怒りともつかない、口が裂けんばかりに大きく広がる。
「そうなのですよ、あの忌ま忌ましい魔王リスドォルに殺されましてねぇ。しかし私は再生する際にようやく思い出したのですよ、何故無意識に魔王を求めたのかを。奴は本当にどこまでも私を虚仮にしてくれる……神であろうと、魔物になろうと、何故この私を否定するのですか!!! 私が、この私が選んでやったというのに!!!!」
いかれてる。それが俺の素直な感想だった。
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