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【第三章】異世界からの帰還と危機
二話 春野豊は友人に恋人自慢をしたら事件が起きた
しおりを挟む月曜日。倒れた日が金曜日だったお陰で学校を休まなくて済んだ。
変に心配されたくもないしな、実際は元気そのものだし。
それにしてもフランセーズは俺の世界が危ないって言ってたけど、どういう事だろう。
俺が地球に戻った所で意味ないのに。どうせ力なんて無いんだ。
「おっす春野」
「おー、山里」
教室ですぐに声を掛けてきた山里は、葉っぱ集めが趣味のあいつである。
明るい髪をしたオシャレ眼鏡で、高校デビューしたタイプだ。
趣味は少し変わっているが、俺と仲良くするくらいだから、人当たりがとにかく良い。
誰とでも喋るし、誰とでも仲が良さそうなのに、何故か俺とつるむことが多い。
山里曰く、俺は気を使わなくてもいい楽な相手らしい。俺も楽だ。
いつも山里の恋バナを聞いていたが、とうとう俺にも春が来た。
異世界で過ごした時間は、ここではほとんど経っていないから、最悪この土日で付き合った事にしてもいいだろう。
手招きして、山里を近くに呼んで、耳を貸せと内緒話の姿勢を取らせる。
「俺さ、恋人ができたんだよ」
「はあっ!?」
まだ朝早い時間だからあまり人はいないが、それでも突然大声になった山里は少し注目される。
「え、マジかよ、どんな子? この学校の奴?」
山里は慌てて声を潜めて俺に問い掛ける。
「この学校じゃない、というか結構年上」
「うわーなんかポイわぁ」
年上好きに見えていたのか?
でも学校でアプローチをされても全く興味を持たなかったという実績があるから仕方ないかもしれない。
「可愛い系? 綺麗系?」
「めちゃくちゃ綺麗」
「うっそ、画像見せろよ」
「無い……俺も見たい……」
ホームシックならぬ魔王様シックだ。
急にお別れになったけど、正直あんまりそこは焦ってない。魔王様は迎えに来てくれるって信じてるから。
でも、それとこれとは別に、ただただ魔王様成分が足りない。
「出会ったのは直接なんだけど、日本じゃなかなか会えない距離なんだよ」
「まさかの国際遠距離恋愛」
「リ、リ、リ、リズ……って言うんだ」
本人がいないのを良いことに呼び捨てしちゃったー!
変な汗もかいてるし声も震えてすげー不自然になったけど、言っちゃった。
「リズさんか。どこで出会ってどうして付き合う事になったんだよ」
「どこで……って言うか俺の一目惚れで付き纏ったから?」
「なんでそれで付き合えたんだよ! 犯罪じゃねーか!」
俺もそう思う。出会ったのが地球じゃなくて本当に良かった。
「んー、恋のライバルと決闘して勝てたら付き合えた」
「どこかの部族なのか?」
種族は違うから、あながちその表現は間違っていないかもしれない。
「春野って運動だけはできるもんな」
「もっと格闘技術を学んでおけば良かったって思ったよ」
なんか普通に受け入れられたな。自分でも言ってる事がおかしいのはわかってるし、信じてない可能性もあるけど。
「俺の話、嘘っぽい?」
「いや? お前は嘘ついてまで無駄話したいタイプじゃないだろ」
良い奴だな。山里になら魔王様を会わせてやってもいいかもな。
「その通りだな。だからいつかお前には紹介する」
「え、超楽しみ」
そうこうしてると予鈴が鳴って、朝礼が始まった。
学校生活はとても懐かしく感じるけど、当たり前の日常に戻って来たんだと少しずつ実感していく。
異世界からの帰還に特別感動がある訳でもないし、帰って来れて良かったとも素直に思えず、落ち着かなかった。
この生活が嫌いでもなく、ちゃんと両親も友人もいる世界は、とても幸せだと思うし、この幸せを守りたいとも思うけど、この世界で出来る事が少な過ぎて居心地が悪い。
一度力を知ってしまったせいで、無い物ねだりが激しくなっているのを感じる。
「弁当食おうぜ」
「おー」
山里が机を合わせて弁当を広げる。
こいつの恋愛状況を聞いてみたくなったので、口を開こうとした瞬間だった。
ガシャアンッというけたたましい音が教室に響いた。
窓際にいたクラスメイトと机が吹き飛んで、少し離れていた者にはガラスが突き刺さる。
キャアアアともギャアアアともつかない悲鳴が上がった。
動ける奴はパニックで逃げ惑い、動けない奴は血溜まりに沈んでいる。
上がる心拍数とは逆に、俺の脳は冷えていった。
これが、フランセーズの言っていた危機か。
窓からは、グリフォンみたいな鳥とケモノが混ざった巨大な生物が入って来た。
角が何本も生えている。これは、話に聞いていた魔獣だ。
でも何故魔獣が地球に?
いや、学校にいる時点で俺に関係しているに決まっている。
弱気になりそうな自分を鼓舞する。
力なんて無くても、人より運動神経が良い自覚がある。
せめて動けない奴を助け出すくらいは今の俺にも出来るはずだ。
「山里、動けるか」
「え、お、おう……」
「ゆっくり教室を出ろ、俺が引き付けてる間に、できる限りみんなに声をかけて逃げろ」
山里の返事は待たず一歩二歩と窓に近付く。散乱したガラスや木くずを踏む音が妙に教室に響く。
「そこ退け、鳥野郎」
ダッシュで跳び蹴りを食らわせる。
少しでもグラついてくれれば程度の気持ちだった。
しかし、ドガァンッと窓枠を突き破って鳥野郎が外へ吹き飛んだ。
「え」
その声は俺だけじゃなく、近くの生徒を誘導していた山里の声も重なっていた。
スムーズな着地まで出来てしまい、端から見たらカッコよかっただろうな、なんて妙に冷静だった。
逆にパニック症状の一つなのかもしれないが、混乱している場合じゃないので、一番被害が大きい五人を見る。
頭を打ってたりしたら動かさない方が良いとも聞くし、移動してもいいのかすらわからず途方に暮れた。
山里も怪我人を覗き込んで、現状に顔をしかめる。
「救急車、間に合うかな」
不安げな山里。俺も正直厳しいと思った。
二人は魔獣に踏まれ、下敷きになっていたし、三人は壁に叩き付けられていたのだ。意識もなく、虫の息だった。
「せめて回復魔法が使えれば……」
拳を握り、悔しさにうちひしがれていたのだが、急に五人が光り始めた。
「は?」
「え?」
みるみる五人から溢れる血が止まり、怪我という怪我は見当たらなくなる。
なんで? 怖い。
俺と山里は、ゆっくりとお互いの顔を見合わせて、それから苦笑いした。
「えっと、その、これは……」
「春野、実はさっきから言いそびれてたんだけど、お前の腹から何か出てんぞ」
普通だったら聞かない言葉だ。でも何となく察している。微妙にさっきからお腹がポカポカしていたのだ。
ゆっくりと下に視線を移すと、まるで突き刺さっているかのように、剣の柄の部分が出てきていた。
「光の剣だな……」
凄まじい光景だろうなと思いながら、俺は光の剣を腹から引き抜いた。
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