34 / 152
【第二章】囚われの魔王様
十七話 元王子フランセーズの旅の報告
しおりを挟むオーベルジュへ向かってからの話をしましょうか。
結果から言うと、婚約者であるテリア王子はとても良い方でした。
男性だという事は今回初めて知りましたが、それはお互い様だったようです。
この世界では性別は重要視されないので、こういった事はよく起こります。
テリアは温厚そうで、物腰がとても柔らかいです。
あまり口数は多くはありませんが、足りないという事もありません。
サラサラの短めの、光が当たると紺色になる黒髪。
大きめの瞳は可愛らしい印象を与えますが、全体的には精悍と言えます。
僕の都合がつくまで、婚姻はいくらでも待つと言ってくれ、僕の国であるラトラディションの復興にも協力を惜しまないとまで……。
しかし、僕は迷っていた。
ラトラは国全体で悪事を働いていたのだと思う。
その全てを知る覚悟も、それを背負ってまで王族であり続けたいのかも、自分ではわからなくなっていたのです。
そんな状態ですから、婚約破棄の選択もあると提案しましたが、その気はないとハッキリ言われました。
今はやるべき事があるので、そちらを優先することにして、この話は打ち切りました。
城で寝泊まりさせて貰いながら、神殿へ通うことになりました。
神殿自体は変わった所もなく、僕が触れても動いても祈っても、何も起きませんでした。
しかし、神についての書物が沢山あったので、時間が許す限り調査する事にしました。
オーベルジュの方が魔王城から近いので、セモリナへ向かった二人より、僕の方が先に調査を始めたようです。
僕のオーベルジュ到着から二日後にデュラムから連絡がありました。デュラム一人でユタカも運んでいるのですから、速度は落ちてしまいますもんね。
到着の連絡からそれ程経たずにユタカが行方不明だと連絡を受け、思わず笑ってしまいました。
心配なんて微塵も湧いてこなかったからです。
魔王の事は二人に任せて、僕は神や世界についての調査に専念しました。
調査では色々とわかりました。
魔物がずっとずっと昔には、人間が想像する通りの悪逆非道を尽くす凶悪な存在だったこと。
魔獣の方が、理性的だったこと。
ある時期を境に二つの種族で性質が変わったそうです。
魔神は、人の欲望を弄んで混乱に導くような物語が多く見受けられました。
僕が戦った魔神のような、強さを誇示するタイプは珍しいようですが、まあどうでもいいですね。
資料というより絵本というか、画集のような『神々の宝物』という題名の大きな本がありました。
神は必ず自分の世界を持っていて、それをまるで宝石を自慢するみたいに、品評会をしている内容でした。
手入れをしたり、配置を変えたり、神々は自分の世界をいじるのですが、一人だけ手を加えずただただ眺める神がいました。
品評会にも出さず、ずっと見ているだけ。
そんな神は異端とされ、迫害され、地に落ちたと記されていました。
これらの資料は正確ではないにせよ、どこかしらに事実はあるのでしょう。
なんとなくそう感じました。
調査の間に魔王も戻って来たようです。
僕も程ほどに切り上げて魔王城に戻ろうと思った時です。
神殿の祈りを捧げる広間に入った瞬間。
僕は神と出会いました。
「貴様、神か」
僕の立っている世界が緑に囲まれた草原に変わり、ユタカが言っていた大木があります。
すぐさま剣を抜き、臨戦態勢を取りました。
「神、レジャンデール。レジィって呼んでね」
「貴様と話す事などない」
「レジィの事は嫌いでも、ユタカと魔王は好きでしょ?」
無言で睨むが、それは肯定と同じなので、神はそのまま話を続けました。
「ユタカの世界が危ないの。でも、レジィじゃどうすることも出来ない。お願い、ユタカを元の世界に帰してあげて」
「何故僕が?」
「光の勇者である君にしか出来ない事があるから」
僕にしかできないこと。
回復か守護。もしくはどちらも、か。
「ユタカをただ戻しても、ユタカは平凡な子供のまま。それじゃ意味がない」
「ユタカの自己評価が低いのはそのためか……」
彼はずっと言っていた。自分は何も凄くないと。
「でも、魔力が解放できるようになれば、元の世界でも勇者になれる」
「ユタカに魔力があると?」
「あるよ。神が世界を創る時、必ず魔力が存在する世界からカスタマイズする。魔法のない世界の生物は、魔力を外に出すための穴がなくて、ずっと体内に魔力が溜まりつづけているの」
魔力を外に出せないため、この世界に来た時に活性化した魔力が体内を巡って、恐ろしい身体能力になるらしいのです。
魔力自体には慣れているため、自ら魔法を使用することは出来ないものの、付与魔法の操作が可能で、他者の魔法への耐性が高いとのことでした。
「ユタカが魔力を出せるようにするための、穴をあけて欲しいんだ」
デュラムの報告では、魔王とユタカは伴侶となるらしい。
魔王がユタカを守ろうとすると僕にはどうすることも出来ない。
ユタカも、魔王を優先して自分の世界を選ばないかもしれない。
これは僕の勝手な想いですが、故郷を失う悲しみをユタカには知って欲しくないと強く思いました。
何より話し合いの時間を持っている場合ではないらしいのです。
神と僕の独断になりますが、ユタカの世界を守りたいという考えは共通していました。
しかし、人をなんとも思っていないはずの神がここまで気に掛けるのか疑問でした。
「何故、そこまでしてユタカの世界を守るのだ?」
神はあえてその言葉を無視するかのように、僕に言いました。
「上手くいったら、この世界の時間を巻き戻してあげる。そうすれば、君の国は滅ぶ前になる。レジィはもう何もしないよ。幸せに、君は王子様として暮らせるんだ」
幸せ?
そんな訳はない。きっと魔王が手を下さなくても、いつかは僕の国は断罪されていたに違いない。
家族も含め、国民のほとんどが罪人だと知っている今では、それを選びたいとは思わなかった。
皮肉にも僕にあった迷いは、この神の提案によって全てなくなりました。
僕は国の罪を知り、その上でより良い国をつくりたい。清く正しく美しく、そう誇れるような国の王になる。
それが僕の答えでした。
「結構だ」
「いいの? レジィに凄く怒ってたでしょ?」
「自分の都合で簡単に人を消すような神は今でも嫌いだ。だが、だからこそ知れた世界もある。何が正義で悪なのかは、僕はこれからも学び続ける」
そう言って、神にこれからの指示を仰ぎます。
僕がユタカを元の世界に戻すためにできることを知らなければなりません。
もしかしたらユタカにも魔王にも嫌われるかもしれませんが、それを理解した上での僕の正義なのです。
そうして、僕は勇者ユタカを殺しました。
0
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる