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【第二章】囚われの魔王様
十七話 元王子フランセーズの旅の報告
しおりを挟むオーベルジュへ向かってからの話をしましょうか。
結果から言うと、婚約者であるテリア王子はとても良い方でした。
男性だという事は今回初めて知りましたが、それはお互い様だったようです。
この世界では性別は重要視されないので、こういった事はよく起こります。
テリアは温厚そうで、物腰がとても柔らかいです。
あまり口数は多くはありませんが、足りないという事もありません。
サラサラの短めの、光が当たると紺色になる黒髪。
大きめの瞳は可愛らしい印象を与えますが、全体的には精悍と言えます。
僕の都合がつくまで、婚姻はいくらでも待つと言ってくれ、僕の国であるラトラディションの復興にも協力を惜しまないとまで……。
しかし、僕は迷っていた。
ラトラは国全体で悪事を働いていたのだと思う。
その全てを知る覚悟も、それを背負ってまで王族であり続けたいのかも、自分ではわからなくなっていたのです。
そんな状態ですから、婚約破棄の選択もあると提案しましたが、その気はないとハッキリ言われました。
今はやるべき事があるので、そちらを優先することにして、この話は打ち切りました。
城で寝泊まりさせて貰いながら、神殿へ通うことになりました。
神殿自体は変わった所もなく、僕が触れても動いても祈っても、何も起きませんでした。
しかし、神についての書物が沢山あったので、時間が許す限り調査する事にしました。
オーベルジュの方が魔王城から近いので、セモリナへ向かった二人より、僕の方が先に調査を始めたようです。
僕のオーベルジュ到着から二日後にデュラムから連絡がありました。デュラム一人でユタカも運んでいるのですから、速度は落ちてしまいますもんね。
到着の連絡からそれ程経たずにユタカが行方不明だと連絡を受け、思わず笑ってしまいました。
心配なんて微塵も湧いてこなかったからです。
魔王の事は二人に任せて、僕は神や世界についての調査に専念しました。
調査では色々とわかりました。
魔物がずっとずっと昔には、人間が想像する通りの悪逆非道を尽くす凶悪な存在だったこと。
魔獣の方が、理性的だったこと。
ある時期を境に二つの種族で性質が変わったそうです。
魔神は、人の欲望を弄んで混乱に導くような物語が多く見受けられました。
僕が戦った魔神のような、強さを誇示するタイプは珍しいようですが、まあどうでもいいですね。
資料というより絵本というか、画集のような『神々の宝物』という題名の大きな本がありました。
神は必ず自分の世界を持っていて、それをまるで宝石を自慢するみたいに、品評会をしている内容でした。
手入れをしたり、配置を変えたり、神々は自分の世界をいじるのですが、一人だけ手を加えずただただ眺める神がいました。
品評会にも出さず、ずっと見ているだけ。
そんな神は異端とされ、迫害され、地に落ちたと記されていました。
これらの資料は正確ではないにせよ、どこかしらに事実はあるのでしょう。
なんとなくそう感じました。
調査の間に魔王も戻って来たようです。
僕も程ほどに切り上げて魔王城に戻ろうと思った時です。
神殿の祈りを捧げる広間に入った瞬間。
僕は神と出会いました。
「貴様、神か」
僕の立っている世界が緑に囲まれた草原に変わり、ユタカが言っていた大木があります。
すぐさま剣を抜き、臨戦態勢を取りました。
「神、レジャンデール。レジィって呼んでね」
「貴様と話す事などない」
「レジィの事は嫌いでも、ユタカと魔王は好きでしょ?」
無言で睨むが、それは肯定と同じなので、神はそのまま話を続けました。
「ユタカの世界が危ないの。でも、レジィじゃどうすることも出来ない。お願い、ユタカを元の世界に帰してあげて」
「何故僕が?」
「光の勇者である君にしか出来ない事があるから」
僕にしかできないこと。
回復か守護。もしくはどちらも、か。
「ユタカをただ戻しても、ユタカは平凡な子供のまま。それじゃ意味がない」
「ユタカの自己評価が低いのはそのためか……」
彼はずっと言っていた。自分は何も凄くないと。
「でも、魔力が解放できるようになれば、元の世界でも勇者になれる」
「ユタカに魔力があると?」
「あるよ。神が世界を創る時、必ず魔力が存在する世界からカスタマイズする。魔法のない世界の生物は、魔力を外に出すための穴がなくて、ずっと体内に魔力が溜まりつづけているの」
魔力を外に出せないため、この世界に来た時に活性化した魔力が体内を巡って、恐ろしい身体能力になるらしいのです。
魔力自体には慣れているため、自ら魔法を使用することは出来ないものの、付与魔法の操作が可能で、他者の魔法への耐性が高いとのことでした。
「ユタカが魔力を出せるようにするための、穴をあけて欲しいんだ」
デュラムの報告では、魔王とユタカは伴侶となるらしい。
魔王がユタカを守ろうとすると僕にはどうすることも出来ない。
ユタカも、魔王を優先して自分の世界を選ばないかもしれない。
これは僕の勝手な想いですが、故郷を失う悲しみをユタカには知って欲しくないと強く思いました。
何より話し合いの時間を持っている場合ではないらしいのです。
神と僕の独断になりますが、ユタカの世界を守りたいという考えは共通していました。
しかし、人をなんとも思っていないはずの神がここまで気に掛けるのか疑問でした。
「何故、そこまでしてユタカの世界を守るのだ?」
神はあえてその言葉を無視するかのように、僕に言いました。
「上手くいったら、この世界の時間を巻き戻してあげる。そうすれば、君の国は滅ぶ前になる。レジィはもう何もしないよ。幸せに、君は王子様として暮らせるんだ」
幸せ?
そんな訳はない。きっと魔王が手を下さなくても、いつかは僕の国は断罪されていたに違いない。
家族も含め、国民のほとんどが罪人だと知っている今では、それを選びたいとは思わなかった。
皮肉にも僕にあった迷いは、この神の提案によって全てなくなりました。
僕は国の罪を知り、その上でより良い国をつくりたい。清く正しく美しく、そう誇れるような国の王になる。
それが僕の答えでした。
「結構だ」
「いいの? レジィに凄く怒ってたでしょ?」
「自分の都合で簡単に人を消すような神は今でも嫌いだ。だが、だからこそ知れた世界もある。何が正義で悪なのかは、僕はこれからも学び続ける」
そう言って、神にこれからの指示を仰ぎます。
僕がユタカを元の世界に戻すためにできることを知らなければなりません。
もしかしたらユタカにも魔王にも嫌われるかもしれませんが、それを理解した上での僕の正義なのです。
そうして、僕は勇者ユタカを殺しました。
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