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【第二章】囚われの魔王様
十四話 勇者ユタカは魔王様の服を脱がせるのか
しおりを挟む城に帰って来たけど、イーグルに破壊された部分が直っているなんて都合の良い事はない。
「まずは塞ぐぞ」
天井が大きく崩れていて、雨風をしのぐ事ができないのは大変だ。
リズ様はすぐさま大掛かりな城全体の修繕に取り掛かる。
「お手伝いする事はありますか?」
「いや、私の魔法でやれるだけやるから今は大丈夫だ」
そう言うと、リズ様はパラパラと種のような物をばらまいた。
修繕作業を得意の植物で行うつもりらしい。
地面が光の絨毯みたいに輝いたかと思うと、蔦や枝がいっせいに城に絡み付いていく。
みるみる石材と木が融合して、ファンタジーの遺跡みたいになっていく。
「おお~綺麗だな」
デュラムも感心したように植物の成長を眺めている。
俺も神秘的な光景に目が離せない。
やがて天然の屋根が出来上がった。
晴れた時は、葉の隙間から光が差し込むようになっていて、天気の悪い時には隙間なく木々で塞がれる便利仕様だそうだ。
魔王城があっという間に生きた城に早変わりである。
「全体の修繕はこれで良いだろう。屋内は重要な部分はフランセーズが守っていたから大丈夫だろうが、細かい修理や改装は各自好きにしろ」
リズ様はこの流れで、デュラムに約束していた調理場と倉庫以外にも自室を与えた。
これで魔王と三人の勇者が住まう城になった。
観光地にでもしたら儲かりそうだな。
「ユタカ」
「はい、なんでしょうかリズ様」
村人服からいつもの鎧に装備を変更してリズ様に跪く。
「新しい寝室を用意する」
「はあ」
「何を呆けている、お前と共に過ごす場所だ」
「んぁ゛!?」
めちゃくちゃ変な声が出てしまった。
「ふ、ふ、夫婦の寝室ってやつですね」
動揺が全く隠せない。声だけでなく顔まで裏返ってしまいそうだ。
「ああ、そうだ。だが共寝は直ぐにでなくていい。ゆっくり話す時間を取りやすいようにしたいのだ」
自室は互いに今まで通りだけど、寝る時のみ同室という環境を試してみたいということらしい。
セックスのお誘いということじゃなかった。
少しだけ残念に思いながらも、単純に相性を見るのは確かに大事だ。
イビキとか歯ぎしりがうるさいと嫌だよな、わかる。
壊れていない余った部屋を見て周り、城の中でも広くて、一番奥に位置した部屋を寝室に決めた。
リズ様によって互いの部屋に、直接寝室に移動できる魔方陣が設置された。
一瞬で遠い部屋に行けるなんて、魔法マジ万能。
寝室には、俺が三人並んでゴロゴロできそうなでっかいベッドが用意された。
贅沢に中央にドーンと置かれて、本当に寝る事がメインの部屋なんだと妙に緊張してしまう。
ベッド全体が天井からつり下げられた薄い布で覆われてる。
天蓋付きベッドっていうより形はちょっとサーカスのテントっぽい。
部屋の中に秘密基地ができたみたいだ。
外からはシルエット程度しか中の様子が見えないのに、中に入ると、薄いベール越しくらいの鮮明さで部屋が見渡せて驚いた。
「マジックミラー!?」
「ユタカの世界ではそう言うのか。敵襲に気付かないのは困るからな」
一番無防備な状態ですもんね。
リズ様が天蓋を点検しているのをベッドに座りながら眺める。
俺は魔法が使えないので基本役立たずなのだ。
今のリズ様は、魔王服からマントを外した状態なので体のラインがよく見える。
髪は長いけど、だからといって女性らしさは皆無だ。
全体的にスラリとしているけど、肩幅もあるし、厚みもある。
鍛えられた男の体としか言えない。
ヤバい、すんごくムラムラしてきた。
こんなに近くで体を見続けるなんて今までしなかったし。
ベッドに好きな人と二人という事実が、今更俺を襲ってくる。
なんか別の事を考えよう、そうだな、魔王服って脱がせるの難しくないか?
ボタンも多いし、スムーズに脱がす事が出来るのか心配になってきた。
全然別の事に思考は移動してないが、気になるものは気になる。
「リズ様、その服ってどうやって脱ぐんですか?」
「魔法だが」
そうでした。
いやでも待ってくれ、いざセックスってなった時に魔法で衣服が消えるとか情緒が無い。
脱がす楽しみもセックスの一部だって雑誌で読んだ気がする。
「一応、確認なのですが、今からエッチしますっていう時って、服はどうするんですか?」
「魔法で全て消すだろうな」
「やっぱり! それ禁止ですからね!」
「なんなんだ、急に」
リズ様は呆れたように俺を見る。
これは譲れないので、しっかり伝えなければ。
「いきなり全裸はロマンがありません」
「交尾できればいいから下だけ消せばいいのか」
「ぜんっぜん違いますよ!!」
それもまあ、シチュエーションによっては大いにアリですけど。
でもそうじゃない、それはもっと経験を積んでからでいい。
今は基本的なことから! 魔物の価値観には負けないぞ!
「人間には、相手の服を脱がすという行為にもちゃんと意味があるんです」
「そうなのか。で、どういう意味なのだ?」
改めて言うとなると結構恥ずかしいが、雑誌の受け売りを述べておこう。
「プレゼントの包み紙を開ける時のワクワクとか、ドキドキ感です。服を脱がしている時間も興奮を高めるための儀式というか、とっても価値のある時間なんです! だから俺は一枚一枚リズ様の服を脱がしたいんです!」
童貞ゆえの想像語りになってしまうのが内心ではしんどい。
いや、でも間違ってないはずだ。
「ほう……それは私でも感じられる事なのか興味があるな」
ん? お? まさか?
「ユタカ、故郷の服になれ。私も脱がせてみたい」
「ッシャ!!」
リズ様の興味を引きだし、見事脱がし合いっこの権利を獲得した。
俺は心の中でだけにとどめたつもりのガッツポーズを全力でキメていた。
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