【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
30 / 152
【第二章】囚われの魔王様

十三話 勇者ユタカは異世界の結婚が知りたい

しおりを挟む
 

「リズ様、魔界には結婚式とか婚姻届ってないですよね?」


 もうそろそろ城が近いという時に、ふと思い浮かんで聞いてみた。


「そうだな、そういったものはないが……繁殖相手を口説くためのアイテムくらいはあるな」
「指輪とか、宝石とか、年に一回しか咲かない花とかですか」
「妙に具体的だな……まあ、似ているか。魔界一美味と言われる果実を用意すると喜ばれる」


 おお、それは確かに。口説かれている感じがする。
 デュラムがめちゃくちゃソワソワしてるのが視界の端に見える。
 魔界一美味って普通に興味あるし食べてみたいな。


「美味しい物って貰うと嬉しいですよね」
「わかる、わかるぞ」


 横から同意してくるデュラム。新しい食材に興味津々だな。


「俺も手に入れてリズ様に贈りたいな」
「そん時は俺の分も手に入れて売ってくれよ」
「金はいいよ、プレゼントする」


 二人で盛り上がっていると、リズ様が感情のない声で爆弾を落とす。


「その果実に求められているのは味よりも、強烈な催淫効果だ」
「な゛っ!?」


 思わずデュラムと顔を見合わせる。
 目を細めたリズ様が少し怖い。
 美しいだけに、迫力の増し方がハンパない。


「その果実を渡すという意味をよく考えてから相手に贈る事だな」
「は、はい……」
「お、おう……」


 知らなかったとはいえ、リズ様からすれば完全に浮気の計画現場だ。
 俺もデュラムも震える事しかできなかった。

 別の存在によそ見するつもりは欠片もないが、リズ様ってもしかして独占欲が強いのかもしれない。
 正直めちゃくちゃ嬉しい誤算だけど。
 もっと淡泊だと思っていただけに、情熱的な所を知ってときめく。


「あっ、じゃあユタカの故郷はどうなんだよ、結婚って」


 空気を変えようとデュラムが明るい声で話題を移す。
 デキる男はマジで助かる。


「役所に婚姻届を出すだけで良いはず……でも俺はまだ結婚できる年齢じゃないんだよな。来年になればできるけど」
「紙に魔力などもないのだろう? なんの意味があるんだ?」


 リズ様が本当に理解できないという顔をしている。
 魔力のありなしの常識の違いが俺にはわかんない。
 意味と言われても書類一枚で全て決まる世界なんだよなぁ。


「社会に認められるって感じ、ですかね……基本的には書類だけだけど、結婚式で神の前で誓いを立てたりもします」


 親戚の結婚式を思い出しながら言ってみる。


「神なんぞに誓ってなんの意味がある?」


 いや、神の存在を間近に見るまでは信じてすらもいなかった俺には何も言えないんですけど。
 神を知った今は尚更リズ様の言葉がわかる。本当に誓っても意味はないな。


「形式的なものなんで、あんまり深い意味は考えてないかもしれないです、俺の故郷だと。他の国だともっと宗教的な意味合いが変わるかもしれませんけど、俺は詳しくないので」
「相手に直接誓わねば意味はあるまい」
「ホントだよな~、この世界じゃ直接契約だし」


 デュラムまで……ん? 直接契約?


「なあ、デュラム。その直接契約ってどうやるんだ?」
「契約書と魔力を交わす。するとビックリ、お互いの魔力を共有できるようになる」


 単純に言えば、20の魔力を持つ者が40の魔力を持つ者と結婚したら60の魔力が必要な魔法が使えるようになると考えていいらしい。
 勿論、共有なので同時に使うことはできない。30と30の魔法なら同時に発動できるということだ。


「ユタカとリスドォルがこの世界で直接契約したらヤバい事になりそうだな」
「人間同士の婚姻しか想定されてないだろうしな」


 リズ様とデュラムが真剣な顔になっている。
 俺も結構危ない制度だなって思った。
 魔力の少ない権力者のための魔力タンクとして無理矢理契約させられるなんてことが起きてそうだ。

 あ、もしかしてフランセーズが婚約に浮かない顔だったのって、相手が魔力目当てだと思ってたりとか。有り得る。
 でも勇者になったのは最近だし、勇者の魔力をあてにしてるとは思えないけど。
 王族のことは全然知らないから俺が悩んでも仕方ないんだが。

 あとは相手が死んだ時はどうなるんだろ。両方死ぬのかな。


「デメリットもあるし、最近はあんまりこの方法は取られてないけどな」
「やっぱり」


 デュラムの言葉に無意識に声が出ていた。

 予想通りだが、片方が死ぬと大変な事になるそうだ。
 両方死ぬってことはないが、残された方は上手く契約を解除できないと元の魔力よりかなり減ってしまう。
 病気で死期がわかる場合は解除に問題はないが、事故などで突然死ぬと対処できず、魔法が使えないくらい魔力が無くなる可能性が高いとのこと。
 それってこの世界では結局死なのでは。


「最近だとあまり契約はせずに、魔力だけを交わす事が多いな」
「魔力を交わすだけだと、どうなるんだ?」
「相手の魔力が感知しやすくなるだけだ。でも、危険を知ったり、魔力の減り方とかで体調を把握したりできるぞ」


 虫の知らせの強化版か。
 確かに夫婦って感じがして良いな。


「ふむ……魔力を交わすとは具体的にはどのような方法を取るんだ?」


 リズ様も気になるようだ。


「お互いの魔力を篭めた物を交換してもいいが、肌身離さず結構な期間が必要になるから、それは婚約者がいる奴向きだ。一番早いのは儀式的なセックスだな」


 合法セックスきた。
 顔がニヤつきそうになるのを必死に堪える。

 人によるらしいが、二日~三日くらい外との接触を断って、同じ空間で過ごす儀式があるそうだ。ちゃんと想い合っている者同士なら、それで大体は簡単に魔力が交わせるらしい。
 ハネムーンの個室篭り版と思えばありだな。


「あ、よく考えたらリスドォルもユタカも魔力の扱いに慣れてるなら、儀式とか必要なく、触れ合ってるだけで今すぐにでもできそうだな」
「そんな!?」


 デュラム、余計な事を言うな!
 俺自身は魔力の扱いをできている自覚すらないというのに!


「まあ、可能だろうな」


 リズ様まで!
 スムーズに事を迎えられる口実がなくなったショックで泣きそうだ。
 俺が目に見えて落ち込んでいるのに気付いたらしい二人が口々に言った。


「なんだユタカ、それ以外でセックスしないつもりなのか?」


 ニヤニヤしているデュラム。


「何を悩んでいるのかわからんが、夫婦の営みに理由など必要ないだろう」


 真顔でキッパリと言い放つリズ様。


 どうやったらリードできるんだとか、色々考えていた俺が馬鹿だった。
 こんなイイ男達に囲まれて背伸びなんかなんの意味もない。

 照れのような、むずがゆさを胸に感じた所で、無事に魔王城に到着した。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...