【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【第二章】囚われの魔王様

十三話 勇者ユタカは異世界の結婚が知りたい

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「リズ様、魔界には結婚式とか婚姻届ってないですよね?」


 もうそろそろ城が近いという時に、ふと思い浮かんで聞いてみた。


「そうだな、そういったものはないが……繁殖相手を口説くためのアイテムくらいはあるな」
「指輪とか、宝石とか、年に一回しか咲かない花とかですか」
「妙に具体的だな……まあ、似ているか。魔界一美味と言われる果実を用意すると喜ばれる」


 おお、それは確かに。口説かれている感じがする。
 デュラムがめちゃくちゃソワソワしてるのが視界の端に見える。
 魔界一美味って普通に興味あるし食べてみたいな。


「美味しい物って貰うと嬉しいですよね」
「わかる、わかるぞ」


 横から同意してくるデュラム。新しい食材に興味津々だな。


「俺も手に入れてリズ様に贈りたいな」
「そん時は俺の分も手に入れて売ってくれよ」
「金はいいよ、プレゼントする」


 二人で盛り上がっていると、リズ様が感情のない声で爆弾を落とす。


「その果実に求められているのは味よりも、強烈な催淫効果だ」
「な゛っ!?」


 思わずデュラムと顔を見合わせる。
 目を細めたリズ様が少し怖い。
 美しいだけに、迫力の増し方がハンパない。


「その果実を渡すという意味をよく考えてから相手に贈る事だな」
「は、はい……」
「お、おう……」


 知らなかったとはいえ、リズ様からすれば完全に浮気の計画現場だ。
 俺もデュラムも震える事しかできなかった。

 別の存在によそ見するつもりは欠片もないが、リズ様ってもしかして独占欲が強いのかもしれない。
 正直めちゃくちゃ嬉しい誤算だけど。
 もっと淡泊だと思っていただけに、情熱的な所を知ってときめく。


「あっ、じゃあユタカの故郷はどうなんだよ、結婚って」


 空気を変えようとデュラムが明るい声で話題を移す。
 デキる男はマジで助かる。


「役所に婚姻届を出すだけで良いはず……でも俺はまだ結婚できる年齢じゃないんだよな。来年になればできるけど」
「紙に魔力などもないのだろう? なんの意味があるんだ?」


 リズ様が本当に理解できないという顔をしている。
 魔力のありなしの常識の違いが俺にはわかんない。
 意味と言われても書類一枚で全て決まる世界なんだよなぁ。


「社会に認められるって感じ、ですかね……基本的には書類だけだけど、結婚式で神の前で誓いを立てたりもします」


 親戚の結婚式を思い出しながら言ってみる。


「神なんぞに誓ってなんの意味がある?」


 いや、神の存在を間近に見るまでは信じてすらもいなかった俺には何も言えないんですけど。
 神を知った今は尚更リズ様の言葉がわかる。本当に誓っても意味はないな。


「形式的なものなんで、あんまり深い意味は考えてないかもしれないです、俺の故郷だと。他の国だともっと宗教的な意味合いが変わるかもしれませんけど、俺は詳しくないので」
「相手に直接誓わねば意味はあるまい」
「ホントだよな~、この世界じゃ直接契約だし」


 デュラムまで……ん? 直接契約?


「なあ、デュラム。その直接契約ってどうやるんだ?」
「契約書と魔力を交わす。するとビックリ、お互いの魔力を共有できるようになる」


 単純に言えば、20の魔力を持つ者が40の魔力を持つ者と結婚したら60の魔力が必要な魔法が使えるようになると考えていいらしい。
 勿論、共有なので同時に使うことはできない。30と30の魔法なら同時に発動できるということだ。


「ユタカとリスドォルがこの世界で直接契約したらヤバい事になりそうだな」
「人間同士の婚姻しか想定されてないだろうしな」


 リズ様とデュラムが真剣な顔になっている。
 俺も結構危ない制度だなって思った。
 魔力の少ない権力者のための魔力タンクとして無理矢理契約させられるなんてことが起きてそうだ。

 あ、もしかしてフランセーズが婚約に浮かない顔だったのって、相手が魔力目当てだと思ってたりとか。有り得る。
 でも勇者になったのは最近だし、勇者の魔力をあてにしてるとは思えないけど。
 王族のことは全然知らないから俺が悩んでも仕方ないんだが。

 あとは相手が死んだ時はどうなるんだろ。両方死ぬのかな。


「デメリットもあるし、最近はあんまりこの方法は取られてないけどな」
「やっぱり」


 デュラムの言葉に無意識に声が出ていた。

 予想通りだが、片方が死ぬと大変な事になるそうだ。
 両方死ぬってことはないが、残された方は上手く契約を解除できないと元の魔力よりかなり減ってしまう。
 病気で死期がわかる場合は解除に問題はないが、事故などで突然死ぬと対処できず、魔法が使えないくらい魔力が無くなる可能性が高いとのこと。
 それってこの世界では結局死なのでは。


「最近だとあまり契約はせずに、魔力だけを交わす事が多いな」
「魔力を交わすだけだと、どうなるんだ?」
「相手の魔力が感知しやすくなるだけだ。でも、危険を知ったり、魔力の減り方とかで体調を把握したりできるぞ」


 虫の知らせの強化版か。
 確かに夫婦って感じがして良いな。


「ふむ……魔力を交わすとは具体的にはどのような方法を取るんだ?」


 リズ様も気になるようだ。


「お互いの魔力を篭めた物を交換してもいいが、肌身離さず結構な期間が必要になるから、それは婚約者がいる奴向きだ。一番早いのは儀式的なセックスだな」


 合法セックスきた。
 顔がニヤつきそうになるのを必死に堪える。

 人によるらしいが、二日~三日くらい外との接触を断って、同じ空間で過ごす儀式があるそうだ。ちゃんと想い合っている者同士なら、それで大体は簡単に魔力が交わせるらしい。
 ハネムーンの個室篭り版と思えばありだな。


「あ、よく考えたらリスドォルもユタカも魔力の扱いに慣れてるなら、儀式とか必要なく、触れ合ってるだけで今すぐにでもできそうだな」
「そんな!?」


 デュラム、余計な事を言うな!
 俺自身は魔力の扱いをできている自覚すらないというのに!


「まあ、可能だろうな」


 リズ様まで!
 スムーズに事を迎えられる口実がなくなったショックで泣きそうだ。
 俺が目に見えて落ち込んでいるのに気付いたらしい二人が口々に言った。


「なんだユタカ、それ以外でセックスしないつもりなのか?」


 ニヤニヤしているデュラム。


「何を悩んでいるのかわからんが、夫婦の営みに理由など必要ないだろう」


 真顔でキッパリと言い放つリズ様。


 どうやったらリードできるんだとか、色々考えていた俺が馬鹿だった。
 こんなイイ男達に囲まれて背伸びなんかなんの意味もない。

 照れのような、むずがゆさを胸に感じた所で、無事に魔王城に到着した。

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