【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
28 / 152
【第二章】囚われの魔王様

十一話 炎の勇者デュラムは二人を出迎える

しおりを挟む
 

 いくら待てど、ユタカは待ち合わせ場所に戻って来なかった。
 上流階級は好かないから、あまり上には行きたくはなかったが、そんな事も言っていられないので神殿にも探しに行った。
 ユタカは確実に来ていたようだが、神殿に入ってからの足取りが完全に途絶えていた。


「いきなり当たりを引いたか?」


 正直、ユタカを拉致れるような人間がいるとは思えないから心配はしてない。
 まあいいか。
 俺は魔法で文字を書き、フランセーズに飛ばした。


『ユタカが消えた。多分こっちの神殿が正解だったっぽい。戻ってきたら連絡するからゆっくりしてくれ』
『了解した。僕の事は気にしないで合流できたら城へ戻ってくれ』
『あいよ』


 やっぱりフランセーズも心配はしていないようだ。


 さて、俺も折角の地元だから、やりたい事をしよう。

 今まで、自分の腹を満たす事しか考えてなかったが、ユタカとフランセーズが喜んで俺の料理を食べてくれたのを思い出した。
 あの時、人のために料理を作る純粋な喜びを再確認したんだよな。

 食材を買い込んで、炊き出しでもすっかな。
 俺がいた時よりも、孤児がとても増えていた。
 少しでも美味い物を食べさせてやりたい。
 食うにも常に困っていた、過去の俺みたいな子供に喜んで貰いたい。


「結局こんな強さがあっても腹は満たせないんだよな」


 勇者の力を得て、一人で出来る事は増えたが、沢山の子供を救ってやるには金も人員も足りない。


「落ち着いたら、孤児院でも建てるか」


 とても良い考えだと思った。



 ◇◇◇



 それから一週間後、魔王の魔力を感じた。
 戻って来たのだとわかったので、すぐさま当初ユタカと決めていた待ち合わせ場所へ向かう。

 人通りが多い方が目立ちにくいので、一番大きな広場の噴水を指定していた。
 黒髪二人は案外すぐに見付かった。二人とも村人っぽい服装をしている。
 ユタカは完全に地元民だが、魔王はやはり顔立ちが浮き過ぎるな。


「よぉ、戻ってきたか」
「デュラム! 急にいなくなってごめん! まさか一週間も経ってるなんて思わなくて……」
「別になんも心配してねーよ。俺は俺で地元でゆっくりしたしな」


 この様子だと狙って魔王の所に行けた訳じゃないな。
 謝り倒すユタカの髪をグシャグシャにする。


「魔神ぶっ倒したんだろ?」
「おう、ちゃんと魔王様を取り返せた」
「ユタカ」


 咎めるような魔王の声にユタカは自分の口を押さえる。
 恐る恐るユタカは言い直した。


「リズ様」
「お~、お前、いつの間に魔王と名前で呼び合う仲になったんだよ?」


 これはもしや、進展したのか?
 ニヤニヤしていると魔王が俺を睨みつける。


「お前もだ、デュラム。街で魔王と呼ぶな。いつ誰が聞いているかわからぬ。リスドォルと呼べ」


 なんだ、そういうこと。
 まあ、その通りだな。誰もこんな所に魔王がいるなんて思わないだろうが、誰かに気付かれる要素は、減らすに越したことはない。


「あ、俺もリズって呼んじゃ駄目なの?」


 ユタカがギョッとした顔をして俺を見る。
 魔王がその様子に微笑みながら、ユタカの膝をポンと軽く叩く。
 おやおや?
 魔王は俺に視線を戻し、ハッキリと告げる。


「駄目だ。ユタカ専用なんだ」


 どうやらマジで進展したらしい。おめでとう。
 ユタカが真っ赤になった顔を両手で覆って震えている。


「リスドォルね、了解」


 別にそれは構わないんだけど、純粋に気になるからつい聞いてしまった。


「もしかして一週間もかかったのって、ヤりまくってたから……」
「ち、ちげーよ!!」
「ユタカ、静かにしろ、人が見ている」


 魔王は落ち着いてんなぁ。
 意識しまくってるのはユタカだけか。煙でも上がりそうなくらいの赤面っぷりである。


「ま、そっちであった事は道中にでも教えてくれ。とりあえず城に帰ろうぜ」
「そうだな。あまり外で目立って人間を刺激したくはない」


 そう言って魔王は腰掛けていた噴水の縁から立ち上がるが、しっかりユタカの手を握っている。
 想像より、魔王もちゃんとお付き合い出来ているのかもしれない。


「フランセーズはどうした」
「婚約者の所に神殿があるからそっちにいる」
「ふむ。いつかそっちにも行ってみるか、神と連絡が取れるかもしれぬ」
「急用ならこのまま向かうか?」
「いや、そこまでではないから大丈夫だ」


 まあ、魔王が大丈夫だと言うなら問題ないだろう。


◇◇◇


 セモリナを出て、魔法で飛ぶためにユタカを抱えようとしたが、奪うように魔王がユタカを横抱きした。
 別にお姫様抱っこ自体は俺もユタカを運ぶ時にしていたからいいんだが、違和感はそこじゃなくて、ライバル心を感じたんだよ魔王から。やめてくれ。


「リズ様!?」
「なんだ、うるさいぞ」


 やっぱ少し不機嫌そうな魔王の声。
 ユタカもさっき魔法で移動の空気になったら完全に俺の方に向かっていたし。互いの暗黙とは違う方向から抱き上げられたのは驚きだろう。
 俺もユタカが目前で消えて驚いた。


「あの、その、デュラムにお願いしようかな~……って思って……」
「ほう。お前は私以外の男と触れ合いたいと、そう言うのか?」


 おお、意外や意外。魔王は結構嫉妬深いようだ。


「言いません! さっきまで『魔法使えなくて俺カッコ悪い』とか思ってましたけど、今は魔法使えなくて最高って思ってます!!」
「宜しい」


 本当に宜しいか?
 なんか魔王って結構ユタカを子供扱いしてる所あるよな。


 うん、まあ、二人が幸せそうだしそれでいいだろ。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...