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【第二章】囚われの魔王様
九話 春野豊の盛大な愛の告白
しおりを挟む「この世界だと、何故か俺は凄く強いんです。でも、それはつい最近、突然降って湧いたもので、そんなものが俺の力だとは到底思えないんです。突然なくなるかもしれなくて、不安で、魔王様を絶対に、確実に守るなんて言えなかった」
怖かった。
この力が無くなって、幻滅されるのが。
努力して得たものではない力は恐ろしかった。素直に喜べなくて、凄くなどないと、そう自分に言い聞かせていたのだ。
力に引きずられて、自分ではない存在になるのが怖かった。
「役に立たなくなる前に、自分ではどうしようもない理由で離れてしまえば、失望されなくて済むかもって思った。でも、それだけじゃなくて、離れている間に確実に強くなって迎えに行くんだって、俺なりに考えてはいたんです。魔王様を諦めたり、どうでも良くなることはありません」
本当に離れる気も、諦める気もない。
それだけは信じて欲しい。
「でも、本当は、そんな力なんかじゃなく、俺自身が必要とされるようになりたいんです。そんなの、こっちの世界では必要ないのかもしれないけど、俺の世界では、隣にいてくれるだけで幸せになれるような相手と結ばれたいと考える人がほとんどだと思います」
弱肉強食が常の世界ならそんな甘い理想は不必要だろうとはわかっている。
でも、勇者でも騎士でもない、ただの春野豊には力がない。
肉体的な変化に精神はずっと追いついて来てはいなかった。
それも含めて、知ってもらわなければいけない。
「魔王様に愛して欲しいなんて言ったけど、俺には何の魅力も利益もないです。だから、魔王様が望む事を教えてください。この勇者の力が必要であれば、どれだけでも磨きます。でも、勇者と関係ない他の条件も欲しいです」
全てぶちまけてしまおう。
魔神が喝を入れてくれたんだ。
当たって砕ける覚悟もなく、なんとなく誤魔化して魔王様の側にいたけど、それじゃ駄目なんだ。
「初めて誰かを好きになったから、暴走もしちゃうし、醜い感情が溢れてしまう自分に驚いています。それでも魔王様の優しさに触れて、フランセーズも、デュラムも応援してくれて、魔神も俺のふがいなさを指摘してくれた。この世界で与えて貰った良いところ全部取り入れて、めちゃくちゃ魔王様好みの人間になります!」
魔王様が望む男になりたい。
いや、絶対になる。
だから、チャンスが欲しいのだ。
「だから、お願いします! 俺と共に過ごせる未来を一緒に考えてくれませんか!」
ずっと黙って俺の話を聞いていた魔王様の正面に立って、腰を九十度に折り曲げ、勢いよくお辞儀をして、右手を差し出す。
魔王様の顔が見えないから、めちゃくちゃ怖い。
数十秒? 数分?
時間感覚がバグったかのようにただ静かだ。
ようやく、動きを感じた時、温かい何かが俺に触れた。
「ユタカ」
静かに名を告げられ、握手じゃなく、魔王様の両手が俺の手を優しく包み込む。
「私はな、イーグルに連れられてここで過ごして、よくお前の事を思い出していたよ」
「え」
「お前は私の力なんて興味も持たず、私のことを好きだと言った。最初は意味がわからなかったのだが、少しずつ嬉しい事だと感じるようになったのだ」
魔王様の手が、優しく俺の甲を撫でる。
デートで手を繋いだ時とは違った感覚で、顔に熱が集まるのがわかる。
「たとえ、私のこの容姿のみだったとしても」
なんだと、外見のみが好きだと思われていた!?
俺は慌てて弁解する。
「のみだなんて! そりゃ魔王様はめちゃくちゃ美しいですし、常に目に入っちゃうから容姿ばっかり褒めてるように思えるかもしれませんが、低音のカッコイイ声も大好きですし、優しい所もお仕事に真面目なところも、たまに植物に話しかけてるのも、意外と箱入りっぽいところも、全部好きです!」
一息で全て喋り切る。
まだ足りないかと不安になって顔を上げると、魔王様は笑っていた。
「冗談だ。ユタカが外見しか見ていないとは思っていない。だがな、お前も私が勇者の力しか見ていないと思っているんだろう?」
「だって、強者と結婚するって宣言していたので……」
「周りへの説明が楽だから強さを求めると言いはしたが、私という個体の考えは違う」
一度瞼を閉じた魔王様。睫毛が長い。
見惚れている場合じゃないが、目が離せない。
再び開いた瞳は、真っ直ぐ俺の目を見つめる。
「私自身を求めたのはユタカだけだ。お前の言う、隣にいるだけで幸せを感じる相手は、ユタカなのだと思う」
「魔王様……」
ギュッと、魔王様の両手に力が込められる。
普段少しヒンヤリしているのに、どんどん熱くなる。
「今は魔王と勇者という特殊な状況だが、いつか、ただのユタカとリスドォルとして過ごしてみたい。そうだな、では……私が望む条件は《魔王様はやめて、私の名前を呼ぶ》というのはどうだ」
「な、なな名前ですか!?」
急に名前呼びって難しいよな?
緊張して、手汗が気になってくる。
「リ……リスドォルさま……」
「呼びにくければリズでもいい」
「えっと……リズ様」
「なんだ、ユタカ」
柔らかく微笑まれ、小首を傾ける魔王様に対して、不埒な感情が溢れるのがわかった。
こんなに近くて触れ合ってて、名前まで呼んでしまって、更に俺は欲望を口にしていた。
「キスしていいですか」
魔王様は、二度ほど目を瞬かせたあと、両手を俺の右手から離し、俺の頬に触れた。
ゆっくりと顔を近付けて、短く答えてくれる。
「ああ、しよう」
その直後、魔王様の唇が、俺の唇に重なった。
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