【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
25 / 152
【第二章】囚われの魔王様

八話 春野豊は間違えたくない

しおりを挟む
 


 春野豊は人より運動神経が良かっただけだ。
 特別と呼べる程の差ではない、個体差で片付けられるレベルのものだった。
 それを知っていたから、真面目に練習した。
 スタートラインに少し差があっても、練習量で簡単に埋められる程度のものだと、豊自身がよく知っていたからだ。


『春野は簡単にできて狡い』と言われてもピンとこない。
 スタートがスムーズな分、すぐに競技の楽しさを感じられたのは強みだったが、それに見合う努力はしていた。
 出だしが俺より遅くても、どんどん上手くなる奴なんて当たり前にいた。
 本当の本当にそれが好きな相手には最終的には負けるのだ。


『もっと周りに合わせろよ』と言われても納得できない。
 俺はお前らがサボっている間も練習しているだけだ。
 それに合わせるつもりなんてない。


『ワンマンが過ぎる』と言われても、それが一番効率が良い。
 パスをまわして想定より結果が良くなったことなんてなかったのだ。
 俺だって、人に任せられるものなら任せたい。


 そうした小さな軋轢が面倒になり、やめる。
 だから、どんなスポーツ競技も全て中途半端だった。
 俺がいなくなった後、そのクラブが大勝するような変化はさすがに無かったが、そこそこに結果を出し、和気藹々としている様子はよく見受けられた。


 俺が間違っているのだと、そう言われているような気がした。
 それは別に構わなかった。
 俺は練習をして成果を出す事が重要だった。
 他はコミュニケーションが大事だった。
 それだけの話だ。


 少ないなりにいた友人には「春野ってモテなさそう」と言われたことがある。


「はあ?」
「クールって言えば良く聞こえるけど、他人に興味ないだけじゃん。ついて来れるヤツだけついて来いって感じで、合わないなって思えばすぐ相手変えそうだし」


 言い得ていると思った。


「自分の趣味押し付けたりすんなよ? ぜってー逃げられるからな!」
「それはお前の体験談じゃねーか」


 こいつは色んな形や色の葉っぱを集めるのが趣味で、初彼女との初デートに公園巡りをしたらしい。
 最初からハイキングのつもりならまだしも、デートという名目だと彼女が困るだろう。
 足が痛いと言った彼女が座り込んでようやく、可愛らしい、少し背伸びしたヒールのサンダルを履いている事に気付いたそうだ。
 服だってそうだ。ちゃんとデートと認識していたのは彼女だけで、コイツは普段の少しヨレたTシャツで、新調しようとか、少しでも相応しい装いをしようなんて考えてもいなかった。
 彼女が自分のために精一杯オシャレをしてくれたのに、褒めるどころか、見ることも出来ていなかったと反省し、全く相手のことを考えていなかったと恥じていた。
 それでも、その一回は心が離れるには十分だったようで、その子とは自然消滅のようになったと言っていた。


「だから、俺の反省を踏まえてだなぁ、貴重なアドバイスをしてやってんだぞ!?」


 ちゃんと反省して次に活かせる男は確かにモテるだろう。
 次の彼女とは半年続いた。別れも円満だったらしい。
 学校でも少しずつ女子からの評判が上がっているのは、なんとなく風の噂で聞いていた。


「どうしてもさ、好きになるとそれが溢れて、もっと俺を見てってなっちゃうんだけど、それは相手も同じだよな~」
「彼女も私を見てって?」
「そりゃそうだよな! 俺が俺が、って態度で来られたら、相手は自分の事を好きなんじゃなくて、彼女っていうアクセサリーが好きなんだなって思うよ」
「ふーん」
「好きならちゃんと相手を見るんだぞ、春野も!」


 実はまだ人に恋愛感情を持ったことがないため、別世界の話のように感じた。
 漠然と、好き合えば、相手も俺が好きで当然だと思ってた。
 でも、コイツの話では、好きでいてもらう事が難しいのだと説いている。


「まあ、春野には難しいかもな。この前もアプローチしてきてた先輩をウザそうに距離置いてただろ。追われる側しか知らないなんて贅沢過ぎる!」
「俺も恋愛に興味を持てれば変わるかもしれないだろ」
「春野が!? 想像できねー!」


 俺も想像できない。


 友人と別れ、自宅まであと交差点二つといった所で、突然異世界へ飛ばされた。
 そこから三ヶ月だったか旅をして、魔王様に出会った。


 魔王様との時間は限りがある。
 別に魔王様に限らず、家族も、友人だって共にいられる時間は有限なのに。
 別の世界の存在だと、それに気付きやすかった。


 追う側になって思い知った。
 俺を見て、という思いで支配される。
 相手のことが大好きなはずなのに、自己中になってしまう。
 そんな経験が今までなかったから、必死に自分を変えようとした。


 部活や習い事みたいに簡単に諦められるものじゃない。
 だから間違えないようにしないと、と頑張ったつもりだった。
 失敗しないように、失敗しないように。
 それは自分を臆病にさせていた。


 その臆病さが原因なのか、どんどん軸がブレていくのを感じる。
 結婚したいほど側にいたいのに、離れた方が幸せならそれも受け入れてしまう。
 本当は魔王様のことがそんなに好きではないのかもしれないとまで思わせてくる。


「魔王様……俺は、魔王様が大好きなんです」


 それだけはブレていないと思いたくて声に出した。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...