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【第二章】囚われの魔王様
八話 春野豊は間違えたくない
しおりを挟む春野豊は人より運動神経が良かっただけだ。
特別と呼べる程の差ではない、個体差で片付けられるレベルのものだった。
それを知っていたから、真面目に練習した。
スタートラインに少し差があっても、練習量で簡単に埋められる程度のものだと、豊自身がよく知っていたからだ。
『春野は簡単にできて狡い』と言われてもピンとこない。
スタートがスムーズな分、すぐに競技の楽しさを感じられたのは強みだったが、それに見合う努力はしていた。
出だしが俺より遅くても、どんどん上手くなる奴なんて当たり前にいた。
本当の本当にそれが好きな相手には最終的には負けるのだ。
『もっと周りに合わせろよ』と言われても納得できない。
俺はお前らがサボっている間も練習しているだけだ。
それに合わせるつもりなんてない。
『ワンマンが過ぎる』と言われても、それが一番効率が良い。
パスをまわして想定より結果が良くなったことなんてなかったのだ。
俺だって、人に任せられるものなら任せたい。
そうした小さな軋轢が面倒になり、やめる。
だから、どんなスポーツ競技も全て中途半端だった。
俺がいなくなった後、そのクラブが大勝するような変化はさすがに無かったが、そこそこに結果を出し、和気藹々としている様子はよく見受けられた。
俺が間違っているのだと、そう言われているような気がした。
それは別に構わなかった。
俺は練習をして成果を出す事が重要だった。
他はコミュニケーションが大事だった。
それだけの話だ。
少ないなりにいた友人には「春野ってモテなさそう」と言われたことがある。
「はあ?」
「クールって言えば良く聞こえるけど、他人に興味ないだけじゃん。ついて来れるヤツだけついて来いって感じで、合わないなって思えばすぐ相手変えそうだし」
言い得ていると思った。
「自分の趣味押し付けたりすんなよ? ぜってー逃げられるからな!」
「それはお前の体験談じゃねーか」
こいつは色んな形や色の葉っぱを集めるのが趣味で、初彼女との初デートに公園巡りをしたらしい。
最初からハイキングのつもりならまだしも、デートという名目だと彼女が困るだろう。
足が痛いと言った彼女が座り込んでようやく、可愛らしい、少し背伸びしたヒールのサンダルを履いている事に気付いたそうだ。
服だってそうだ。ちゃんとデートと認識していたのは彼女だけで、コイツは普段の少しヨレたTシャツで、新調しようとか、少しでも相応しい装いをしようなんて考えてもいなかった。
彼女が自分のために精一杯オシャレをしてくれたのに、褒めるどころか、見ることも出来ていなかったと反省し、全く相手のことを考えていなかったと恥じていた。
それでも、その一回は心が離れるには十分だったようで、その子とは自然消滅のようになったと言っていた。
「だから、俺の反省を踏まえてだなぁ、貴重なアドバイスをしてやってんだぞ!?」
ちゃんと反省して次に活かせる男は確かにモテるだろう。
次の彼女とは半年続いた。別れも円満だったらしい。
学校でも少しずつ女子からの評判が上がっているのは、なんとなく風の噂で聞いていた。
「どうしてもさ、好きになるとそれが溢れて、もっと俺を見てってなっちゃうんだけど、それは相手も同じだよな~」
「彼女も私を見てって?」
「そりゃそうだよな! 俺が俺が、って態度で来られたら、相手は自分の事を好きなんじゃなくて、彼女っていうアクセサリーが好きなんだなって思うよ」
「ふーん」
「好きならちゃんと相手を見るんだぞ、春野も!」
実はまだ人に恋愛感情を持ったことがないため、別世界の話のように感じた。
漠然と、好き合えば、相手も俺が好きで当然だと思ってた。
でも、コイツの話では、好きでいてもらう事が難しいのだと説いている。
「まあ、春野には難しいかもな。この前もアプローチしてきてた先輩をウザそうに距離置いてただろ。追われる側しか知らないなんて贅沢過ぎる!」
「俺も恋愛に興味を持てれば変わるかもしれないだろ」
「春野が!? 想像できねー!」
俺も想像できない。
友人と別れ、自宅まであと交差点二つといった所で、突然異世界へ飛ばされた。
そこから三ヶ月だったか旅をして、魔王様に出会った。
魔王様との時間は限りがある。
別に魔王様に限らず、家族も、友人だって共にいられる時間は有限なのに。
別の世界の存在だと、それに気付きやすかった。
追う側になって思い知った。
俺を見て、という思いで支配される。
相手のことが大好きなはずなのに、自己中になってしまう。
そんな経験が今までなかったから、必死に自分を変えようとした。
部活や習い事みたいに簡単に諦められるものじゃない。
だから間違えないようにしないと、と頑張ったつもりだった。
失敗しないように、失敗しないように。
それは自分を臆病にさせていた。
その臆病さが原因なのか、どんどん軸がブレていくのを感じる。
結婚したいほど側にいたいのに、離れた方が幸せならそれも受け入れてしまう。
本当は魔王様のことがそんなに好きではないのかもしれないとまで思わせてくる。
「魔王様……俺は、魔王様が大好きなんです」
それだけはブレていないと思いたくて声に出した。
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