【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【第二章】囚われの魔王様

六話 魔王リスドォルは剣の行く末を見守る

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 勇者の光の剣と闇の魔剣を出したユタカ。

 光の剣は、神をも斬れるという伝説すらあるが、神がわざわざそんな危険な機能を付けるとは思えない。
 神とあまり仲が良いとは言えない魔神は斬れるかもしれないが。

 闇の魔剣は、ゆらゆら揺れる禍々しい魔力のもやが剣を覆っている。とてもじゃないが正義側には見えない。
 本当にユタカの魔力がゼロならば魔剣が紫色の刀身にはならないので、ユタカには魔力自体はあるのだ。

 どうも体内に膨大な魔力を溜め込みながらも、魔力を排出する器官が存在しないのが、魔法のない世界の人間の特徴らしい。
 ユタカしか見たことがないから、全ての異世界の人間がそうなのかは検証が必要ではあるだろうが。

 魔力排出器官がないため、私達にはユタカの魔力が無いように感じるし、そのせいで存在すら気薄で恐ろしく戦いにくい。
 フランセーズがあっさり倒れたのもイーグルが易々と投げられたのも、仕方のないことだと私は思う。


「オイ、人間、お前普通の人間じゃねぇな……」


 さすがにイーグルもユタカの異様さに気付いたようだ。


「俺が普通で、俺以外がおかしいの間違いじゃん?」


 ブフッ、と思わず私は噴き出してしまい、小刻みに震えながら笑いを堪える。
 視点の違いとは面白いものだ。


「俺は神に魔王様倒せって呼ばれただけの一般人でーす」
「ハッハッハァ! 一般人とは恐れ入るぜ、俺サマを煽るたぁいい度胸だなぁ!」


 神種である存在を投げ飛ばすなんて一般人ではない。
 無自覚な強さは、自覚ある強さを持った者には屈辱だろう。
 煽りに煽る私と違って、ユタカは本当にそう思っての発言だから困りものである。
 それでもユタカの認識など、イーグルには関係ないので苛立ちをぶつけるように魔法を展開し、幾重にも発生するいかずちがユタカに直撃する。
 轟音と共に、焼け焦げた臭いが広がる。
 しかし、焼け焦げたのは地面だけで、ユタカには効果が無かったようだ。


「電気風呂の方が効くな」


 電気の風呂? 拷問設備か。
 ユタカの故郷はやはり特殊な訓練を積まなければいけないらしい。


「まだまだぁ!!」


 イーグルは次々に魔法を放つ。
 業火。凍結。石化。閃光。嵐刃。溶解。衝撃。
 なかなかお目にかかれない高度な魔法が連打され、一帯が陥没している。


「ハッハァ! こんなもんか」


 地形を変える程の攻撃を繰り出すとは。
 殺すなというルールにしたのに、お構いなしだ。
 これが地上だったら世界自体が半壊していたレベルの攻撃だった。
 つまり、それくらいしなければユタカを倒せないとイーグルは判断したということでもある。


「いけ!」


 突如発されたユタカの声と共に、激しく舞い踊っている土埃の隙間から斬撃が飛び出す。
 正しくは、光の剣がイーグルにひとりでに襲い掛かっている。
 空飛ぶ剣としか言えない様子だ。


「なんだこりゃ!?」
「自分で剣を使っても全然強くないから、試しに命令したらできた」


 剣に命令。
 考えた事はなかったが、よくよく考えれば、ユタカは、鎧の変化と着脱や、剣の取り出しといった私が物質に付与した魔法を操る事ができていた。
 魔法の構築と発動はできなくても、物体に篭る魔力の操作ならばできるのだ。

 自動で攻撃をしてくる剣を、イーグルは難無くかわしている。
 魔力感知とそれに対応できる能力さえあれば、避けるのは難しくないだろう。


「でかくなれ!」


 その声が聞こえた瞬間、空が一瞬で夜になったように見えた。
 ユタカの言葉通り、今度は闇の魔剣が大きくなったのだ。
 大型のドラゴンほどに巨大化した魔剣は、イーグルを叩き潰そうとするかのように高速で倒れる。


 ゴッという衝撃音のあと、地面が割れた。


「クッソ、ふざけんなよ!」


 だが、一連の攻撃をイーグルは瞬間移動で逃れることができたようだ。
 悪態をつきたくなる気持ちはわかる。
 ユタカの剣は、普通に剣として使われる事が今後あるのだろうか。

 そんな事を考えた一瞬だった。イーグルの背後。しかも上空からユタカが現れた。
 飛んでいた光の剣を足場にしたのだろう。
 高い位置から跳躍した落下の勢いと、前方へ回転を加えた踵落としがイーグルの脳天を捉えた。


「ゴァッ!?」


 ドゴォと盛大に響いた音と地響き。
 盛大に地に叩きつけられたイーグルは、沈んだまま立ち上がることはなかった。


「ユタカ」
「魔王様!」


 兜を外して私のもとへ駆け寄るユタカは疲れてすらなさそうだ。


「お前は……物体に篭る魔力の操作をどこで覚えたのだ?」
「魔力とかはわかんないですけど、俺の故郷って触ったりボタン一つで魔法みたいな事ができる道具が溢れてるんで、そういう道具だと思って使ってました」
「魔法の構造を知らずにか?」
「俺、めちゃくちゃ便利な道具を普段から使ってましたけど、なんでそんなことができるのかなんて、一つも理解せず使ってたんで」


 ユタカ曰く、故郷の道具と同じように深く考えず『そういうもの』と思えば操作できたそうだ。


「てか、これ魔力の操作なんですか」


 そう言いながらヒュンヒュン光の剣を飛ばしている。


「それは故郷ではどういう道具の動きなのだ」
「ドローンとか……ラジコン操作のイメージですね」
「魔剣の巨大化は」
「拡大機能付いてたらいいなって思いました」


 魔法のない世界は、魔力が使えずとも魔法と変わらぬ道具を生み出す能力があるのか。
 それだとユタカが自分の能力を過小評価するのもわかる。


「魔力についての考察はまたいずれするとしよう。とりあえず今はイーグルを起こす」
「はい」


 私はイーグルに回復魔法をかけ、意識を浮上させた。

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