23 / 152
【第二章】囚われの魔王様
六話 魔王リスドォルは剣の行く末を見守る
しおりを挟む勇者の光の剣と闇の魔剣を出したユタカ。
光の剣は、神をも斬れるという伝説すらあるが、神がわざわざそんな危険な機能を付けるとは思えない。
神とあまり仲が良いとは言えない魔神は斬れるかもしれないが。
闇の魔剣は、ゆらゆら揺れる禍々しい魔力の靄が剣を覆っている。とてもじゃないが正義側には見えない。
本当にユタカの魔力がゼロならば魔剣が紫色の刀身にはならないので、ユタカには魔力自体はあるのだ。
どうも体内に膨大な魔力を溜め込みながらも、魔力を排出する器官が存在しないのが、魔法のない世界の人間の特徴らしい。
ユタカしか見たことがないから、全ての異世界の人間がそうなのかは検証が必要ではあるだろうが。
魔力排出器官がないため、私達にはユタカの魔力が無いように感じるし、そのせいで存在すら気薄で恐ろしく戦いにくい。
フランセーズがあっさり倒れたのもイーグルが易々と投げられたのも、仕方のないことだと私は思う。
「オイ、人間、お前普通の人間じゃねぇな……」
さすがにイーグルもユタカの異様さに気付いたようだ。
「俺が普通で、俺以外がおかしいの間違いじゃん?」
ブフッ、と思わず私は噴き出してしまい、小刻みに震えながら笑いを堪える。
視点の違いとは面白いものだ。
「俺は神に魔王様倒せって呼ばれただけの一般人でーす」
「ハッハッハァ! 一般人とは恐れ入るぜ、俺サマを煽るたぁいい度胸だなぁ!」
神種である存在を投げ飛ばすなんて一般人ではない。
無自覚な強さは、自覚ある強さを持った者には屈辱だろう。
煽りに煽る私と違って、ユタカは本当にそう思っての発言だから困りものである。
それでもユタカの認識など、イーグルには関係ないので苛立ちをぶつけるように魔法を展開し、幾重にも発生する雷がユタカに直撃する。
轟音と共に、焼け焦げた臭いが広がる。
しかし、焼け焦げたのは地面だけで、ユタカには効果が無かったようだ。
「電気風呂の方が効くな」
電気の風呂? 拷問設備か。
ユタカの故郷はやはり特殊な訓練を積まなければいけないらしい。
「まだまだぁ!!」
イーグルは次々に魔法を放つ。
業火。凍結。石化。閃光。嵐刃。溶解。衝撃。
なかなかお目にかかれない高度な魔法が連打され、一帯が陥没している。
「ハッハァ! こんなもんか」
地形を変える程の攻撃を繰り出すとは。
殺すなというルールにしたのに、お構いなしだ。
これが地上だったら世界自体が半壊していたレベルの攻撃だった。
つまり、それくらいしなければユタカを倒せないとイーグルは判断したということでもある。
「いけ!」
突如発されたユタカの声と共に、激しく舞い踊っている土埃の隙間から斬撃が飛び出す。
正しくは、光の剣がイーグルにひとりでに襲い掛かっている。
空飛ぶ剣としか言えない様子だ。
「なんだこりゃ!?」
「自分で剣を使っても全然強くないから、試しに命令したらできた」
剣に命令。
考えた事はなかったが、よくよく考えれば、ユタカは、鎧の変化と着脱や、剣の取り出しといった私が物質に付与した魔法を操る事ができていた。
魔法の構築と発動はできなくても、物体に篭る魔力の操作ならばできるのだ。
自動で攻撃をしてくる剣を、イーグルは難無くかわしている。
魔力感知とそれに対応できる能力さえあれば、避けるのは難しくないだろう。
「でかくなれ!」
その声が聞こえた瞬間、空が一瞬で夜になったように見えた。
ユタカの言葉通り、今度は闇の魔剣が大きくなったのだ。
大型のドラゴンほどに巨大化した魔剣は、イーグルを叩き潰そうとするかのように高速で倒れる。
ゴッという衝撃音のあと、地面が割れた。
「クッソ、ふざけんなよ!」
だが、一連の攻撃をイーグルは瞬間移動で逃れることができたようだ。
悪態をつきたくなる気持ちはわかる。
ユタカの剣は、普通に剣として使われる事が今後あるのだろうか。
そんな事を考えた一瞬だった。イーグルの背後。しかも上空からユタカが現れた。
飛んでいた光の剣を足場にしたのだろう。
高い位置から跳躍した落下の勢いと、前方へ回転を加えた踵落としがイーグルの脳天を捉えた。
「ゴァッ!?」
ドゴォと盛大に響いた音と地響き。
盛大に地に叩きつけられたイーグルは、沈んだまま立ち上がることはなかった。
「ユタカ」
「魔王様!」
兜を外して私のもとへ駆け寄るユタカは疲れてすらなさそうだ。
「お前は……物体に篭る魔力の操作をどこで覚えたのだ?」
「魔力とかはわかんないですけど、俺の故郷って触ったりボタン一つで魔法みたいな事ができる道具が溢れてるんで、そういう道具だと思って使ってました」
「魔法の構造を知らずにか?」
「俺、めちゃくちゃ便利な道具を普段から使ってましたけど、なんでそんなことができるのかなんて、一つも理解せず使ってたんで」
ユタカ曰く、故郷の道具と同じように深く考えず『そういうもの』と思えば操作できたそうだ。
「てか、これ魔力の操作なんですか」
そう言いながらヒュンヒュン光の剣を飛ばしている。
「それは故郷ではどういう道具の動きなのだ」
「ドローンとか……ラジコン操作のイメージですね」
「魔剣の巨大化は」
「拡大機能付いてたらいいなって思いました」
魔法のない世界は、魔力が使えずとも魔法と変わらぬ道具を生み出す能力があるのか。
それだとユタカが自分の能力を過小評価するのもわかる。
「魔力についての考察はまたいずれするとしよう。とりあえず今はイーグルを起こす」
「はい」
私はイーグルに回復魔法をかけ、意識を浮上させた。
0
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる