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【第二章】囚われの魔王様
五話 黒騎士ユタカは魔神と対面する
しおりを挟むまず、おさらいをしよう。
フランセーズと次の行動を決めたので、デュラムにも予定を伝え、次の日には出発した。
フランセーズはオーベルジュへ向かい、俺とデュラムはセモリナへ向かった。
セモリナはデュラムの魔法のお陰で空路で三日ほどで着いた。
馬車だと二週間はかかるらしい。
飛行機で海外旅行をしたような気分で楽しかった。
実際はデュラムに抱えられて空を飛ぶという、見た目はとても情けない状態だったけど。
セモリナは貧富の格差が酷いという印象だった。
デュラムはその最下層の出身だったらしく、長らく満足な食事ができなかった経験が、今のデュラムの料理に大きな影響を与えたそうだ。
セモリナの神殿は上流階級の住む場所にあるらしく、俺が直接神殿に向かい、デュラムはスラム街で情報収集することになった。
別行動を開始し、上層の門で門番に止められたが、神から貰った光の剣を見せれば難無く通れる。
神殿にもすぐに案内してもらえた。
神殿は大きな円状の広間が建物の入口にあり、その中央にレンズのような青色の物体があった。
人が十人くらいは同時に囲み合えるくらい大きい。
これが神に祈りを捧げる場所らしい。
触れてもいいし、触れなくても祈りは届くらしい。
神に祈りねぇ。
直接会った事もあるし有り難みがあんまりわからない。
俺としては早く魔王様に会いたいだけなんだけどな。
そう思った瞬間だった。
視界に魔王様が突如現れた。
しかも押し倒しているような状態だ。
急に麗しいお顔が近くにあったら、キスしても仕方ないと思う。
いや、してないけど。夢だったらしてた。
いや、やっぱ夢だったかもしれない。
魔王様からキスしたいって言われたんだぞ。
確かに想定とは違うけど、それでもいいだろ。
だって俺とだからこそ試したいんだからな! 多分。
興奮が最高潮を迎え、ここが何処だとか考えず、力の篭った声をあげてしまった。
ズダダダ バァン! とすごい音が扉からした。
「うっせぇぞ!」
という声と共に、筋骨隆々で見るからに強そうな大柄な男が入ってきた。
顔に目がいっぱいある。すげぇ、俺のイメージにある魔王はこっちだな。
「はぁ!? 人間がどうやって俺サマに気付かれず敷地に入った!」
そんなの俺が聞きたい。
そもそも、ここが何処かも俺はわかってないのだ。
「あのー、魔王様、どちら様ですか?」
「魔神イーグルだ」
いきなり敵本拠地じゃないか。
なんか凄く良い部屋で魔王様が寛いでるから、拉致監禁されてる場所という結論にならなかったんだよな。
「まさかオメーが魔王の言っていた人間か?」
「魔王様の伴侶になる予定の黒騎士ユタカだ」
「魔法が使えないとは聞いてたが……魔力がゼロたぁ驚きだ」
お? 異世界の勇者だとか言われないぞ。
こいつ、異世界から呼ばれた者の強さを知らないのか。
いや。俺も何がどうフランセーズとデュラムと違うのか知らないけど。
本当に俺強いのか?
「魔王様、俺はどうやったらコイツに勝てるんですか?」
「何もせんでも勝てるさ」
「アァ?」
血管を浮かせてめっちゃ怒ってらっしゃいますよ、魔神。
「魔神は魔力に関して最強なのだ。相手の魔力すら操れる。本気を出されたら私も勝てない」
「そうなんですか」
イマイチ凄さはわからんが、他者の体内の水分を操れる水使いとか、体内の物質を自由に弄る事ができると考えれば怖いかもしれない。
つまり俺には操れるものがないから、特別な弱点がないのか?
「ユタカはいつも通りやればいい、勝った方と番う事になっているから健闘を祈る」
「え」
俺の意思はないんですか?
いや、もちろん伴侶になりたいとは言ったけど、賞品として伴侶になりたい訳じゃない。ちゃんと相思相愛になりたい。
だが今はいい。とりあえず魔王様の気が変わらないうちにキスしたいから倒します。
「移動すんぞ」
「わぁ!?」
魔神が指を鳴らすと、外に移動していた。何もない平野で安心する。
瞬間移動、今日よくするなぁ。
魔王様もちゃんといる。
「どちらかが気を失ったり、動けなくなったら戦闘終了だ。殺してはいけない。私からの条件はそれだけだ」
魔王様がそう言うと、魔神がユラリと動くのが見えた。
「うおっと」
いきなり顔面パンチかよ。
少しだけ横に動いて避けたら風圧で髪の毛がバサバサ揺れた。
「あの金髪勇者でも避けられなかったのになんで当たらねぇ……」
「なんでって、見えるからとしか言えないんだけど」
てかフランセーズこれ受けたの?
めっちゃピンピンしてたフランセーズのがヤバいだろ、どう考えても。
「私の爪もユタカには当てられなかったからな」
「なるほどなぁ、魔王ですら当てられねぇのか」
クックッと小さく笑う魔王様、麗しいです。
魔神もつられて笑っていて、なんかわかりあってて疎外感。
「俺もいきます」
これ以上、仲の良さそうな姿は見たくない。
殴るにも蹴るにも、魔神の身長が高いからちょっとめんどい。
体格差をあまり気にしなくて良さそうな、俺の経験のあることを考える。
地を蹴り、瞬時に間合いを詰め、魔神の懐に入り込み、腕を取り、引き付ける。
体育の授業でやった柔道の背負い投げだ。
「チィッ!」
魔神は一瞬驚いていたが、舌打ちしながらも冷静に対処した。
地面が陥没するくらいの威力に自分でも驚いたけど、魔神は受け身ができるようで、思ったよりダメージはなさそうだ。
すぐに体勢を立て直した。早い。
「なんだぁ……? 気配を感じねぇし、動きの速さが異常だ」
冷静に分析されても困る。俺にもわからないんだから。
「漏れ出る魔力が気配なのだ。魔力がなければ感じられまい」
「コイツ、本当に魔力がないのか?」
「ふっ、どうだろうな」
魔神と魔王様が難しそうな話をしている。うーん、あとは何ができる。
あ、そうだ。
俺は光の剣と闇の魔剣を取り出した。
やっぱり騎士なんだから剣を使わないといけない気がした。
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