【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
21 / 152
【第二章】囚われの魔王様

四話 魔王リスドォルは突然のユタカに驚く

しおりを挟む
 

 寝所作りも落ち着き、緩やかな日々が過ぎていた。
 イーグルは変な意地があるのか、自分からはなるべく私に絡まないようにしているらしく、とても楽だ。
 本来は下位の存在が俺サマを求めるべきだと叫んでいた。
 難儀な性格だ。


「ふう……」


 今日も就寝前の日課である寝台での読書をしていた。
 少し目が疲れたので、読んでいた本をナイトテーブルに置き、シーツに体を横たえた時に、それは起きたのだ。


「なっ」
「え?」


 視界に影が落ちたと思えば、何かが降ってきた。
 ドスッと、私の顔の両側に何かが落ちたように感じた。
 それは人の腕で、私の上には何故か、四つん這いの姿勢のユタカがいたのだ。


「うわ、会いたいって思ったら魔王様が現れた……これも夢か」


 正直、私も夢かと思えるほどの唐突さに、全く反応が追いつかずにいた。

 ユタカが私を視線で舐めまわすように目玉を忙しなく動かしている。
 そういえば初めて会った時の目もこんな感じだったな。
 それ程離れてもいなかったユタカと私の顔の距離が少しずつ近付いてくる。


「ゆ……夢ならキスしていいよな……それどころかワンチャン抱けるかもしれない」
「お、落ち着け、欲望に忠実過ぎる」


 夢の中の独り言のつもりだろうが、これは現実だ。
 言葉自体はまだ静かなのだが、当のユタカの顔は赤く、フーフーと鼻息が荒い。
 さすがにその興奮度合いに身の危険を感じて声をあげた。


「ヒッ……本物!?」
「残念だろうが本物だ」
「そんなことありませんよ! 再会のキスしていいですか?」
「場所を考えろ」
「ベッドで横になってる状況以上に相応しい場所ってあります?」


 全く退く気のないユタカに、私は勢いよく起き上がり頭突きをする。


「あだぁ゛?!」
「デュラムとの戦いの後にしおらしくなって心配していたのだが、変わりないようだな」
「そうでした……反省したのに嬉しさのあまり忘れてました」


 ユタカは額をさすりながら、しょんぼりと大人しくなってしまった。


「ユタカが反省する事なぞ思い当たらぬが」
「ありますよ、魔王様のお気持ちを無視して、帰宅の阻止をしたり……手出ししないように脅したり……」
「それは何か悪いのか?」
「へ?」


 人はどうかわからないが、自分の欲望のために行動するのは、魔物も魔獣も神も全て同じだ。
 弱肉強食の世界でもあるし、異議があるなら戦えばいいだけなのだ。
 ユタカは私に触れるなどの直接影響する事に対してやめろと言えばやめていたし、ユタカが暴走気味だとしても、わざわざ止めるほどの理由がないので静観していた。
 いざとなれば実力行使できるのに、していないのは私自身の選択だ。
 だから私はユタカに何かを強制された覚えは全くないのだ。


「そこまでして私が欲しいのであろう?」
「ファッ、ふぁい! 欲しいです!」
「なら遠慮せず奪えば良いのだ」
「そ、それはちょっと……」


 ユタカは、自分の行動となかなか重ならないちぐはぐな心に振り回されているようだ。若い。その不器用さが微笑ましい。


「本当に嫌なら私も拒否はするが、魔物も魔獣も神であっても、それでも衝突する場合、強い方に決定権が与えられる。勝者には必ず従う」
「好きな相手にそんなことできないですよ……無理矢理従わせるなんて」
「では許可が欲しいと?」
「許可があれば……キスくらいはしてしまうと思います」


 素直だ。
 デートの時に、キス出来ずに癇癪を起こすほどだ。
 そこまでの望みなら叶えてやってもいい。


「してもいいぞ」


 ユタカが目を見開き、息を飲むのがわかる。
 何度も口を閉じたり開いたりして、肩の上下が激しくなっている。
 何度か大きく深呼吸をしたユタカが、私の両肩に手を置いた。


「ちょっと前だったら、すぐにしてたと思います……でも、今はしません」
「したいと言ったりしないと言ったり訳がわからぬ」


 本当に何を考えているのかサッパリだ。
 私が眉をひそめていると、ユタカが話し始めた。


「俺は最初、絶対に魔王様と結ばれないと思っていたんです。男だし、住んでる世界も、種族も違うしって。俺のいた世界では、結ばれる可能性が皆無と言えます」


 そうだったのか。
 魔法のない世界では、世界の移動自体もできないから、そもそも私とユタカが本来出会う事もなかっただろう。
 何の因果か出会ってしまい、ユタカの世界の駄目ダメ尽くしの恋が始まった。その事でユタカは人知れず悩んでいたのだ。
 こちらは性などあってないようなものだ。そんな事で悩まない。
 簡単に姿も変えられない、魔法のない世界特有の価値観なのだろう。


「でも、何の隔たりもなくこの世界では相手を選べるって知ったら、最初思っていた、少しでも好きになってもらえたらとか、一発ヤれたらとか、そんなんじゃ足りなくなって」


 私の肩を掴むユタカの手がどんどん熱くなってくる。

 普段のユタカは、目に何の信念も感じず、真っ暗だった。
 子供のくせに冷めた目をしていると思っていた。
 しかし、今は見たこともない光が宿っている。
 炎のように揺れる熱も感じた。


「魔王様にも愛してもらいたい」


 真っ直ぐと私を射抜く視線のせいで体が動かない。
 愛する、とは何だろう。
 ユタカは愛していると何度も私に伝えていたが、具体的にはよく理解していなかった。


「俺の愛と同じくらいの愛が欲しいって、思ってしまったんです」


 それは私が与えようと思って与えられるのだろうか。
 もし、そんな概念を魔物が持っていなかったら、どうすればいい。


「それは……私にできることか?」
「俺の努力次第だと思います」
「お前が頑張っても、私に能力がないかもしれない」
「能力ですか? それはちゃんとあると思いますよ」


 理解できなくて首を傾げた。


「だって、わからないとしても、それを与えたいと思ってくれているんでしょう?」


 私は頷いた。


「もう、その時点で愛です。でも、愛には沢山種類があるんで、もっとその先の愛が欲しいです」


 良かった。私は愛を持っているらしい。


「その先の愛とはどういうものだ?」
「キスしてもいい、じゃなくて、キスしたいって魔王様が思ったら……です」


 なるほど。少し違いがわかった。
 自発性が必要ということなのだ。
 行動は同じなのに、ユタカにとってはとても大きな違いなのだろう。

 キスにそこまでの変化があるならば気になる。
 してみたい。
 でもこれは興味だ。

 それでもいいのだろうか。


「今……したい、と思ったのだが。今後どのようにキスの意味に変化が起きるのかを知りたいという理由だが『現状確認』のキスというのは駄目だろうか」
「ん゛んん゛!?」
「さすがにこれがユタカの望む愛ではないというのは私でもわかるぞ。だから無理強いは……」
「しましょう!!!!!!!!!」


 腹筋に力の篭った見事な声は、神殿中に響き渡った。


「うっせぇぞ!」
「あ」


 当然の結果であるが、すぐさま私の部屋にイーグルが駆け込んできたのだった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...