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【第二章】囚われの魔王様
三話 三人の勇者は行き先を決める
しおりを挟む「魔王様を必ず救い出す」
そう決意した訳だが、とりあえず今後の計画を立てなければいけない。
早く行動したいが肝心の魔王様はどこだ。
いくら魔王様が危機回避能力が高くても、俺以外の男と過ごしている事実には嫉妬で気が狂いそうだ。
そんな感情を持つ資格なんて本来ないけど、それでもこの感情はどうしようもできない。
恋って怖い。
クラスメイトの恋バナを適当に聞き流していたけど、今になって尊敬する。
こんな苦しくて思い通りにできない感情を抱えて、よく普通に学校生活が送れていたな。
青春の1ページを思い浮かべながら、俺はフランセーズに助けを求める。
「魔神は魔王様をどこに連れ去ったんだ?」
「神が世界と繋がる場所は神殿くらいじゃないかな」
マジで頼りになるな、心の友フランセーズよ。
こんな兄が欲しかった。イケメンで博識で優しいんだぞ。自慢してまわりたい。
食事を終え、皆で片付けをしてから作戦会議になるはずだった。
しかし、慣れた手つきで、デュラムは三人分の食器をあっという間に、全てを器用に回収する。
「俺がやっとくから、お前らでさっさと次の目的地を決めてこい」
「料理まで作って貰っておいて、さすがにそこまでさせられないだろ」
「作業分担だと思えよ。この時間すらお前らには惜しいだろう。早く魔王連れ戻してやんねーとまたユタカは泣いちゃいそうだしな?」
ニヤリと悪戯な笑みとウインクをキメて、調理場に入っていった。
優しすぎる。デュラムも兄貴になって欲しい。
料理が天才的に上手くて家事まで率先してやってくれるとか、男として何一つ勝てる気がしない。
常に気遣いが行き届いてて、大人の男って感じだ。
落ち着いて見ると単純に外見もかっこいい事に今更気付いた。フランセーズみたいなキラキラしたイケメンって感じではなく、男女共に好かれそうな太陽が似合う、少しだけチャラ男が入ったイイ男だ。
絶対に恋のライバルにはなりたくないな。
デュラムに感謝を述べて、ありがたくフランセーズとの話し合いに集中させてもらう事にして、俺達はすぐさま魔王様の書斎へ向かった。
フランセーズ曰く、資料以外にも地図もあったらしく、作戦会議に最適だそうだ。
実際に入ってみると、本や巻物が積まれた机がそれっぽさを演出していて、なんだかワクワクした。
「神殿って、でかい都市で見掛ける石造りのオシャレな感じの建物か?」
「そう。だから大都市を巡るのがいいと思う。神殿に行って、魔神と魔王の魔力を探れば見付かるはずだよ」
俺もこの世界の旅は経験しているので、神殿を見た記憶がおぼろげにある。
神殿は神が最も干渉しやすい場所らしく、神の居住区への入口がある可能性が高いらしい。
地図を見せてもらうと、三つ、明らかに太く大きく書かれた都市名があった。
『ラトラディション』『セモリナ』『オーベルジュ』
この中で一つ、俺でも知っている都市がある。
ラトラディションは、フランセーズがいた国だ。
大都市が丸ごと国になっていて、世界の貿易の中心地だったらしい。
「ラトラディションは最後にしょう」
「なんでだ?」
「滅んでいるからね。信仰の力がほとんどないと言っていい。セオリーでいくなら、神の通り道ができにくいと思う」
なるほどな。
人の祈りがなきゃ、神は存在すらできないとは聞いたことがある。
「フランセーズ的にオススメは?」
「セモリナはデュラムの故郷だ。ユタカはデュラムと共に向かって欲しい」
そうなんだ! それならデュラムは案内役として完璧だ。
迷子になったりせず、すぐに調べることができそうで安心した。
「それはいいけど、フランセーズはどうするんだ? 単独行動するつもりなのか」
「僕は、オーベルジュにいる婚約者を訪ねようと思う。恐らく、神殿の調査に協力してくれるはずだ」
なんと、婚約者の住んでる所とは。
それは確かに一人で行きたいだろうと、すぐに納得した。
関係は継続しているらしいが、顔もよく知らない婚約者との対面に俺達がお邪魔するのはよろしくない。
「わかった、じゃあオーベルジュは任せる。婚約者と上手くいくといいな」
「ふふ、どうせなら調査の成功を祈っておいてよ」
微妙にはぐらかされたように感じる。
「フランセーズの幸せを願っちゃ駄目なのかよ」
「ありがとう。幸せなんてもう随分考えてなかったや」
ぬくぬくと平和な世界で生きてきた俺には、それ以上フランセーズに掛けられる言葉はなかった。
あまりフランセーズは触れて欲しくなさそうだけど、思い切って気になった事を質問させてもらう。
「その……婚約者は女の人? 男の人?」
「名前はテリア。同い年。それだけしか知らないから、想像しかできないな」
「テリア……名前はちょっと女の子っぽい。可愛いと思う、想像だけど」
「ふふ、かもね」
少し微笑むだけで、フランセーズはそれ以上の会話を続ける気はないようだ。
本や資料を開いて、旅に必要そうな情報を仕分け始めた。
結婚ってもっと幸せなものだと思っていた。
俺は魔王様との結婚を想像しただけで、幸せになれるし、楽しかった。
せめてフランセーズも、婚約者と直接会うことで何かしらの変化があればいいのに。
そう願って、俺も神殿の調査に必要そうな資料に手を伸ばした。
◇◇◇
……なお、その婚約者は、顔は可愛いがしっかり男前な王子で、将来フランセーズを溺愛するという事を、まだ誰も知らない。
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