【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
15 / 152
【第一章】魔王様と三人の勇者

十五話 炎の勇者デュラムが見たもの

しおりを挟む
 

「私はそもそも戦いたくないのだ」


 魔王はそんな事を言いながらストレッチをしている。
 バッチリ身軽になって臨戦体勢のくせによく言うぜ。


 俺は久し振りに炎の剣を出し、襲い来る魔獣を斬り捨てる。
 旅で身についた剣技と身のこなしにはそこそこ自信がある。
 こうして魔王の様子を戦いつつ確認できるくらいにな。


「一度、過去最強と言われる魔王と拳を交えてみたかったのですよ。魔物最強と魔獣最強の戦いなんて、心踊りませんか?」


 白い魔獣のオッサンは嬉しそうに体勢を低くして構える。
 体術メインのスタイルなんだろう。
 魔王は構えの姿勢を取るでもなく大きな溜め息をついた。


「ところで、この地帯の岩には微量の毒素が含まれているのは知っているか?」


 突然、何を思ったのか魔王はうんちくを話し始めた。
 オッサンはそんな魔王に苛立ったのか、土を蹴り、飛び出す。


「存じませんね」
「そうであろう。その危険性は0.000001%と言われ、ほとんどの生物はその影響を受けない。その岩に限らずとも、どんなものにでも使い方を誤れば悪影響を及ぼす要素があるのだから普通は気にしない」


 空気中の二酸化炭素が普通だと大丈夫でも大量だと死ぬとか、空気中の魔素は世界によっちゃ毒とかそういう話か。


 まるで茶会の会話のようだ。
 だが、声以外の動きの速さは尋常じゃない。
 拳や蹴りを最小限の動きで避ける魔王だが、ほとんど動いているように見えない。
 相手もまだ様子見といったところだ。
 空を切る音は激しさを増している。


「だが、今はたまたま大丈夫でも、ある時アレルギーのように、突然それが駄目になってしまう事も起きるのだ」
「はあ、そのようなお話になにか……」


 そう言っていたオッサンは全ての言葉を紡ぐことなくその場に膝をつく。


「ぐっ……ぐぁ、ガッ……?!」


 オッサンは髪を乱し、喉や腹を掻きむしり、仰向けに倒れて虫の息だ。
 何が起きたんだ?
 魔王は防戦に徹していて攻撃らしい攻撃はしていないはずだ。


「ぎ、ざ、ま゛ぁ……な、なにくぉ……じだッ」
「何も。強いて言えば……運悪く、お前がその毒素に耐性のない0.000001%だっただけなのではないか?」


 そう告げる魔王は、今まで見たこともないくらい、美しく、恐ろしい笑みをしていた。
 弧を描く唇は妖艶で、漆黒の瞳には何も映しておらず、虚無そのものだ。


 その光景に、剣を取り落としそうになりながらも、最後の魔獣をぶった斬った。
 それと同時くらいに、オッサンも動かなくなって、魔王が黒い炎で死体を塵にしていた。


「お、おい、魔王さんよぉ……今度は何したんだ」


 恐る恐る魔王に近付きながら、脱ぎ捨ててあったマントを拾って渡す。


「ああ、相手の『運』を0にしたのだ」
「はぁああ!?」


 ありがとう、とマントを受け取って着け直している魔王は当たり前に言うが、そんな事ができるなんてヤバすぎるだろ。
 どんなアイテムや魔法でステータスを下げても、基本的には0になんてならない。
 それこそ神レベルでなければ無理だ。


「そんなチート技、俺なんて一瞬で殺せるじゃねーか!」
「勇者のように、神の力を持つ者には効かないから安心せよ。ステータス介入なんてそう易々使えるものでもないしな」

 
 安心できるか! 易々使ってんだろ!
 よっぽど悪行を積んでないとステータスに変化は起きないとか説明してくれるが、俺は幼少期に小さい悪行をそこそこ積んでるから不安しかない。悪行の基準をちゃんと出して欲しい。
 それにコイツはぜってーまだ何か隠し持ってるに決まってる。力の底が見えねぇもん。


「私だってこんな事はしたくなかった。だが魔獣は話し合いができないのだからやむを得まい」


 そりゃそうだけど。
 魔王は少し唇を尖らせて、拗ねた子供みたいな表情をしているが、何一つ可愛くない。


「久し振りに動いて疲れた、帰るとしよう」
「ほとんど動いてないように見えたけどな」


 まあ、なんの被害もなかったし、これで調理場と食糧庫は俺のもんだ、と気持ちを切り替えた時だった。
 パシャン、と、城を包み込んでいた防護壁が砕ける音が響いた。


「フランセーズ!」
「くそっ」


 城に急ぐ。
 そう遠くはない距離なのに、小さな爆発音が次々聞こえて気が気じゃない。
 今まで気配すらもなかったのに、どんどんと重苦しい魔力の渦が拡がっている。
 まるで、俺が本来イメージしていた『魔王』のようだ。


「魔王さんには、あれに何か心当たりあんのか」
「……魔神」


 魔神?
 初めて聞く存在だった。
 だが、こっちには魔王がいるんだ、きっとどうにかなる。


「期待されている所を悪いが、私では勝てない相手だ」


 世間話のように軽い口調で、魔王は絶望的な情報を告げた。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...