【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
12 / 152
【第一章】魔王様と三人の勇者

十二話 黒騎士ユタカは神と会う

しおりを挟む
 

 気が付くと、最初にこの世界へ来た時に見た幻想的な草原だった。
 デカい木が目の前にあるからわかりやすい。
 俺は魔王様に運ばれて寝ていたはずだから、多分これは夢だろう。


「その通り!」


 ほらな。


「ヤッホー! 神のレジャンデールだよ、レジィって呼んでね」


 なんとなく神なのはわかってたけど、初めて名前まで知った。
 木って呼ぶのは微妙に言いにくかったし助かる。


「俺が勇者やめても連絡一つなかったのに急になんだよ」


 使命放棄を怒られるのか? 強制送還か? と、色々と考えたがこの様子では違うようだ。
 レジィが言いにくそうに俺に問い掛けた。


「魔王のこと、本当に倒したい?」
「魔王様が望むなら」


 その気持ちは本当だから即答しておく。
 離れたくはないけど、今の俺はワガママ放題の子供でしかない。
 でもそれに気付くことができた。ならばどうするか。
 相手の意思を尊重する。それしかない。
 一度離れても、成長して、魔王様に相応しい大人の男になって、迎えに行けばいい。今の俺より受け入れて貰えるかもしれない。
 そんな期待を抱いても、そもそも自分だけで世界を移動できるのかもわからないけど。


「魔王はこのまま魔界に帰らなくていいかもって思ってるよ」
「は!?」


 喜びたいが、プライバシーとかねーのかよ。
 そんな重要な情報は、魔王様から直接聞きたかった。
 まあ残りたい理由が俺とは限らないし、本当に喜べるかはちゃんと後で確認しよう。


「レジィはね、魔王が残りたいならそれでいいと思ってる。でも、危険なんだ」
「何が危険なんだ? 魔王様の影響で世界が危なくなるとか?」
「ううん。知っての通り、魔王っていうか魔物は依頼以上の事はしないからこの世界は安全。だから安心して神々は魔物を人間の間引きに使うんだよね」


 間引きって言っちゃったよ。
 人間のことを植物とでも思ってるのか。
 レジィはそんな俺の心を読んだのか、そうだよって当たり前のように返事をする。神って結構ヤバい奴なのかもしれない。


「魔王は魔物の中で、その時に最も力の強い者が選ばれるんだけど、リスドォルは本当に強いんだよ」
「ぶっちゃけ俺にはあんまりそこら辺がよくわかってないんだよな。魔王様が温厚だから、そのお力を見る事がなかったし」
「これだから魔法のない世界の人間は! 魔力のわかる人間なら魔王がどんだけスゴイのかわかるのに!」


 へー、起きたらフランセーズに聞いてみよ。
 魔王様がどんな風に見えてんのか気になるな。


「魔王以外の魔物は、強さで言うならまあ、替えがきくんだけど、魔王は神レベルでね」


 魔王様凄い。神に神レベルって言われるなんて。
 でも魔王討伐に連れて来られた俺も神レベルってことか?
 全く想像できん。
 皆みたいにかっこよく魔法も使えないし。
 異世界に来たところでほとんど俺は何も変わらなかったしな。


「魔界はすんごく広いし、魔物は単独行動が好きで、争いを好まないから、みーんな隠れててなかなか見つからないの。神みたいにお仕事の契約でもしないと本当ぜんっぜん出会えないんだよ」


 魔物なんてこの世界で大量に見たし、片っ端から倒してきたからそんなレアだったなんて想像もつかない。


「だからね、珍しく魔界から出ている魔王の力を狙う奴がいるんだよ!」
「狙うって、仲間にするのか?」
「バッカじゃないの、これだからお子ちゃまは!」


 見た目は木だし動きも一切ないけどプリプリ怒ってんだろうなってのが声でわかる。


「繁殖に使われるに決まってるでしょ!」
「はん!?」


 繁殖って、つまりセックス? 種馬的な?
 魔王様は俺に告白されても男同士だからと止められたことはないから、性別とか関係ない可能性も?
 繁殖に使うって言葉が衝撃的で、神やら魔物の常識がわからなくて大混乱だ。
 なんにせよその言い方では、合意の上で行われる行為ではなさそうだ。


「言っておくけど、普通に勇者が魔王を倒してたら、安全な魔界に戻れて、そんな心配なかったんだからね!」
「え、俺のせい?」
「だからレジィ頑張って他の勇者もすぐ送ったでしょ。魔王が長く滞在すればする程、外部から存在がバレやすくなるんだから必死に帰そうとしたのに!」


 ごめんなさい。
 好きな人をそんな状況に陥らせていたなんて。
 騎士なんて言って、結局俺は魔王様にとっては邪魔な存在でしかなかったわけだ。
 本当にダメダメな男だけど、最後くらい役に立ちたい。


 その願いが通じたのか俺は飛び起きていた。


 だけど、部屋を飛び出して目にした光景は、俺が間に合わなかったのだと悟るには十分だった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...