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【第一章】魔王様と三人の勇者
十話 黒騎士ユタカは反省する
しおりを挟む魔王様の話を聞いた俺は罪悪感で死にそうだった。
俺が人殺しにならないように、元の生活を壊さないように、誰よりも真摯に考えていてくれたなんて。
確かにまだ俺は魔物以外倒してない。
誓って殺人は犯していない。
たとえ人を殺したところで別の世界の話だし、俺の世界の人間は誰もそのことを知らない。
だから、大丈夫だと軽く考えていた。
どこかでまだ俺は夢見心地で、現実とは違うと思っていた。
でも、魔王様はそんな浅はかな子供の考えを優しく否定した。
強く日本に帰りたい理由はないけど、かといって嫌いでもない。
両親は不仲で家庭内の空気は良くないが、何不自由なく生活させて貰っていたと、この世界に放り出されてみてようやく気付いたのに、なんとなく蓋をしていた。
常に酒を飲んで、デカいイビキをかいて廊下で寝るような父親を、どこかで軽蔑していた。
そんな父親は、俺が部活や習い事をコロコロ変えても無関心そうだったが、次を決めれば新しい道具を買い与えてくれていた。
それを今まで当たり前に享受していたが、この世界で不自由だらけの生活をして、初めてありがたさを知ったのだ。
この世界で自炊をしようと思っても、わからないことばかりで、最初は食事もままならなかった。
ただ肉を焼くだけでも、何故かカチカチに固くなったり、外は焦げているのに中は生だったりした。普通に焼いて食べるだけのことが困難だった。
専業主婦の母を、何もできない人のように感じていた自分を殴りたかった。
もっと手伝っておけば、もっと自分で料理しておけばと後悔した。
母親のためではなく、自分が苦労したからという理由なのも救えない。
魔王様とフランセーズと暮らすようになって、その思いは更に強まっていった。
魔王様の言うように、人を殺してしまって、元の平和な生活に戻った時にその記憶があったら、後悔は両親に対して感じたものと比較にならないだろうと、今更思った。
魔王様が好きだから、魔王様と離れ離れになりたくないから、魔王様に帰って欲しくないからと、俺は随分と自分勝手な振る舞いをしていた。
これ以上の犠牲を生みたくない魔王様の気持ちを利用していた自覚はあった。
でもファンタジーだから許されると思っていた。
そんな訳ないのに、都合よく考えていた。
魔王様のこと、どんどん好きになるのに、俺はどんどん最低になっていく。
これ以上嫌われる前に、魔王様を魔界に帰してあげるしかない。
「ユタカ、大丈夫か……?」
魔王様の声にハッとする。
「しっかりするんだユタカ、鼻水すごいことになってるよ」
「おい、呼吸できてっか? 水飲むか?」
続いて二人の声も染み渡ってきた。
泣き過ぎて吐きそうになっていたら、いつの間にか魔王様は俺の鎧を解除して、背中をさすってくれている。
フランセーズはハンカチで顔を拭いてくれて、一足先に泣き止んだ三号は俺を心配そうに覗き込んでコップに水を用意してくれている。
「三号も……魔王、様もっ……えぐっ……ごめん、なさい」
「急にどうしたんだ?」
「三号って呼ぶのやめろ、デュラムだデュラム」
優しい大人たちに囲まれて、更に自分の幼稚さが悲しくなる。
全力を振り絞って声を上げる。
「俺、ちゃんと……魔王様、倒しますから、嫌いにならないでください……」
勇気を出した。めちゃくちゃ頑張った。
でも、何故か静かだった。時間が止まったかのように感じたけど、フランセーズが口を開いた。
「……魔王、ユタカがおかしい、部屋へ連れて行こう」
「そうだな、熱があるのかもしれない」
決死の覚悟を篭めた発言だったのに、誰も聞き入れていないのはどういうことなのか。
フワリと体が浮いたと思ったら、魔王様は俺を軽々と肩に担ぎ上げた。
これでも180cmはあるんだよ、俺。
密着している喜びを感じる前に、なんだか情けなさを感じてまた泣きそうだ。
フランセーズは一足先に城に戻って部屋を整えると言って魔法で飛んでいった。
いいなぁ。せっかくのファンタジーなんだから俺も飛んでみたかった。
「なんかよくわからねぇが手伝うぜ」
デュラムは俺の靴を脱がしたり、襟元を寛げたり、水で濡らした布で汗を拭いてくれる。
突然、全員が母親にでもなったのかと思う程の世話焼きっぷりだ。
泣き疲れたせいなのか、本当に熱があったのか、デートが楽しみ過ぎてよく眠れなかった反動だろうか。
魔王様に運ばれている間にぐっすり眠ってしまった。
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