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【第一章】魔王様と三人の勇者
九話 元王子フランセーズからの光景
しおりを挟む魔王の書斎を借りて、神についての本や資料を探していましたが、めぼしい情報が得られずにいた時です。
外から大きな爆発音が聞こえました。
ユタカは魔法が使えないようですし、魔王は仕事以外の殺生や争いを好まないようなので、敵襲でしょう。
散歩へ出掛けた二人が心配です。
嘘です。
あまり心配はしていませんが、僕も少しくらいは役に立ちたいと思っているので、すぐに駆け付ける準備をします。
住まわせてもらっている立場なのに、何もできない自分の無力さに絶望すら感じている日々なのです。
王族ですので、幼少の頃より家事に触れることはありませんでしたし、服を自分で着替える事すら出来なかったのです。
国から逃げ出して、過酷な野宿を繰り返し、どうにか自分の最低限の身の回りの世話ができるようになりましたが、本当に最低限です。
数人の世話係の魔物がこの城にいたらしいのですが、多分僕がここに来る道中で倒したようで、今はいません。
勇者に選ばれた途端に魔物に襲われるようになった理由を知ると、脱力感に見舞われますね。
ユタカは故郷で洗濯係だったらしく、城でも洗濯をしてくれて、とても助かっています。
僕も効率のよい洗濯物の取り込み方や畳み方を今度教えてもらおうと思っています。
話がそれましたが、このように役立たずな僕も、元は光の勇者だったのです。
ユタカとは違った貢献もできるはずです。
白の鎧を纏い、全力で爆発音のした位置へ向かいました。
◇◇◇
「魔王」
「フランセーズか」
「これは……どうなっているんだ?」
現場は想像より平和というか、端から見ている分には、ユタカが炎を纏った謎の人物に小石をぶつけているだけです。
「勇者三号が現れ、それに激怒したユタカが攻撃しようとしたが、炎が熱くて近寄れないという事でこのような手段に」
激怒ですか。普段あまり感情豊かではないユタカが荒れるのは魔王に関する事だけです。
デートに邪魔が入ったらそうなるだろうと納得しました。
川辺なので、小石が豊富だからこそできる攻撃ではありますが、ユタカは騎士なのに相変わらず武器らしい武器は使わないのですね。
炎の温度程度で石をどうにかできると思えませんし、有効な手段なのは間違いありません。
しかし、見ていて思いましたが投擲技術が素晴らしい。
正確に素早く投げつけているため、避けるので精一杯の三号は防戦に徹するしかできていない様子です。
「ユタカはどのようにしてここまでの投擲技術を会得したんだい?」
「ブカツのヤキューと言っていた。両手を使う程大きな石を投げる場合はバスケだそうだ」
ユタカの故郷では様々な戦闘技術を身につけさせられるのですね。
僕には想像もつかないような過酷な環境で育ってきたのでしょう。
「てめぇ! 勇者と勇者が戦っても意味ねぇだろ! 攻撃をやめろ!」
「……」
三号は朱色の髪を振り乱しながら説得していますが、ユタカは無言で石を投げ続けています。
「魔王はあの間に入って攻撃を受ければ帰れるのでは?」
「そうすると三号を殺すと言われているのだ」
「ユタカは魔王をよく理解しているようだな」
ユタカの思い切りのよさは若さゆえでしょうか。人の命すら交渉材料です。
魔王よりもユタカの方が魔王という立場が似合いそうですね。
ここにいる実際の魔王は仕事では躊躇わないのに、仕事でなければ一人も殺さないのです。
そう考えると、人間の方がよほど理不尽に人を殺しますね。
「どうせ帰るのなら一人くらい気にしなくてもいいのでは?」
「そうだな……別に減るのは仕方ない。だが、ユタカの手を汚させるのは避けたいのだ」
僕が思うより、魔王がユタカに気を配っていることに驚きました。
まだ若いユタカの心はよく揺らいでいます。その心が壊れたり、染まってしまわないように見守っているのですね。
「へえ、心配してるんだね」
「お前と三号と違い、ユタカは無関係なのに連れて来られただけだ。ならば必ず元の世界に戻れるはずだ。その時にここでの記憶が残る可能性があるのであれば、取り返しのつかない経験はしない方がよい」
その時、ユタカと三号の動きに変化が起きたのです。
「イイ奴じゃねぇかよ……魔王さんよぉ……」
「そ、そ、そこまで、まおうさま、俺のことを、考えて……」
戦闘中でも話を聞いていたらしい二人が、その場で崩れ落ちて泣き出しました。
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