6 / 152
【第一章】魔王様と三人の勇者
六話 魔王リスドォルは知りたい
しおりを挟む私は現魔王、リスドォル。
仕事が終わって勇者に倒されてさっさと魔界に帰りたいだけなのだが、既に二人の勇者が使命を放棄している。
一人はこの世界に興味がなく、私に恋慕の情を抱いたとかで、倒すどころか勝手に騎士となった。
もう一人は、想定外の真面目さで、事情を話した途端、私ではなく神を倒すと方向転換してしまった。
そもそも魔王というのは、神からの依頼があった時点で最も力の強い者が選ばれる。
力というのは人間と違い、ほとんど努力でどうにかなるものではなく、生まれた時から能力は決まっている。
しかし魔物は他者への干渉を好まないため、基本的に争いが起きることがない。
今回のように外部からの依頼くらいでしか、その実力を活用する事がほとんどないのだ。
だから魔界には王政がないし、魔王なんて派遣先での通称でしかない。
特典として、魔王になった者は次の魔王が現れるまでの間、魔界の廃城に無償で住めるから家のない者には悪い話ではない。
粗末な小屋で薬草や野菜を育てて暮らしていた私は、魔界の城の生活を楽しみにしていた。
だが、この世界でも同じように城が与えられている。
運が悪い時は洞窟の奥とか、地下の奥底だったりするから、今回の派遣先はとても運が良かったのだ。
魔界の城が今住んでいる城よりも大きいのかも実は知らない。
もしかしたら、このままこの世界で暮らすのも悪くないのでは、と思い始めていた。
「それも悪くないか……?」
付き纏われ過ぎて、すぐにユタカの存在が脳裏に浮かぶ。
残るなんて言ったらどんな反応をするだろうか。
魔物は長命のため、人間のような色恋といったものに触れることが少ない。そもそも魔界が広すぎるため、出会いが無いのだ。
私はかれこれ三百五十年、好意を抱いたことも抱かれたこともなかった。
繁殖相手として求められる事はあっても、そこに人間のような恋愛感情というものは存在しない。
だからユタカの言動にどう対処すべきかわからないのだ。
わからないから恐ろしい。
「ユタカ」
「はい」
黒の鎧を纏い、側で控えているユタカに声をかける。
「お前の世界では好いた相手と何をするのだ」
「え、っと……デートしたり、会えない時は連絡を取り合ったり、ですかね」
「デート?」
「好きな相手と遊びに行くことです」
そういえば私はこの世界に来て最初の襲撃以降、城から一歩も出ていなかったな。
遊びに行くという発想はなかなか悪くない。
「フランセーズはどうだ」
反対側に控えている、ユタカと対になるようデザインした白い鎧の主にも問い掛ける。
「僕の場合、王族で基本は政略結婚だから……好いた相手というものにあまりピンとこないかな」
「うっそ!? お前婚約者のこと好きじゃねーのかよ!」
「ユタカ、私を挟んで大声で話すなうるさい」
急に興奮し出すユタカに注意すると、すぐに静かになった。
フランセーズが少し考えてから答えを出す。
「国が滅んで、政略にならなくなった婚約をまだ続けてくれているという点に、僕は愛情を感じているよ。それに報いたいと思っている僕の気持ちも愛情ではないだろうか」
「難しくてよくわかんねーけど、魔王様狙いじゃないならいい」
世界が違えば愛情の形も違うというのは面白い。
私も少しは勉強しなければいけない。
「興味深い情報だった。ではユタカ。明日にでもデートをしてみるか」
「ホァア!?」
「お前の気持ちを断るにしても、説得できるだけの情報や信念が必要となるだろう」
「断る前提なのはやめて欲しいですけど、すぐに得た情報で行動できる魔王様好きです愛してます」
デートプラン考えてきますという言葉を残して、ユタカは物凄い速さで自室へ向かった。
「魔界ではどうなんだい、魔王」
私だけ話していないのが気になったのか、フランセーズが聞いてくる。
「繁殖の時だけ相手を見繕う」
「動物的だね」
「その通りだが、魔物も種類が多いからな。人に近い姿の私は、恐らく人と近い感情を持ち合わせている」
だから、知りたいと思っている。
恋慕の情や、相手の行動で不安になったり、喜んだりするユタカに少しだけ憧れているのだ。
20
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる