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【第一章】魔王様と三人の勇者
四話 黒騎士ユタカの初仕事【後編】
しおりを挟む二十歳くらいの、美しい金髪が輝く外国の王子様みたいなイケメンが、広い石造りの通路の奥に見える。
俺よりよっぽど勇者っぽいな。
魔王様は殺す事を望んでいないようだから、命は奪わないでおいてやる。
勇者二号がとうとう俺と対峙し、大きく吠える。
「貴様が魔王か!」
「俺は魔王様を護る騎士だ」
それ以上の問答は無用とばかりに、勇者二号は剣を振る。
ちゃんと剣を使えるとこんなに様になるのか。
流れるように次々と刃が降り注ぐのを、ちょっと羨ましい気持ちになりながら剣で受けるが、ぶっちゃけただの高校生がいきなり異世界に来たからってロングソードなんて扱えない。
すぐに闇の剣は衝撃で手から弾かれ、カランカランと石畳を転がる。
「ふん、油断したな!」
「これが実力っす」
剣技で勝てるなんて最初から思ってない。
純粋に身体能力は上がっていても、俺が持ってなかった技術をあの木はくれなかった。
あるもので頑張らなければいけないのだ。
俺は勇者二号へ向かって駆け出す。
走りながら、光の剣を取り出し、地面に突き刺して簡易的な棒高跳びに使う。
「は?」
勇者二号は間抜けな声をあげて一瞬固まった。
突然頭上に移動すれば、視界から俺の姿が消えたように見えたはずだ。
この勇者二号の混乱具合は、俺がいなくなっただけでなく、剣だけがそこに残った理由を考えているからだろう。
その隙に、俺はサッカーのシュートのつもりで勇者二号の頭を蹴り上げた。
きっと鍛えている勇者なら死にはしないだろう。
ズドンと凄い勢いで吹き飛び、通路の柱にたたき付けられた勇者二号は、それから動かなかった。
すぐさま駆け寄り様子を伺うが、意識がないみたいなので慌てて呼吸を確認する。
良かった、ちゃんと生きてる。
石の素材にめり込む速度で吹き飛んだのに首の骨が折れている感じもしないので、ファンタジー世界で本当に良かった。
俺の勇姿を見ていてくれたかなと、魔王様に視線を向けると、スースーする目薬をさした後みたいな渋い顔をしていた。
「それは……身体強化術か? どうやってその速度で動いた」
「いえ、この世界に来たらこうなっていたので術とかは使ってないですよ」
「そうか」
普通に棒高跳びをしてキックしただけとしか言いようがない。
地球での動きより明らかにスムーズに動けている自覚はあるけど、そもそも一般人の俺には自分で魔法とか使えないです。
異世界人の特典らしい身体能力の向上以外はファンタジー感が少ない。
ゲームみたいにレベルアップで魔法とか使えたら良かったんだけど、そういうサービスはないらしい。意外と不便だ。
魔王様はもう興味をなくしたみたいに俺を素通りし、勇者二号の所に向かう。
そして回復魔法をかけ始めた。
せっかく倒したのに大丈夫ですかね、起こして。そいつかなり頭に血が上ってましたよ。
「ん……」
「勇者二号、お前は私が憎いか」
何度か瞬きをした勇者二号が魔王様の問いにハッとする。
「そうだ! 貴様のせいで僕の……僕の国は滅んだ!」
長々しく語り始めた勇者二号は本当に見た目通り、王子様だったらしい。
でも魔物の襲撃などで全てを失い、どうにかこうにか旅をしながら生きながらえていたと。
最近になって神のお告げと共に不思議な力を得て、魔王城の前に飛ばされて来たということだ。
魔王様は頷きながら話しを聞いていたが、一段落したところで勇者二号の肩に両手を置いた。
「そうだなそうだな、私のせいだな、さあ斬るがよい」
「魔王様!?」
何を言っているんだ魔王様、めちゃくちゃ嬉しそうに微笑んでるし、そんな顔を俺より先に他の男に見せないでくださいよ!
「なんだ急に……わ、罠なのか?」
勇者二号もなんか困ってるし。
「私を倒したいという気持ちを大切にした方がいい」
「だからなんで魔王様はそんなに倒されたいんですか!?」
「もういい加減帰りたいからだ」
諦めた様に魔王様は話し始めた。
俺なりに日本に当てはめて考えたら、仕事で海外出張に行って、仕事は無事に終わったが帰りの飛行機が飛ばなくなって困ってるって感じか。
食も文化も違うと故郷が恋しくなる気持ちはわかる。
けど、俺は魔王様と離れたくない。
「もしかして勇者二号に魔王様が倒されたら、俺は元の世界にも戻れず、魔王様にも会えなくなる?」
「知らん、勇者の役割がなくなれば戻れる可能性はあるだろう」
「この際戻れないのは別に構わないので、俺も魔界に連れて行ってください」
魔物にでもなんにでもなるからお願いしますと土下座する。
「無理だ」
無情な即答。
「そんなに俺が嫌いですか!」
ガバッと頭を上げて絶叫する。
いや、まあ、好かれてはいないと思う。俺がやってる事なんて護衛という名のストーキングくらいだ。
家事も多少はできるけど、この魔王城での生活で魔王様のお役に立っているかは正直わからないので不安だ。
でも、魔王様に好かれるように、これからもっと頑張ろうという段階ではまだ何も諦められない。
「そうではない、知らないのだ」
「え?」
俺嫌われてないの?
嬉しすぎて泣きそうなんだけど。
「私は派遣されているだけで、この世界への移動は全て神が行っている。だから私は用意された方法以外の移動手段がわからない。他の者の同行は私が決められることではないから、無理だと言った」
じゃあ、あの木にまた会えれば頼めるのか?
魔王様が勇者二号に倒されるまでに、どうにか……。
「あの……」
怖ず怖ずといった様子で勇者二号が手を挙げて言葉を続ける。
「お話を聞いていると、魔王ではなく神が諸悪の根源ではありませんか?」
その姿は城に突撃してきた時の荒々しさが抜け落ち、王子様としての育ちの良さを感じる青年になっている。
誰が悪いとかは正直自分には関係ないので、あまり気にしていなかったが、言われてみれば神の命令が始まりなんだから神が悪いな。
頷こうとしたら魔王様が慌てたように勇者二号に迫る。
「いやいや、実行犯は私で間違いないんだから、な? 私を倒しても魔界で生きているというのは気に食わないかもしれないが、拷問でもなんでもしてスッキリしていくがいい」
魔王様が必死過ぎる。
倒すからセックスさせてくれと言ったらしてくれそうだ。
どうしても心が手に入らなかった時は考えよう。
「いえ、魔王。あなたも被害者です。僕は敵を見誤りません」
二号じゃなくて本物の勇者だな王子様。
ちゃんとした正義を持ってる男だ。
「僕にあなたを倒すことはできません」
よく言った。その言葉を待っていた。心の友よ。
頭を抱えてしゃがみ込む魔王様を横目で見つつ、俺は王子様に右手を差し出した。
「俺は異世界から呼ばれた元勇者の豊だ、よろしくな、友よ」
少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑みながら手を握り返してくれた。
「僕はフランセーズ。よろしく、ユタカ」
こうして魔王城には二人目の勇者が住まう事になったのだ。
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