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第五章 始動
45.再会(1) ※菖斗視点
しおりを挟むまさか、こんなところで再会するとは……。
背中にサクラを庇いながら、菖斗は目の前に立ち塞がる青年を険しい表情で睨みつける。
五年振りに見る元上司は、記憶の中の姿とほとんど変わらない。しかし、彼の表情には以前のような優しい笑顔は無く、菖斗を嘲笑うように嫌らしい笑みを浮かべていた。
「樹さん……。お久しぶりです………」
青年を刺激しないよう、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。今はまだ事を荒立てる訳にはいかない…。菖斗は状況把握の為に慎重に周囲の様子を伺う。どうやら彼と聖獣以外に敵はいないようだ。
「こんなところにいるとはね。随分と探したよ」
「本条院家にお邪魔したけど誰もいなかったから」と告げられ、背中に冷たい汗が伝う。
今、屋敷には父も母も不在だ。サクラと使用人だけの時に訪問されていたらと思うと背筋が凍った。
……そろそろ伝令式が届いた頃か。
先程の攻撃を受け、咄嗟に緊急事態を知らせる式を放った。その式がそろそろ警護隊舎に到着している頃だろう。
応援が来るまで何とか穏便に進めなくては…。
樹に鋭い視線を送りながら、菖斗は緊張でゴクリと喉を鳴らす。
「やぁ……君も久しぶりだね」
警戒を強める菖斗から目を反らし、樹はリリーへと視線を移した。感情の無い瞳に見据えられ、リリーはビクンと身体を揺らしてその場に固まる。
「ふむ……。本当に呪術が浄化されているんだね。これは興味深いなぁ」
まじまじとリリーを観察した後、小さな声で面白そうに呟いた。その言葉を聞いたリリーはハッと息を呑み、毛を逆立てて唸り始める。
「貴様が儂に呪いをかけたのか……!」
歯を剥き出し、今にも樹に飛びかかりそうなリリーの姿を見て彼の側で控えていた巨鳥がサッと樹の前に躍り出た。そしてギャーギャーと大きな鳴き声を上げ、リリーを威嚇する。
「嗚呼…そうか。記憶を消してあるんだったね。しかし驚いたよ。あの状態で生きていたなんて」
睨み合う聖獣達を涼しい顔で眺めながら、樹は可笑そうに眉を下げる。
「魔力は封印されたままだけど、それ以外は全て浄化されているのか……。これはそちらのお嬢さんのお陰かな?」
そう呟くと樹はサクラの方へと向き直る。その視線から遮るようにサクラを庇うと、菖斗は低い声で口を開いた。
「……一体どういうつもりですか?一連の襲撃事件も樹さんが関与していますよね?」
背後でサクラが息を呑んだのが分かった。この件に彼女を関わらせたくは無かったが……やむを得ない。
「どういうつもりって…この腐った国を変える為に決まっているじゃないか」
菖斗の問いに、樹は悪びれる様子も無く淡々と言葉を並べる。
「力のない術者達が権力を振りかざす世の中なんて、どう考えても可笑しいだろう?」
感情の無い空虚な瞳で見据えられ、何故が身の毛がよだった。これは……まずい………。
「まぁ、君もそんな術者の一人だけどね」
樹は汚物を見るように顔を顰めると、軽く手を上げ聖獣を呼び寄せる。菖斗が防御魔術を発動しようと魔力を込めた瞬間、既に目の前には青い閃光が迫っていた—————。
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