サクラ色に染まる日 〜惨めな私が幸せになるまで〜

碧みどり

文字の大きさ
上 下
46 / 50
第五章 始動

45.再会(1) ※菖斗視点

しおりを挟む



まさか、こんなところで再会するとは……。

 

背中にサクラを庇いながら、菖斗は目の前に立ち塞がる青年を険しい表情で睨みつける。


五年振りに見る元上司は、記憶の中の姿とほとんど変わらない。しかし、彼の表情には以前のような優しい笑顔は無く、菖斗を嘲笑うように嫌らしい笑みを浮かべていた。

 
「樹さん……。お久しぶりです………」
 

青年を刺激しないよう、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。今はまだ事を荒立てる訳にはいかない…。菖斗は状況把握の為に慎重に周囲の様子を伺う。どうやら彼と聖獣以外に敵はいないようだ。

 
「こんなところにいるとはね。随分と探したよ」

 
「本条院家にお邪魔したけど誰もいなかったから」と告げられ、背中に冷たい汗が伝う。


今、屋敷には父も母も不在だ。サクラと使用人だけの時に訪問されていたらと思うと背筋が凍った。


 
……そろそろ伝令式が届いた頃か。


 
先程の攻撃を受け、咄嗟に緊急事態を知らせる式を放った。その式がそろそろ警護隊舎に到着している頃だろう。



応援が来るまで何とか穏便に進めなくては…。



樹に鋭い視線を送りながら、菖斗は緊張でゴクリと喉を鳴らす。

 
「やぁ……君も久しぶりだね」
  

警戒を強める菖斗から目を反らし、樹はリリーへと視線を移した。感情の無い瞳に見据えられ、リリーはビクンと身体を揺らしてその場に固まる。
  

「ふむ……。本当に呪術が浄化されているんだね。これは興味深いなぁ」

 
まじまじとリリーを観察した後、小さな声で面白そうに呟いた。その言葉を聞いたリリーはハッと息を呑み、毛を逆立てて唸り始める。

 
「貴様が儂に呪いをかけたのか……!」


歯を剥き出し、今にも樹に飛びかかりそうなリリーの姿を見て彼の側で控えていた巨鳥がサッと樹の前に躍り出た。そしてギャーギャーと大きな鳴き声を上げ、リリーを威嚇する。

 
「嗚呼…そうか。記憶を消してあるんだったね。しかし驚いたよ。あの状態で生きていたなんて」


睨み合う聖獣達を涼しい顔で眺めながら、樹は可笑そうに眉を下げる。


「魔力は封印されたままだけど、それ以外は全て浄化されているのか……。これはそちらのお嬢さんのお陰かな?」
 

そう呟くと樹はサクラの方へと向き直る。その視線から遮るようにサクラを庇うと、菖斗は低い声で口を開いた。

 
「……一体どういうつもりですか?一連の襲撃事件も樹さんが関与していますよね?」

 
背後でサクラが息を呑んだのが分かった。この件に彼女を関わらせたくは無かったが……やむを得ない。

 
「どういうつもりって…この腐った国を変える為に決まっているじゃないか」
 

菖斗の問いに、樹は悪びれる様子も無く淡々と言葉を並べる。
 

「力のない術者達が権力を振りかざす世の中なんて、どう考えても可笑しいだろう?」
 

感情の無い空虚な瞳で見据えられ、何故が身の毛がよだった。これは……まずい………。
 

「まぁ、君もそんな術者の一人だけどね」

 
樹は汚物を見るように顔を顰めると、軽く手を上げ聖獣を呼び寄せる。菖斗が防御魔術を発動しようと魔力を込めた瞬間、既に目の前には青い閃光が迫っていた—————。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

処理中です...