サクラ色に染まる日 〜惨めな私が幸せになるまで〜

碧みどり

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第三章 変化する状況

29.縁談の報せ

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菖斗に防御魔術を施されてから数日後…。


サクラは父に広間へと呼び出されていた。こうして父親と向き合うのは、梨久との婚約破棄を通告されたあの日以来である。後ろにはあの日と同じように義母と妹が控えていた。


彼女達の意地悪い視線を感じながら、サクラは緊張した面持ちで頭を下げ、父の言葉を待つ。



「お前に本条院家から縁談の申し込みが来た。」



……………ん??



平坦な声で発せられた言葉の意味が理解できず、思わず「え?」と顔を上げる。父の後ろで義母と杏も信じられないというように目を瞠っている。


「相手は警護隊の副隊長を務めている次男坊だ。何故お前なんかに…と思ったが、五大名家筆頭である本条院家と縁を結んでおいて損は無い。……せいぜい捨てられないように努力するんだな。」


詳しいことは、後日開かれる両家の話し合いの際ににと真顔で告げると、父はサクラに下がれと指示を出す。その後ろでは、義母と杏が物凄い形相でサクラを睨み付けていた。



…え?え、縁談?相手は…本条院様??



言われるがまま広間を後にしたサクラだったが、頭は大混乱に陥っていた。父の言葉を心の中で何度も反芻する。警護隊副隊長と言っていたから相手は菖斗なのだろう。…え?いや…なんで??



前回お会いした時は、そんな素振り全然無かったのに……。



前回……東十条家で防御魔術を掛けられた時のことを思い出し、サクラは頬を真っ赤に染める。優しく労わるようにそっと額に触れられた瞬間、ぎゅうと胸の奥が苦しくなり、思わず叫び出しそうになった。


それにしても……



何かの間違いじゃないかしら…?



いつでも彼は優しいが、それは職務の一環だからではないのか?どれだけ考えても、引く手数多の菖斗が何の取り柄も無いサクラに好意を寄せているとは思えない。これは父による嫌がらせで全て嘘だと言われた方がしっくりくる。



あまり期待しない方がいいわね…。



サクラは小さく溜息を吐いた。これまでも期待しては何度も裏切られてきた。しかし、期待してはいけないと思う程に、もし本当なら…と期待する気持ちは強くなる。結局、その夜はいつまでも目が冴えたままで、なかなか眠りにつくことが出来なかった。



————



「まぁ…!本条院様から縁談が?!」


翌日、東十条家へと向かう馬車の中で一連の出来事を伝えると籐子が高い声を上げた。その顔は嬉々と輝いている。


「……何かの間違いじゃないかと思っているんですが…。」


一晩中悶々と考えていたせいで寝不足だ。少し身体が怠く感じる。


「いきなり縁談とは生意気だが…見る目はあるな。」


リリーがふんっと鼻を鳴らして呟くと、籐子も力強く頷いた。


「実は、以前からお似合いだと思っておりましたの!本条院様がサクラさんに向ける眼差しはとってもお優しいですもの。」


うっとりした表情の籐子に告げられ、顔が一気に熱くなる。……そう、なのだろうか…?…いや、やっぱりピンと来ない。


その後、籐子に根掘り葉掘りと質問されたが、近々両家の顔合わせをすることしか告げられていない為、何も分からないのだと答える。


「全く、娘がお嫁に行くというのに……。とにかく、顔合わせの日に備えて準備が必要ですわね!佇まいやお化粧をお教えしますわ。」


そう言って、籐子はにっこりと美しい笑顔で微笑んだ。確かに、その手の作法についてはあまり自信がない。せめて相手に失礼が無いように振る舞わないと。


その日から、サクラは籐子から淑女マナーや身だしなみについて教えを乞い、その習得に精を出したのであった。
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