サクラ色に染まる日 〜惨めな私が幸せになるまで〜

碧みどり

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第三章 変化する状況

27.発覚

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……コンコン


籐子と恋の話で盛り上がっていたところで扉をノックされ、二人は慌てて口を閉ざす。「はい」と返事をすると、少し間を空けて葵が顔を出した。


「失礼致します。お嬢様、桔平様と本条院様がお待ちでございます。七条様や聖獣達もご一緒にとのことです。」


葵に連れられて応接室へ向かうと、桔平に招き入れられた。部屋の奥で長椅子に腰かけた菖斗が手を振っている。


「せっかくだから、近況を確認しようと思ってね。」


サクラ達が席に着くと、菖斗が「突然ごめんね」と断りを入れて話し始めた。引き続きリリーに掛けられた呪術について調査しているものの、いまだに手掛かりを掴めないのだと申し訳なさそうに告げる。


「そちらで変わったことは無かったかい?」


特に気になることは思い付かず、サクラはそれを正直に告げた。リリーにも思い当たることは無いようだ。二人の言葉に菖斗はそうか…と呟き、溜息を吐く。


「あ、あの……。リリーの呪いとは関係無いのですが……以前本条院様に助言いただいたので、治癒特性について勉強しました。そのおかげで少しずつですが、術を上手く使えるようになりました…」


その節はありがとうございましたと頭を下げると、お役に立ててよかったと菖斗は嬉しそうに微笑んだ。


「サクラさんは本当に上達が早くて…私も驚いてしまいました。」


先日の定期試験も素晴らしい成績だったんですよと、何故か籐子が胸を張る。サクラはなんだか恥ずかしくなり、頬を染めて俯いた。


「君はかなり強い魔力を持っているから、きちんと鍛錬すればすぐに上達すると思うよ。」


笑顔で告げる菖斗の言葉に、サクラはキョトンと首を傾げる。上達してきたとはいえ、少し前まで全く術が使えなかった。今だって安定しているとは言い難い状態だ。強い魔力を有していると言われてもにわかには信じられない。言葉の意味を思案していると、籐子がポンと手を叩いた。


「確かに、サクラさんは一度にたくさんの式を操ることが得意でしたわ。」


多数の式を一度に操るには強大な魔力が必要らしい。サクラは最初から複数の式を同時に操る方が得意だった。元々強い魔力を持っているのであれば納得だと籐子は言う。


「強すぎる能力を上手く制御出来ていないから、術が安定しないんだと思うよ。」


魔力が弱いと思っていたので、式や術を扱う際はいつも全力で力を込めていた。菖斗によると、それでは魔力の適正量を超えてしまい、術が上手く発動しないと言う。


「良かったら今やってみる?詳しく説明するよ。」


のんびりとした口調でそう提案され、サクラは慌てて首を横に振った。私ごときが特殊警護隊副隊長様の手を煩わせるなんてとんでもない。

しかし、丁重に述べた断りの言葉は「気にしないで」と軽くあしらわれ、結局半ば強引に菖斗の教えを乞うことになった。



————



「さぁ、式に力を込めてみて。」


東十条家の庭の一角に貼り巡らされた守護式の中で、サクラは言われた通りに魔力を込める。

そのすぐ隣では菖斗が真剣な眼差しでサクラの手元を眺めていた。距離がとにかく近い……。


…………これは…とっても緊張するわ…。


震える手をなんとか抑えながら、集中して力を込め続ける。背中にダラダラと変な汗がつたっているが、気にしている場合ではない。


「そうそう、その感じ…。一気に力を込めるのではなく、まずは式の形をなぞるように魔力を這わせて。」


菖斗の指示通り魔力を這わすと、いつもより少ない力で式が動き始めた。


……すごい。こんなに滑らかに操作出来るなんて…!


いつも力任せに魔力を込めていたので、式を少し動かすだけでもかなりの体力を消耗していたが、今は殆ど身体に負荷が掛かっていない。


「うん、良い感じだよ。……式全体に魔力が行き渡ったら、中心に向かって一気に力を込めるんだ。」


菖斗の言葉に沿って腕に力を込めた瞬間、


ズキッ………!


鈍い痛みが走り、思わず顔を歪めた。


「………どうしたの?」


一瞬魔力にも乱れが出たのだろう。菖斗がその変化に眉を顰める。


「何でもないです。」と言い終わる前に、「ちょっとごめんね。」と優しく腕を掴まれた。


「………これは?」


傷を隠す為に巻いていた端切れを外され、露わになった痛々しい痣を見て皆が一斉に息を呑む。菖斗に険しい表情で尋ねられ、サクラは「ええと……」と口籠った。


「とにかく、まずは治療を。」


籐子が慌ててサクラに駆け寄り、患部を確認する。その痛々しさに顔を歪め、「こちらへ」とサクラの手を取る。


「リリー、話を聞かせてくれるかな?」


目の端でこくりと頷くリリーの姿を確認した後、サクラは籐子に手を引かれて、治療の為に屋敷へと戻っていった。









■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


\ お読みいただきありがとうございます! /


第一部の終盤に差し掛かりました。
菖斗はサクラのことを良く気にかけてますね。笑

引き続き、押し強めの菖斗と控えめなサクラの
関係を楽しみにして頂ければと思います!
(執筆頑張ります)

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