サクラ色に染まる日 〜惨めな私が幸せになるまで〜

碧みどり

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第二章 出会い

18.警護隊舎にて(2)

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桔平の案内でサクラ達は警護隊舎の中央回廊を歩いていた。普段見慣れない装置や訓練場が新鮮で、キョロキョロと物珍しく辺りを見渡していると、
 

「桔平、お客様かい?」 


前方から美しい青年に声を掛けられた。すらりとした体格で軍服を着こなす青年は、おそらく桔平よりも少し年上だろう。その端麗な顔立ちは柔らかい笑みを称えながらも、凛とした雰囲気を醸している。 
  

「副隊長。お疲れ様です。」 
  

桔平が足を止め、敬礼をする。 
    

「所用で訪ねて来た妹とその友人を案内していました。 あ、こいつが以前話していた従者です。」 


「…なるほど。確かによく鍛錬されているみたいだね。」  

  
副隊長と呼ばれた青年は、桔平から差し出された葵を興味深そうに眺めて呟く。 
  

「こちらは第二特殊警護隊、副隊長の本条院菖斗ほんじょういんあやと様だ。俺の上司にあたる人だよ。」 

 
東洋魔術五大名家筆頭の格式を持つ本条院家の次男で、その高い能力を活かし精鋭揃いの特殊警護隊で若くして副隊長へ昇り詰めた逸材である…。 
 

桔平からの紹介を受け、青年がよろしくと微笑む。


「本条院様、初めまして。 東十条籐子と申します。兄がいつもお世話になっております。」 

  
籐子が丁寧に頭を下げた。
  

「そちらは私の従者の葵、彼女は友人の七条サクラさんですわ。」 
  

籐子に紹介され、サクラも初めましてと挨拶する。下げた頭に視線を感じて恐る恐る顔を上げると、菖斗が興味深そうにサクラと籐子を眺めていた。
  

「…君達は聖獣使いなんだね。」 

 
そうですと頷くと、足元でリリーと梅も肯定するようにニャーと鳴く。

  
「この頃は聖獣の数が減っていて、中々お目に掛かる機会が無いから出会えて光栄だな。」 


今の警護隊には聖獣を従える術者はいないんだと菖斗は困ったように微笑む。


「もしよければ、話を聞かせて貰いたいんだけど…。」


頼みを断る理由も無く、二人して頷くと、ありがとうと綺麗な笑顔を向けられる。



「副隊長、私は葵を連れて隊長へ挨拶してきます。」
 

葵を紹介したい人とは隊長のことだったのだろう。桔平の言葉に、菖斗が頷く。別行動を告げられ、籐子が心配そうな顔で葵を見つめた。


「大丈夫、悪いようにはしないから。」


不安そうな妹に悪戯っぽい笑みを向け、諦めたように溜息を吐く葵と共に桔平はその場を後にした。


----


聖獣の話を聞きたいと連れて来られたのは魔術の訓練場だった。


守護式を貼り巡らせた武道場の中で、次々と術を繰り出す籐子と梅の姿を見て、サクラは目を丸くする。

それもそのはず、普段は可愛い成猫の梅が巨大な獅子へと姿を変えているのだ。菖斗の放つ訓練用の式を軽々と躱しながら、鋭い爪で的確に破るその姿は神々しささえ感じられる。


「うん、流石だね。」


全ての式を破り、自身の式を解く籐子に向かって菖斗が感心したように声を掛ける。籐子が術を解くと、しゅるしゅると梅が元の姿へと戻った。
  

「…梅ちゃん、大きくなれるんですね。」


唖然とした表情で呟くサクラに、菖斗が不思議そうな顔をする。


「大きくも何も、あれが聖獣本来の姿だよ? リリーもそうだろう?」


確かに…遠い昔、祖父の書斎で見た聖獣の姿は先程の梅のように凛々しかった気がする…。


「ええっと...リリーは…大きく、なれるの…かしら?」


出会って以降、友達として接していたため、彼女の能力をあてにした事が無かった。また、サクラに魔術の基礎が無かったこともあり、学院に入学してからもリリーの力を使うことが無かったのだ。


「無論じゃ。」


困惑するサクラの隣で、リリーが得意気に胸を張る。あ、大きくなれるんだ…。
 

力を見せてくれと請われ、やったことが無いんです…と恐縮しながら、サクラはリリーと共に菖斗の前へと進み出る。


「では、サクラさん、まずはリリーに魔力を注いで下さい。」
 

籐子に指示された通り、リリーに触れて力を込める。触れた部分がぽぅ…と微かに光り、仄かに温かくなる。その熱を感じながらサクラは少しずつ込める力を強めていく。
 

リリーが光に包まれ、その身体は徐々に大きさを増した。毛並みは白く輝き、特徴的な縦縞は濃さを増す。爪や牙は鋭く尖り、ゆっくりと雄々しい虎の姿へと変化していった。その崇高な姿に皆が息を呑んだ瞬間……、


バチンッ!と弾ける音がして辺り一面が眩い光に覆われた。


思わず目を閉じたサクラが再びゆっくり瞼を開くと…元の姿に戻ったリリーがしょんぼりと肩を落として佇んでいた。

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