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第二章 出会い
17.警護隊舎にて(1)
しおりを挟む大和ノ國特殊警護隊ーーーー。
皇帝より命を受け、国防を担う組織であるそこには、全土から力ある術者が集められ、日々鍛錬を積みながら、国の警守に当たっている。
自身とは縁遠いはずの荘厳な隊舎を見上げ、サクラは身を固くした。
放課後、いつものように校門前で東十条家の馬車に乗り込むと、「兄に荷物を届けに行きたい」と告げられ、折角なら一緒にと連れて来られたのだ。
断る理由も無かったので、のこのこと付いて来たが…。まさか、国防の中心である警護隊本部へ連れられるとは思わず、サクラは自身の場違いさに終始恐縮していた。
「こちらでお待ちください。」
軍服に身を包んだ体格の良い青年に応接室へと案内される。青年が部屋から出て行くのを見届けて、サクラはほぅ…っと溜息を吐いた。
「緊張しているようじゃな。」
膝元で蹲るリリーに向かって、サクラはこくりと頷いた。特殊警護隊といえば、術者の中でも精鋭中の精鋭達が集う場所である。本来、サクラのような末端の学生が関われる場所ではない。
「お兄様は特殊警護隊に勤められているのですね…。」
籐子に尋ねると「そうですわ」という返事が返ってきた。
「桔平お兄様は入隊後すぐに特殊警護隊へ配属され、今年で二年目になります。」
籐子には二人の兄がおり、長兄は帝都で文官として、次男である桔平は特殊警護隊員として国政、国防に従事しているとのことだった。どちらも優れた能力を有する精鋭しか就くことが出来ない高貴な職務である。
さすがは東十条家の御子息だわ……。
素晴らしいですねと告げると、「優秀な兄を持つのも大変なんですよ」と困ったように籐子は笑った。
家族から虐げられ、少しも期待されていないサクラには想像も出来ないが、名家の娘として周囲に求められるとおりに生かざるを得ない生活には、きっと多くの葛藤があるのだろう。
以前籐子が、自分には東十条家の娘としてその血を濃く保つという役割があり、親の決めた名も知らない婚約者との結婚が決められているのだと話していたことを思い返す。東十条家の娘として相応しく振る舞う為に、自身の思いに蓋をすることも多いようだった。
常に気を張り続けながら過ごしている籐子だが、サクラには年相応の無邪気な笑顔を向けてくれる。そのことがとても嬉しく、少しでもこの美しい少女の力になりたいと思う。
私もずっとお側にいられるよう、東十条家のご家族に認めて貰わなくちゃ…!
そう思い、気合を入れて姿勢を正した時、
「待たせたね。」
応接室に籐子に似た涼やかな雰囲気の青年が入ってきた。長めの前髪から覗く切れ長の目から大人の色香を感じる。
「桔平お兄様、頼まれた物をお持ちしました。」
籐子が顔を綻ばせながら、後ろに控えていた葵に指示を出す。指示を受けた葵は恭しく頭を下げながら桔平に荷物を手渡した。
「籐子、わざわざありがとう。葵もすまないね。それで、君はいつ入隊してくれるのかな?」
さも当然のような桔平の言葉に、葵は思いっきり顔を顰める。
「私は籐子様の従者です。警護隊に入るなど恐れ多い…。」
「主人の兄に対してその表情はどうかと思うが…?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げる桔平に、腹黒兄貴め…と葵が小さく呟く。おそらく仲が良いのだろう。
「おや。そちらは?」
葵の呟きを笑いながら嗜めた後、桔平はサクラとリリーを見て尋ねた。
「初めまして、籐子様のゆ、友人の七条サクラと申します。こちらは私の従獣のリリーです。」
慣れない「友人」という単語に詰まりながら自己紹介をする。視界の端に嬉しそうに笑みを浮かべる籐子が映った。
「嗚呼、君が!」
いつも籐子から聞いているよと微笑みながら、桔平はサクラの方へと歩み寄る。
「君と仲良くなってから、籐子が楽しそうで僕も嬉しいよ。」
桔平の言葉に「お兄様ったら!」と籐子が顔を赤くした。その様子を見てサクラもなんだかむず痒くなり、恐縮です…と頬を染めて俯く。
年の割にしっかりし過ぎている妹を、桔平も兄として心配しているようだった。籐子からサクラの話を聞くようになり、年相応の表情を見せてくれるようになったと嬉しそうに話す姿は妹を大切に思う兄の優しさで溢れている。
「折角来てくれたのだから、少し隊舎を案内しよう。葵のことを紹介したい人もいるしね。」
談笑の後、そう告げると桔平はスッと席を立つ。「だから来たくなかったんだ!」と抵抗する葵を強制的に連行しながら、サクラ達は桔平に連れられ、応接室を後にした。
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