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2話 出会い➁
しおりを挟む白い花の咲く庭園の真ん中にある噴水は豪華で、流れる水は水面を揺らし、水面の月も揺れている。
「ふぅ…」
苦手な事をしたせいで汗をかいていたのか、夜風が心地よく感じる。
会場とは違ってここだけゆったりとした空間が流れているような静かな場所。
「エルヴィラは殿下と会えたかな…」
「クェ?」
不思議そうにしている腕の中の鳥の頭を撫でる。
「何でもないよ」
クルルとなく鳥を見るとこちらまで嬉しくて微笑んでしまう。動物は良い。人みたいに騙したりしない。だから動物の前では素直に感情を表せる。だから僕は動物が好きだった。
抱えるようにして撫でていたが、手を広げて自由にしてやると鳥は僕の真上に飛び立った。かと思うと近くをくるくると回りながら肩に止まり顔を近づけてきた。
「ふふっ、僕の頭に顔をのせるなんて…どうかしたのかい?」
多分本当は頬ずりしてくれようとしているのだろうが、猛禽類の様な鳥は結構大きく、頭に顔をグリグリと擦り合わせている。
「クェックェ」
思ったように行動できなかったのか、唸るように鳴き、また飛び立った。
「いいなぁ…君は自由で…」
名も知らない鳥が自由に空を飛んでいるのが羨ましくなった。僕は風魔法が苦手だから空を高くは飛べないし、長時間浮く事もできない。
「僕も高く飛べたら自由になれるんだろうか」
そんなのは現実逃避だとわかっていた。高く飛べたところであの家から出られるわけではないし、僕がやる事も変わらないだろう。
「クェェ…クゥ…クェ…」
僕の言葉で困ったのかいつの間にか膝下に来ていた鳥が何かを迷うように唸っている。
「困らせてしまったかな? 大丈夫だよ。僕を高くまで連れて行ってなんて言わないからさ」
鳥にしてはでかいとはいえ僕の体よりは小さいのに運んでくれなんて思ってない。だから悩まないでくれと思いも込めて両手でワシャワシャともみくちゃにする。
「…絵本のお姫様だったらこんな時は誰かが迎えに来るんだろうか?」
でも僕は男の子だし、王子様も求めてない。ただ平和に暮らしたいだけだ。誰にも叩かれず、誰も傷つけずに。王子と言えばエルヴィラは会えただろうか。…会えたとして殿下はエルヴィラに一目惚れするのだろうか。急に冷静になる。
そもそも戻ってくる前にエルヴィラが言っていたのは本当だったのだろうか。皇太子殿下が僕に一目惚れって…実は全部勘違いで殿下はエルヴィラに一目惚れしたんじゃ…それか本命の女の子が別にいてエルヴィラを断るために言ったとか…?
そうかもしれない。僕がいくら普通の人よりは小柄で女の子ぽい顔してて、時々男からも告白されたり付きまとわれる体質だからって殿下が惚れるわけないだろ。それに、今回の人生ではかかわらないようにすればいいだけだし。
「今回こそは僕だけのために生きよう」
エルヴィラのために悪人と呼ばれるのも嫌だ。2度目の人生。好きなように生きるんだ。死ぬのも生きるのも次こそは僕の意思で…。
「や、やぁ…君も息抜きかい?」
決意した矢先にかけられた声に僕は固まる。なぜ彼がココに…。オレンジがかった黄色い目に煌めく金色の髪。まさしく太陽のようなお方。
「…アーレンツ殿下」
バルコニーで会うはずだった彼と庭園で会った。
「ぼ、僕を知ってくれているのかい?」
予想外の事に驚いたが、すぐに立ち上がった。膝にいた鳥が膝から落ち、不服そうにつついてくる。
「もちろんでございます。帝国の小さき太陽。皇太子殿下にあえて光栄です」
正式に挨拶をしたのに殿下は少し寂しそうに笑った。
「僕も会えて嬉しいよ。君のなま「クェェ!!」
僕に無視されて腹が立ったのか殿下の言葉を遮るように鳴く。殿下の眉がピクリと動いた。慌てて、抱きかかえながらくちばしを軽くおさえる。
「その鳥は…?」
「殿下のお言葉をさえぎって申し訳ありません。先程、出会ったのですが懐かれてしまったようです」
心の中では名も知らない鳥をナイスと褒めながらも、殿下に頭を下げる。
「そうか…飼うのか?」
「いえ、鳥籠が似合わなさそうですので後ほど逃します」
もう殿下の言葉を遮ってはいけないよと声をかけながら鳥のくちばしから手をどける。
「では今逃したまえ。そしてあちらで2人で話をしようではないか。君の事が知りたくなったのだ」
殿下からのお誘いに抱える手に力が入る。正直嫌だ。エルヴィラはどうした。まだあってないのか。
今ならわかる僕を見る殿下の目は…。
「どうした?」
何も答えない僕に殿下が近づいてきて、手をこちらに伸ばしたときだった。
「残念だがコイツは俺がもらっていく!」
僕は誰かに抱きかかえられていた。先程まで腕にいたはずの鳥はいない。代わりに鳥と同じ目の色をした男がいた。
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