上 下
104 / 119
6章

12

しおりを挟む
 屋敷のほうへと走り去る千早ちはや永遠とわを見て、テルフィエンデが呟く。

千早ちはや殿はリウアン族なのに、これほどのクウガ族の中にいても普通にふるまわれておられる。すごいことです」



 --------そうなのか?

 そういえば以前リウアン族とは自分たちの種族だけで固まり、他族と関わらない臆病な種族だと聞いた。



「なぜ千早ちはやは平気なんだろう」

「それは多分…」顎に手を当てたテルフィエンデが予想外の答えを返してきた


「きっと白の番様の力です」

「力?」

「はい」

 屋敷に向かう足を止め、テルフィエンデと向かい合い話を続ける。


千早ちはや殿は永遠とわ様の近くに長くおられたのではないですか?」

 どのくらいだっただろう?と指折り数えてみる。

「9ムンセほどだろうか、リウアン族が冬眠するまでずっと一緒に暮らしてたらしい」

「やはりそうですか」

 納得したように顎をさするテルフィエンデだが俺には訳が分からない。

「白の番様には虫や動物が捕食されることを恐れもせず近寄ってきますでしょう」

「ああ、困るくらい来るときもあるな。大型獣はさすがに追い払うようにしていたが」

 それは俺も知っている、力というか永遠とわは誰からも愛されるからだと。

久遠くおん様は逆にすべての生き物には畏怖と警戒の対象です。なぜならあまりに強すぎるからです。全生物の中の最強のクウガ族であり、更にそれらを統べる王ですから、さぞや動物に逃げられたのではないですか?」

 苦笑交じりの問いに

「苦労なんてもんじゃない、はるか遠くにいても俺の気配を察して逃げる、それで狩りが下手だと父親に叱られるのだからたまったもんじゃなかった」

 テルフィエンデが珍しく噴き出して笑い、つられて後ろのクウガ族の戦士も笑った。


「それはご災難でございました。しかし永遠とわ様と出会われてからはどうですか?」

 そういえば……

「確かに永遠とわが来てからは変わった。だんだんと生き物との距離が狭まり、ある日俺の掌にチョシの子が乗った時、その命の重みに感動した」

「白の番様からは常に聖なる力が溢れています。それは近くにいればいるほどその力に護られ、同化してゆく」

 ゲルゼルもどきとの闘いで臥せっていた俺に千早ちはやが近づけたのも、リウアンの村で白の番と1番近くで長く暮らしていたからなのか。

 「リウアンの村での扱いも永遠様が来てから変わったのではないですか?」

 確かにそうだ、鳶尾いちはつに追いつかれたときも村人たちは俺を見ても失禁することも座り込むこともなく立ち、しかもかばってくれた。


 白の番にはすべての生き物に愛される力があるとテルフィエンデは説明した。

 「お二人がおられる限り、恐れるものは何もありません。逆におられなかった頃は…」

 テルフィエンデは遠くを見、それ以上のことは言わなかった。



しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...