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6章

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  クテニ族が置いていった、嗅いだことのない香りの茶を疑うことなく飲み喉を潤す。

 「我々獣人には発情期というものがございますことはご存じかと思います」

  年に数回訪れる発情期。
  牡と雌がその時に番えば子を授かる。

 「永遠様は牡でいらっしゃいますが白の番様であり、子を宿すことが出来ることは前にもお伝えしました」

 「…信じがたいが、確かに聞いたな」

 「獣人は種族によって発情の時期や期間が異なります」

  そうなのか?リウアン族のことしか知らない俺にはわからないことだった。

 「クウガ族は1ウユーに2度、3日ほどだけですがこの期間に番えば子を授かる機会が得られます」

 「それはクウガ族の牡と雌の話だろう」

  茶器に手を伸ばそうとしたが、空になっていた器。あわててクテニ族が新たな茶を継ぎ足してくれる。
  申し訳なさそうに頭と腰を下げ下がってゆくクテニ族に「ありがとう」と告げると、黄土色の尻尾がピーンとまっすぐになり壁際の所定の位置までぎこちなく歩いた後平伏した。

 「白の番様の発情期は、今までの例ですと1ウユーに数回、1日だけということが多かったです。昨夜のお話を聞くところ、その日であったと推察されます」

 「だから…俺が理性を飛ばし記憶も曖昧になるほどさかったと?」

 あんなふうになったことは未だかつてなかった。
 
 「千早ちはや殿に頼まれクテニ族が用意したのはただの潤滑剤で、あれにも理性をなくすような成分は含まれてはおりませんし、お召し上がりになるもの全て、毒見をしております」

 その言葉に手の中の器を見つめる。
  
 「その茶も前もって幾人かのクテニ族が時間を変えて飲み、クウガ族でも試してからお出ししております」

 宰相の言葉に驚き顔を上げる。

 そこまでして--------

 「この周辺10クラムタレにはクウガ族とクテニ族以外おりませんのでそこまでする必要はございませんが、万が一ということがあってはなりませんので」

 話が茶のほうにそれたが、宰相が言うには発情期の白の番からは通常より密度の濃い誘引香が出ていて、それを感じるのは番である黒の王だけだと言う。

 「クウガ族も発情期のつがいの香りに抗うのは難しい…いえ無理でございます」
  
 少し言いにくそうに言った後コホンとわざとらしい咳払いをする。

 「昨夜がたまたま発情期であられたのだと推察しますが、今までにこのようなことは」

 「なかった」

 即答した。

 「それで薬でも盛られたのかと…疑ってすまなかった」

 座ったまま両手を膝に置き頭を机につきそうなほど下げる。
 ここまで良くしてもらっているのに俺は彼らを疑ってしまった。
 申し訳なさに頭を上げられずにいると、椅子から下りた宰相が服従の体勢を取る。

 「とんでもないことでございます。前もってお話しておくべきことでした、こちらの失態でございます。どうぞご寛恕くださいませ」

 俺の無知を、己の失態と言う宰相。
 日々、尽くしてくれ安全に何不自由なく暮らせている感謝をしながらも、まだ猜疑心が残っていたことを恥じた。

 「俺は…まだ黒の王だと確信出来てるわけじゃないし、ここまでのことをしてもらえるような存在でもない。ただのアルゼ異質な存在だった頃の警戒心…というか…」

 「理解しております。われらの忠誠心を徐々にでもお判りいただけるよう、御傍でお仕えさせていただけますようお願い申し上げます」

 とうとう額を床につけてしまった宰相。
 俺は椅子から下り宰相の両肩に手を置き顔を上げさせる。

「とうに信頼はしている、ただ俺が…黒の王じゃないかもしれないとの疑念を晴らすことができないんだ」

 頭を上げた宰相がまっすぐに俺の瞳を見つめる。

「あなた様が黒の王でないとしても私は一生御傍を離れはしません。それにそのうち……」

 宰相が言い終わらないうちに広間の扉が大きく開かれ、若いクウガ族の少年が息を切らして入ってきた。



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