上 下
85 / 119
5章

14

しおりを挟む
 アルゼ永遠が小さな華奢な体に纏うのは、クウガ族に渡された謎の布地で出来た手触りの良い白い上下に分かれた服と、膝下まである皮のようなもので出来た深靴。

「いじめてない?ほんちょ?」

 俺の膝の上で大きな白い耳をピンと立て両手を広げて、俺を守ろうと目の前の4人に威嚇する。
 本人は怖い顔をしてるつもりだろうが、まんまるの大きな目をしかめても、唇をへの字にしても可愛いだけだ。

「本当でございます。白のつがい様」

 宰相の言葉に気になっていたことを思い出した。
 昨日も誰かがそう呼んでいた

「なぜアルゼ…いや、永遠とわが俺の番だと思った?」

 膝の上のアルゼ永遠も長期戦の構えか俺に体重を預けてもたれてくる。

永遠とわ様………」

 宰相が瞳を閉じ黙り込む。
 部屋にいる全員が宰相に注目しているとユックリと目を開き無言で何度もうなずいた。

久遠くおん様と永遠とわ様、なんという素晴らしき御名でしょう」

 後ろの3人も首がちぎれんばかりに頷く。

「クウガ族の名には意味のある言葉は使われていません。生まれた子を見て黒の王、もしくは宰相が頭に浮かんだ文字を名づけます。お二人のように素晴らしい意味のある言葉を名前にするリウアン族の文化に感服いたしました」

 コホンと咳ばらいをするラフに気づいた宰相がハッとした顔をする。


「申し訳ございません。永遠とわ様がなぜ久遠くおん様の番だとわかったのかとのご下問でしたね」

 深く頭を下げる宰相が顔を上げ、一つ長い息を吐いた。

「その前に黒の王と番様のお話をしてよろしいでしょうか」

 無言で頷く。

「黒の王子が生まれる前後には運命の白い番様が現れます。それはクウガ族とは全く違う、どの種族にも属さない永遠とわ様のような少しルセに似ている姿で、突然、幼い獣体で現れます。それは千年以上続いてきた歴史の中で途切れたことがございません」

 突然現れる--------!?
 信じられない話だが、言葉をさしはさむことをせず黙って続きを聞くことにした。

「先代の黒の王の番様も永遠様のような真っ白なお姿、大きな黒い瞳に豊かな尻尾でございました。」

 思い出したのか宰相の顔が一瞬ゆがみ、瞳に涙が浮かぶ。

「先代の白の番様が出産で亡くなられ、黒の王子が忽然と消え去ったあの前に白い番様が現れることはありませんでした」

 アルゼ永遠も静かに宰相の話に耳を傾けている。

「それから幾年待とうとも、黒の王子もお生まれにならず白の番様も現れず、これからクウガ族はどうなってしまうのだろうと皆の不安が増していきました」

「ちょっと待ってくれ」

 理解できないことが多すぎて俺は宰相の話を遮った。

「はい」

 リウアン族の誰もが恐ろしくて見ることができない俺のギラギラと光る瞳と、宰相の落ち着いた焦げ茶色の瞳がぶつかる。

「白の番が突然現れる、それは信じられない。そんな現象が…」

 途中まで言いながら、アルゼ永遠が俺も耐えられない寒さの厳冬の山頂の俺の寝室になぜいたのかを思い返し押し黙る。

「ほとんどの場合は黒の王の近親者の屋敷内に現れます」

 --------アルゼ永遠も突然あんな山頂にいた。
 --------しかも俺の家に。
 --------まさか本当に俺が黒の王とやらなのか?


 クテニ族が机に置いた新しい器に手を伸ばしクンの匂いを嗅ぐとガビエの香りがした。
 震えそうになる手を温かい器が鎮めてくれた。
 一口飲み熱くないことを確認し、そのままアルゼ永遠の手に握らせる。

アルゼ永遠は俺が住んでいた山頂の山小屋にいたんだ。全てが凍り付く生き物が生きれるはずがない場所で冬を越したようだった」

「なんと……」

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...