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5章
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「飛幻魔獣隊長から昨夜、黒の王の話はお聞きの事と存じます」
俺は無言で頷き、目の前のクウガ族宰相と名乗る男を観察する。
年齢は族長よりは上だろう、焦げ茶色の髪につやがなく顔のしわも深い。
濃い灰色の外套を脱いでもその下にも灰色の上下の衣装を身に着けて、背筋を伸ばし座る宰相は細身ではあるが生気に満ち溢れている。
リウアン族の成人の牡は俺よりも背が20ソンツほど低い。
目の前の宰相とその後ろの3人と横に立つラフ、クウガ族と名乗るこの5人の背丈は俺とほぼ変わらず、クテニ族総括と言った髭で顔が毛むくじゃらの男は俺より背丈も高く体格も横に広い。
「俺は確かにクウガ族かもしれない」
耳の先の毛がクルンと曲がっている所、フサフサの長い尻尾、容姿は切れ長の目に高い鼻、少し大きめの口に厚い唇。
色は違えど同じ種族に見えるだろう。
「だが俺は黒の王なんてものではない」
長椅子に座り身を乗り出すように膝の上に両肘をつき腕を組み顎を乗せ、リウアン族全てが見ることもできないギラギラと輝く瞳で宰相を睨みつけた。
宰相がニッコリとほほ笑む後ろで3人のクウガ族が息をのむ。
「黒の王は魔獣を幻魔獣に変える力があるとラフは言った、でも俺にはそんなものはない。ただ世界の切れ目に落としただけだ」
「大変な怪我をされたと聞いております。黒の王の力を使わず、ご自身の力のみで魔獣と対峙するなど長いクウガ族の歴史の中でも前代未聞でございます」
そうだろう。
俺はただアルゼを守りたかった、そして偶然にも戦ってた近くに世界の切れ目があった、それだけだ。
「本来、黒の王が近づくだけで魔獣は瘴気を無くしてゆき幻魔獣に戻ります」
近づくだけ……?
「黒の王にはそんなすごい力があるのか。ではなおさら俺なぞが黒の王であるはずない」
やはりそうなんだ。こいつらの話を信じそうになってたが、俺は確かにリウアン族の母から生まれたアルゼで、たまたま先祖返りでクウガ族の見た目で生まれてきたにすぎない。
目の前の4人を見つめるが誰一人として目を逸らさない。
宰相が膝の上に置いていた両手を握りこむ。
「リウアン村でのあなた様がお生まれになってから現在までの話を全て聞かせていただきました」
あぁ--------
そこまで全部知られてしまっているのか。
俺は長椅子に深く座り直し天井を見上げた。
迫害され忌み嫌われ、息を殺すように生きてきた俺の人生を、今日初めて会ったというのにもう知っているというのか。
恥ずかしい。
悔しい。
色んな感情が渦巻き見上げた天井の細かな細工を眺める。
どうやったらこのような細工が出来るのだろう?
素材のわからぬ柱、繊細な細工の調度品、この豪華な屋敷を短期間で建てる技術。
クウガ族とは俺の知ってるリウアン族だけの世界とはかけ離れている。
「おぇ?」
急に膝に重みを感じ視線を戻すと目の前にアルゼの大きな黒い瞳があった。
その細い体をギュッと抱きしめ頭に顔をうずめるとアルゼの良い香りが肺いっぱいに広がり落ち着きを取り戻せた。
「おぇ、こえ」
抱きしめていた体を少し離すとアルゼの手には菓子が2つ乗っていた。
「おいしい、いっしょたべる」
ニパッと笑うアルゼ。
たくさん置かれてた菓子を一通り食べたのだろう、そしてその中で1番気に入ったのを持って来てくれたんだな。
掌の2つのうちの1つを受け取ると崩れそうな柔らかさの指一本分くらいの焼き菓子。
ヨジヨジと俺の膝の上で向きを変えたアルゼが宰相とその後ろの3人を見まわし
「おぇ、いじめる めーのよ!」
自分用に握っていた焼き菓子がつぶれて指の間からポロポロと床に落ちていく。
「いじめるなど、とんでもないことでございます」
頭を下げる宰相の後ろで、3人のクウガ族がポカンと口を開け頬をルンガの実よりも赤く染めていた。
俺は無言で頷き、目の前のクウガ族宰相と名乗る男を観察する。
年齢は族長よりは上だろう、焦げ茶色の髪につやがなく顔のしわも深い。
濃い灰色の外套を脱いでもその下にも灰色の上下の衣装を身に着けて、背筋を伸ばし座る宰相は細身ではあるが生気に満ち溢れている。
リウアン族の成人の牡は俺よりも背が20ソンツほど低い。
目の前の宰相とその後ろの3人と横に立つラフ、クウガ族と名乗るこの5人の背丈は俺とほぼ変わらず、クテニ族総括と言った髭で顔が毛むくじゃらの男は俺より背丈も高く体格も横に広い。
「俺は確かにクウガ族かもしれない」
耳の先の毛がクルンと曲がっている所、フサフサの長い尻尾、容姿は切れ長の目に高い鼻、少し大きめの口に厚い唇。
色は違えど同じ種族に見えるだろう。
「だが俺は黒の王なんてものではない」
長椅子に座り身を乗り出すように膝の上に両肘をつき腕を組み顎を乗せ、リウアン族全てが見ることもできないギラギラと輝く瞳で宰相を睨みつけた。
宰相がニッコリとほほ笑む後ろで3人のクウガ族が息をのむ。
「黒の王は魔獣を幻魔獣に変える力があるとラフは言った、でも俺にはそんなものはない。ただ世界の切れ目に落としただけだ」
「大変な怪我をされたと聞いております。黒の王の力を使わず、ご自身の力のみで魔獣と対峙するなど長いクウガ族の歴史の中でも前代未聞でございます」
そうだろう。
俺はただアルゼを守りたかった、そして偶然にも戦ってた近くに世界の切れ目があった、それだけだ。
「本来、黒の王が近づくだけで魔獣は瘴気を無くしてゆき幻魔獣に戻ります」
近づくだけ……?
「黒の王にはそんなすごい力があるのか。ではなおさら俺なぞが黒の王であるはずない」
やはりそうなんだ。こいつらの話を信じそうになってたが、俺は確かにリウアン族の母から生まれたアルゼで、たまたま先祖返りでクウガ族の見た目で生まれてきたにすぎない。
目の前の4人を見つめるが誰一人として目を逸らさない。
宰相が膝の上に置いていた両手を握りこむ。
「リウアン村でのあなた様がお生まれになってから現在までの話を全て聞かせていただきました」
あぁ--------
そこまで全部知られてしまっているのか。
俺は長椅子に深く座り直し天井を見上げた。
迫害され忌み嫌われ、息を殺すように生きてきた俺の人生を、今日初めて会ったというのにもう知っているというのか。
恥ずかしい。
悔しい。
色んな感情が渦巻き見上げた天井の細かな細工を眺める。
どうやったらこのような細工が出来るのだろう?
素材のわからぬ柱、繊細な細工の調度品、この豪華な屋敷を短期間で建てる技術。
クウガ族とは俺の知ってるリウアン族だけの世界とはかけ離れている。
「おぇ?」
急に膝に重みを感じ視線を戻すと目の前にアルゼの大きな黒い瞳があった。
その細い体をギュッと抱きしめ頭に顔をうずめるとアルゼの良い香りが肺いっぱいに広がり落ち着きを取り戻せた。
「おぇ、こえ」
抱きしめていた体を少し離すとアルゼの手には菓子が2つ乗っていた。
「おいしい、いっしょたべる」
ニパッと笑うアルゼ。
たくさん置かれてた菓子を一通り食べたのだろう、そしてその中で1番気に入ったのを持って来てくれたんだな。
掌の2つのうちの1つを受け取ると崩れそうな柔らかさの指一本分くらいの焼き菓子。
ヨジヨジと俺の膝の上で向きを変えたアルゼが宰相とその後ろの3人を見まわし
「おぇ、いじめる めーのよ!」
自分用に握っていた焼き菓子がつぶれて指の間からポロポロと床に落ちていく。
「いじめるなど、とんでもないことでございます」
頭を下げる宰相の後ろで、3人のクウガ族がポカンと口を開け頬をルンガの実よりも赤く染めていた。
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