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5章
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黒の王と呼ばれるクウガ族の王には、天より授けられた力がある。
それは時空の狭間と呼ばれる場所より出現する魔獣を、倒さずに瘴気だけを取り除き、幻魔獣に変えれる力だ。
幻魔獣となった魔獣は瘴気を発さず、言葉を理解し時には共に戦い、時には移動手段として数百年生き続けると言う。
「私が乗っていたのも幻魔獣の一種の飛幻魔獣です」
灰色羽は青の3人は乗れそうな鳥のような生き物のその瞳を見た時、確かに知性が感じられた。
「黒の王の居城はこの地の遥か南方にあります。
けれど黒の王は10ウユー程前に崩御され、それ以来王不在のままクウガ族の宰相たちで国を保っております」
長い話になりそうだと感じ、腕の中のアルゼを隣に座らせ、左腕で腰を抱くと体を傾けて抱き着いてきた。
ポンポンと腰を叩き、心配するなと態度で伝えていると、姿勢を低く跪いたまま近づいてきたクテニ族がひざ掛けのような分厚い布を差し出してきたので受け取ると、それは見た目に反してとても軽かった。
ありがたく思い礼を言うが、クテニ族は頭を下げたまま元の位置に戻っていった。
分厚いのに軽い布をアルゼの膝にかけてやると、細くて白い指がそれを掴み俺の膝にもかけてくれる。
「いっちょ、ね」
こんな場面でもいつも通りなアルゼに思わず笑みがこぼれた。
「黒の王は必ずしも世襲制ではありません」
この数百年の間、黒の王の子の中に一人は必ず生まれてきていた真っ黒な毛並みの時代を担う黒の王子。
「数千年の間に数度、黒の王が子を授かれなかった時代があり、その場合は王に近い血縁の中に黒の王子は生まれていたと文献に残っています」
まさか--------
ラフの言おうとしている先の話を想像し、温かい部屋の中で俺はブルリと震える。
「先代の王の時にも黒の王子は誕生しました」
パチッと暖炉の火花がはじける。
「しかし、もともとお体が強いほうではなかった番様が難産の末、出産直後に亡くなられてしまいました」
年齢は俺より少し上か?ラフの悲しみに満ちた瞳はまるでその時を見てきたかのように語る。
「それを知った黒の王の殺意が誕生したばかりの我が子へと向かった瞬間、忽然と消えたのです」
「…………は?」
消えた?そんなことがあるのか?殺したとかではなく消えた?
「何人もの薬師、産婆、女官も見ていた中で、亡くなられた番様の腕の中で産声を上げていた黒の王子が突然消えたのです」
パチパチとはじける暖炉にクテニ族の男が薪を足す。
何も言わずに俺を見つめ続けるラフの瞳は嘘をついているようには見えない。
しかし--------
「黒の王崩御後のこの10ウユーほどは魔獣が現れるたびに殺すしかありませんでした」
俺たちが入ってきた入口が大きく開かれ、ノッソリと幻魔獣がクテニ族にいざなわれて入ってきた。
アルゼを抱き立ち上がろうとした俺をラフが止める。
「この幻魔獣に見覚えはございませんか?」
幻魔獣に見覚えなんてあるわけがない。
その生き物は全身が灰色の長い毛色でところどころに銀色に光る毛が混じる不思議な色合い。
額の真ん中に大きな角のある4足獣であるソレは…
俺が掴んで世界の切れ目に落とした魔獣に大きさも角もよく似ていた。
「この幻魔獣を見つけた時の我らクウガ族の歓喜をお判りいただけるでしょうか」
拳を握り、美しい衣装の胸元をおさえ瞼を閉じるラフ。
「新たな幻魔獣、すなわちそれは黒の王がこの世に生きている証」
くろのおう?と呟くアルゼのほうを見ることも出来ず、俺はただただラフに見入っていた。
それは時空の狭間と呼ばれる場所より出現する魔獣を、倒さずに瘴気だけを取り除き、幻魔獣に変えれる力だ。
幻魔獣となった魔獣は瘴気を発さず、言葉を理解し時には共に戦い、時には移動手段として数百年生き続けると言う。
「私が乗っていたのも幻魔獣の一種の飛幻魔獣です」
灰色羽は青の3人は乗れそうな鳥のような生き物のその瞳を見た時、確かに知性が感じられた。
「黒の王の居城はこの地の遥か南方にあります。
けれど黒の王は10ウユー程前に崩御され、それ以来王不在のままクウガ族の宰相たちで国を保っております」
長い話になりそうだと感じ、腕の中のアルゼを隣に座らせ、左腕で腰を抱くと体を傾けて抱き着いてきた。
ポンポンと腰を叩き、心配するなと態度で伝えていると、姿勢を低く跪いたまま近づいてきたクテニ族がひざ掛けのような分厚い布を差し出してきたので受け取ると、それは見た目に反してとても軽かった。
ありがたく思い礼を言うが、クテニ族は頭を下げたまま元の位置に戻っていった。
分厚いのに軽い布をアルゼの膝にかけてやると、細くて白い指がそれを掴み俺の膝にもかけてくれる。
「いっちょ、ね」
こんな場面でもいつも通りなアルゼに思わず笑みがこぼれた。
「黒の王は必ずしも世襲制ではありません」
この数百年の間、黒の王の子の中に一人は必ず生まれてきていた真っ黒な毛並みの時代を担う黒の王子。
「数千年の間に数度、黒の王が子を授かれなかった時代があり、その場合は王に近い血縁の中に黒の王子は生まれていたと文献に残っています」
まさか--------
ラフの言おうとしている先の話を想像し、温かい部屋の中で俺はブルリと震える。
「先代の王の時にも黒の王子は誕生しました」
パチッと暖炉の火花がはじける。
「しかし、もともとお体が強いほうではなかった番様が難産の末、出産直後に亡くなられてしまいました」
年齢は俺より少し上か?ラフの悲しみに満ちた瞳はまるでその時を見てきたかのように語る。
「それを知った黒の王の殺意が誕生したばかりの我が子へと向かった瞬間、忽然と消えたのです」
「…………は?」
消えた?そんなことがあるのか?殺したとかではなく消えた?
「何人もの薬師、産婆、女官も見ていた中で、亡くなられた番様の腕の中で産声を上げていた黒の王子が突然消えたのです」
パチパチとはじける暖炉にクテニ族の男が薪を足す。
何も言わずに俺を見つめ続けるラフの瞳は嘘をついているようには見えない。
しかし--------
「黒の王崩御後のこの10ウユーほどは魔獣が現れるたびに殺すしかありませんでした」
俺たちが入ってきた入口が大きく開かれ、ノッソリと幻魔獣がクテニ族にいざなわれて入ってきた。
アルゼを抱き立ち上がろうとした俺をラフが止める。
「この幻魔獣に見覚えはございませんか?」
幻魔獣に見覚えなんてあるわけがない。
その生き物は全身が灰色の長い毛色でところどころに銀色に光る毛が混じる不思議な色合い。
額の真ん中に大きな角のある4足獣であるソレは…
俺が掴んで世界の切れ目に落とした魔獣に大きさも角もよく似ていた。
「この幻魔獣を見つけた時の我らクウガ族の歓喜をお判りいただけるでしょうか」
拳を握り、美しい衣装の胸元をおさえ瞼を閉じるラフ。
「新たな幻魔獣、すなわちそれは黒の王がこの世に生きている証」
くろのおう?と呟くアルゼのほうを見ることも出来ず、俺はただただラフに見入っていた。
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