58 / 119
4章
3 【千早】視点
しおりを挟む
あれから3ドウ
薬師は後はもう死ぬのを待つだけだと来てくれなくなった。
村はずれの廃屋に運び込んだ時は恐ろしくて仕方なかったアルゼだが
死期が近づいてるのか今はその恐怖心が和らいできていて同じ部屋にいても耐えれる程度にはなっていた。
村人も族長である父親もみな『もう無理だろう』とアルゼの死体をどう処分するかの段取りに入っている。
そんな中ただ一人諦めていないのがアルゼだ。
ずっとアイツのそばを離れようとはせず、この3ドウ、水しか飲んでいない。
もう死にかけ横たわっているだけのアルゼが何かに魘され苦しい呼吸の中、体を動かすときがある。
それを見ては
『ちぃ!おぇがうごいた。うごいたよ、だいじょぶ、ね。げんきでてきた、ね?」
と返答に困る事を言ってくる。
もう死ぬ時を待っているしかできないのに
村人も俺もみなそう思っているのに
アルゼだけは諦めていなかった
アルゼにつきっきりのアルゼについていた俺にも限界が訪れ、家に帰って仮眠を取り、再び村はずれの廃屋へと向かう。
向かいながらも(もう事切れているかもしれない…)なんて思うと一人で泣きじゃくっているアルゼのためにも速足となる。
「ほら 母さんがブーテの甘煮を作っ…」
廃屋のその部屋に入った瞬間、俺は自分の目を疑った。
粗末なベッドの上に寝かされたアルゼの全身の包帯がはずされ、見るも無残な体が横たわっていた。
そしてその体に寄り添うように引っ付き傷を火傷をペロペロとなめているアルゼがそこにいた。
ガチャンという音と共に母さんが作ってくれたブーテが床に落ちる。
「…ダメだ」
俺の声が聞こえてないのか舐めることをやめない。
部屋中に漂う死臭にも似た細胞が腐り落ちてゆく臭いがツンと鼻をつく。
「舐めちゃダメだ、そんなことしたらどんな病気になるか…」
横たわるアルゼの肩を揺すり話しかけるとアルゼの体にギュッと抱き着き舐め続ける。
「ダメだったら!汚いから。」
「おぇ きちゃない ちあう!」
やっと舐めることをやめたアルゼと目が合う。
その瞳は見たことがないくらい怒りに満ちていて、アルゼにそんな目で見られたことがなかった俺は掴んでいた肩をゆっくりと離し、部屋を出ていくしかなかった。
パタンと扉を閉め、そのままズルズルと床へ座り込み、膝を抱え天井を見上げた。
--------誰もがアルゼがもう死ぬとわかっているこの状況でもアルゼには受け入れられないんだ
「…いたぃ?おえ。かわいちょね、いたぃ。ないなるよ、がんばぇ、あるぜいっちょ、ね。ペロペロしたらなおる、ね」
扉越しに小さく聞こえるその声は涙声でこの数日の嘆きで掠れていた。
俺はまだ身近な人の死を体験したことがない。
祖父母の死は経験したが父親である族長と同じで、別の家に住みめったに会うこともない希薄な関係だった。
身近な存在と言えば母親のみでまだまだ死にそうにもなく元気はつらつとしている。
結婚もしていないし1番大事な人が死にかけている心境はわからない。
けど
誰も近寄らなくなったこの廃屋で、アルゼまでもを失うわけにはいかない。
俺は立ち上がり自分が出来ることをしようと決意した。
薬師は後はもう死ぬのを待つだけだと来てくれなくなった。
村はずれの廃屋に運び込んだ時は恐ろしくて仕方なかったアルゼだが
死期が近づいてるのか今はその恐怖心が和らいできていて同じ部屋にいても耐えれる程度にはなっていた。
村人も族長である父親もみな『もう無理だろう』とアルゼの死体をどう処分するかの段取りに入っている。
そんな中ただ一人諦めていないのがアルゼだ。
ずっとアイツのそばを離れようとはせず、この3ドウ、水しか飲んでいない。
もう死にかけ横たわっているだけのアルゼが何かに魘され苦しい呼吸の中、体を動かすときがある。
それを見ては
『ちぃ!おぇがうごいた。うごいたよ、だいじょぶ、ね。げんきでてきた、ね?」
と返答に困る事を言ってくる。
もう死ぬ時を待っているしかできないのに
村人も俺もみなそう思っているのに
アルゼだけは諦めていなかった
アルゼにつきっきりのアルゼについていた俺にも限界が訪れ、家に帰って仮眠を取り、再び村はずれの廃屋へと向かう。
向かいながらも(もう事切れているかもしれない…)なんて思うと一人で泣きじゃくっているアルゼのためにも速足となる。
「ほら 母さんがブーテの甘煮を作っ…」
廃屋のその部屋に入った瞬間、俺は自分の目を疑った。
粗末なベッドの上に寝かされたアルゼの全身の包帯がはずされ、見るも無残な体が横たわっていた。
そしてその体に寄り添うように引っ付き傷を火傷をペロペロとなめているアルゼがそこにいた。
ガチャンという音と共に母さんが作ってくれたブーテが床に落ちる。
「…ダメだ」
俺の声が聞こえてないのか舐めることをやめない。
部屋中に漂う死臭にも似た細胞が腐り落ちてゆく臭いがツンと鼻をつく。
「舐めちゃダメだ、そんなことしたらどんな病気になるか…」
横たわるアルゼの肩を揺すり話しかけるとアルゼの体にギュッと抱き着き舐め続ける。
「ダメだったら!汚いから。」
「おぇ きちゃない ちあう!」
やっと舐めることをやめたアルゼと目が合う。
その瞳は見たことがないくらい怒りに満ちていて、アルゼにそんな目で見られたことがなかった俺は掴んでいた肩をゆっくりと離し、部屋を出ていくしかなかった。
パタンと扉を閉め、そのままズルズルと床へ座り込み、膝を抱え天井を見上げた。
--------誰もがアルゼがもう死ぬとわかっているこの状況でもアルゼには受け入れられないんだ
「…いたぃ?おえ。かわいちょね、いたぃ。ないなるよ、がんばぇ、あるぜいっちょ、ね。ペロペロしたらなおる、ね」
扉越しに小さく聞こえるその声は涙声でこの数日の嘆きで掠れていた。
俺はまだ身近な人の死を体験したことがない。
祖父母の死は経験したが父親である族長と同じで、別の家に住みめったに会うこともない希薄な関係だった。
身近な存在と言えば母親のみでまだまだ死にそうにもなく元気はつらつとしている。
結婚もしていないし1番大事な人が死にかけている心境はわからない。
けど
誰も近寄らなくなったこの廃屋で、アルゼまでもを失うわけにはいかない。
俺は立ち上がり自分が出来ることをしようと決意した。
31
お気に入りに追加
566
あなたにおすすめの小説
法律では裁けない問題を解決します──vol.1 神様と目が合いません
ろくろくろく
BL
連れて来られたのはやくざの事務所。そこで「腎臓か角膜、どちらかを選べ」と迫られた俺。
VOL、1は人が人を好きになって行く過程です。
ハイテンポなコメディ
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話
いんげん
BL
僕の運命の番は一見もっさりしたガテンのおっさんだった。嘘でしょ!?……でも好きになっちゃったから仕方ない。僕がおっさんを幸せにする! 実はスパダリだったけど…。
おっさんα✕お馬鹿主人公Ω
おふざけラブコメBL小説です。
話が進むほどふざけてます。
ゆりりこ様の番外編漫画が公開されていますので、ぜひご覧ください♡
ムーンライトノベルさんでも公開してます。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる