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3章

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 パチパチと薪が爆ぜる音がする温かな室内。
 敷物の上でお互い身を寄せ合い揺らめく炎を見つめる。

「ねないで おぇくるの、まってるって」

 何度もそう言ったのになかなか信じてもらえなかったんだと。

『冬眠しない生き物なんていない そんなのはアルゼ異質な存在だけだ』とちぃが言ったと。

 何回も繰り返し言ったけど信じてくれなかったと。

 雪に閉じ込められた世界で、炎が照り返し橙色に見えるアルゼの髪を撫でながら会えなかった日々の話を聞く。

 俺と引き離した族長をひたすら嫌ってたアルゼだったが、その族長がちぃにこの家の鍵を渡してアルゼと俺が過ごせるように片づけを手伝えと言ってくれた。

「アルゼいつも、ぞくちょにプンってしてた」

 俺を虐げる村人の代表である族長が大嫌いだったんだと。

「でももう、ぞくちょきらい、ないよ」

 瓶に入った俺が作った保存食のヨゼを気に入ったのか匙ですくっては口に運んでいる。

「そうか」

 族長が俺と過ごせるようにこの家の手入れを指図していたなんて思いもよらなかった。
 毎年墓参りのたびに妹の死を嘆き、恨みつらみをぶつけられるだけだった。
 しかし両親が亡くなった後も変わらずこの村はずれの陋屋で冬を越すことを許してくれた。

 妹への愛情と村人との板挟みで苦悩しただろう叔父。
 規律を重んじなければいけない立場で出来うる限りの援助をしてくれていたのだ。
 そしてアルゼとのことも--------

 引き離された当初は俺も恨んだ。
 恨んで悲しんで自暴自棄になりもした。

 けれどこうして再びアルゼに会えた。
 まさか族長がアルゼと俺がこの家で暮らせるようにしてくれるなんて思いもしなかった。

 一目見ることができたら去るつもりだった俺に、アルゼはただひたすらに心を傾けてくれた。

「おぇ すき。」

 その言葉1つで臆病だった俺の心の氷を溶かしてくれる。

「アルゼのことおよめさん してね?」

 よりかかり座って匙を咥えたまま見上げるように言う。

「およめさんって…」

「牡でもおよめさん、なれるしってるよ」

 確かに一夫多妻制の獣人には牡同士の夫夫ふうふもいる。
 強い牡がメスを独占するためにどうしても牡が余るからだ。

「あるぜ、おぇしかやーの」

 空になった瓶を床に置き、よじよじと俺の膝に乗り座り直す。
 暖炉のほうを向き膝に尻を乗せられると昨夜の交合が思い出され、落ち着かなくなる。

「牡でもおよめさんなれるって、ちぃがおしえてくれた」

 どうやってやるのか教えてっていうのになかなか教えてくれなかったんだと。

「そんなこと聞いて…大丈夫だったのか?」

 さそってんのか?といわれたらしい。
 たぶん そのちぃってのはアルゼのことが好きだから牡でもお嫁さんになれるって話をしたんだろう。
 そして即失恋した。

 何言ってるのかわからなかったアルゼがしつこく聞き出して牡同士の交合の仕方を教えてもらったらしい。
 やり方を知らない俺がなんとかアルゼと繋がれたのはそういうことだったのか。

 ちぃとアルゼで集めたという暖炉の脇に積み上げられている薪。
 失恋した相手のために倒木を見つけ、薪にする作業をするちぃに同情した。

「あるぜ、うまくできた。おぇのおよめさん、ね?」

 ニパァーと笑い、交合がうまくいったからおよめさんだと言い張るアルゼ。

 いいのだろうか--------

 誰からも恐れられる嫌われ者の俺なんかのお嫁さんになったらアルゼまで…

「おぇ…?」

 首を傾げ、眉を寄せ不安そうな顔で見上げるアルゼ。

 こんなに愛らしく誰からも好かれるアルゼを巻き込んでいいのか--------

 返事もできず俺はただ膝の上の柔らかな体を抱きしめた。



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