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2章

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(*までは俺の回想)

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 冬が近づくと両親と共に里に下りて村はずれの家に住んだ。
 何もかもが珍しい俺は家から出たくて仕方がなかったが、両親にきつく止められていた。
 寒さが厳しくなり、両親が冬眠の準備に忙しくて目を離した隙に俺は家の外へと抜け出した。

 村のはずれだからほかの家もなく、まわりは樹木だらけの元は狩り小屋だった小さな陋屋。
 こうして里に下りてくるのは2度目だった。



 初めての里での冬の時のこと。
 本格的な冬になり冬眠する準備が整い陋屋の1室で両親と春が近づくまでの長い眠りについたはずだった。
 眠る両親の横で一緒に眠った俺は、次の日の朝には目覚めてしまった。
 なんとか冬眠しようと頑張ったがいつも朝になると目が覚めてしまう。
 そうなると喉が渇くし腹もすく。
 両親を起こそうと揺すったり声をかけてみたが全く起きてはくれない。
 冬眠前に外に出るなとキツクいいつけられていたが、このままでは死んでしまうと思い外に出てみた。
 山頂とは違い、雪が積もってはいても1ムタレほど。
 道なき道を進み村の入口にたどり着いた。
 沢山の家はどれも厳重に鍵がかけられ、誰一人起きているリウアン族はいなかった。





 今はまだ冬の初め。
 両親が冬眠していないということは村のリウアン族もしていないということだ。


(コッソリ見るだけなら叱られないかも)


 村に行っちゃいけない理由は知らされていなかった。
 俺はどうしても両親以外の同族を見てみたかった。

(幼体の子供って俺より小さいのかな)

 ワクワクが止まらず村の入り口付近まで来たところで人の気配がした。





 何だアレは--------

 アルゼ異質な存在だ--------

 恐ろしい--------

 あれがアルゼ異質な存在?--------

 殺せ--------

 たくさんの両親と同じような茶色い髪をした人と、それに混じってチラホラ見える幼体の茶色い獣人。

 それらが発する悪意ある言葉が次々襲い来る。
 木の陰から顔を覗かせた途端悲鳴を上げて後ずさる人々。


(なんで?)

(どうしてみんな逃げるの?)

アルゼ異質な存在って何?)



 悲しくなった俺が踵を返し逃げようとした時甲高い幼体の声がした。


アルゼ異質な存在のくせに、むらにおりてくるな!』

 俺に向けられた言葉だとわかった。

アルゼ異質な存在とは俺の事なのか…?)

 ゆっくりと振り向くと声の主であろう獣人の幼体の子供と目が合った。
 俺より一回りくらい小さなその子供が腰を抜かしたように座り込む。

『あ…ぁゎ…ひぃ』

 小便を漏らしている子供をかばうように人化した獣人が立ちはだかる。
 皆、俺とは目を合わせずに、耳を威嚇の形にし尻尾はピンと立っている。

 アルゼ異質な存在--------

 殺せ

 危険危険危険--------



 俺は今度こそ振り向かず走って逃げた。
 陋屋に戻る途中で両親を見つけ、村であったことを話した。

 その日、母親は村へ行ったきり帰ってこなかった。


 次の日、疲れ切って帰ってきた母の手には布袋があった。
 暖炉の前に座らされ、両親に訥々と話された内容が信じられず泣いた。

 存在するだけで人々に恐怖を与える存在。
 慣れた両親ですら目を合わせると恐怖で動けなくなる。
 アルゼ異質な存在--------と呼ばれていること。
 皆と違う黒い毛。
 今までこんなリウアン族はいなかった。
 なぜ山頂に住んでいるのか。

(俺は普通じゃない--------)



 今回村に一人で行ったことで、やはり殺すしかないとリウアン族たちがいきりたってたのを族長が抑えていた。
 族長の妹である母親が一晩かけて説得し、布袋と家から絶対に出ないことを条件に殺されることは避けられた。


「ごめんね」


 布袋を顔にかけながら泣いていた母。

 謝るのは俺のほうだと言うのに、あの頃の俺はわかってなかった。


『どうして--------』


 年月が経つにつれ俺は理解していった。
 悪いのは俺だ。
 アルゼ異質な存在で生まれてきた俺のせい。
 俺の存在が人々を両親を恐怖に陥れている。

 それ以来、村では布袋を被ること家から出ないことを強制された。





 *


「おぇ?」

 昔の事を思い出していた俺を心配そうにのぞき込む真っ黒な瞳。


「おぇ、いたい。だいじょぶ?」

 まっすぐに俺の瞳を見ても怯えない。


「いたいの、ないない」

 椅子によじ登り俺の頭を撫でてくれる。


 ふんわりとアルゼの良い香りが漂い、その胸元に顔をうずめる。


(誰からも嫌われて)

 アルゼ異質な存在--------

(誰とも触れ合えず)

 殺せ--------


「おぇ、いたいないよ。あるぜがよしよししてあげう」

 小さいこの体が俺の今の世界の唯一つの宝物。


「アルゼ」

「あぃ」

 抱きしめると壊してしまうそうなくらい細いのに。

「アルゼ…」

「はぁい」

 なんと頼もしくて大きな存在なのか。

(どこにも行くな)

 言葉にすれば俺の傍から離れなくなりそうだから言葉にはしない願い。

「ありがとうな」

「あぃ!」


 この幸せだけは手離したくない--------

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