32 / 119
2章
8
しおりを挟む
(*までは俺の回想)
------------------------
冬が近づくと両親と共に里に下りて村はずれの家に住んだ。
何もかもが珍しい俺は家から出たくて仕方がなかったが、両親にきつく止められていた。
寒さが厳しくなり、両親が冬眠の準備に忙しくて目を離した隙に俺は家の外へと抜け出した。
村のはずれだからほかの家もなく、まわりは樹木だらけの元は狩り小屋だった小さな陋屋。
こうして里に下りてくるのは2度目だった。
初めての里での冬の時のこと。
本格的な冬になり冬眠する準備が整い陋屋の1室で両親と春が近づくまでの長い眠りについたはずだった。
眠る両親の横で一緒に眠った俺は、次の日の朝には目覚めてしまった。
なんとか冬眠しようと頑張ったがいつも朝になると目が覚めてしまう。
そうなると喉が渇くし腹もすく。
両親を起こそうと揺すったり声をかけてみたが全く起きてはくれない。
冬眠前に外に出るなとキツクいいつけられていたが、このままでは死んでしまうと思い外に出てみた。
山頂とは違い、雪が積もってはいても1ムタレほど。
道なき道を進み村の入口にたどり着いた。
沢山の家はどれも厳重に鍵がかけられ、誰一人起きているリウアン族はいなかった。
今はまだ冬の初め。
両親が冬眠していないということは村のリウアン族もしていないということだ。
(コッソリ見るだけなら叱られないかも)
村に行っちゃいけない理由は知らされていなかった。
俺はどうしても両親以外の同族を見てみたかった。
(幼体の子供って俺より小さいのかな)
ワクワクが止まらず村の入り口付近まで来たところで人の気配がした。
何だアレは--------
アルゼだ--------
恐ろしい--------
あれがアルゼ?--------
殺せ--------
たくさんの両親と同じような茶色い髪をした人と、それに混じってチラホラ見える幼体の茶色い獣人。
それらが発する悪意ある言葉が次々襲い来る。
木の陰から顔を覗かせた途端悲鳴を上げて後ずさる人々。
(なんで?)
(どうしてみんな逃げるの?)
(アルゼって何?)
悲しくなった俺が踵を返し逃げようとした時甲高い幼体の声がした。
『アルゼのくせに、むらにおりてくるな!』
俺に向けられた言葉だとわかった。
(アルゼとは俺の事なのか…?)
ゆっくりと振り向くと声の主であろう獣人の幼体の子供と目が合った。
俺より一回りくらい小さなその子供が腰を抜かしたように座り込む。
『あ…ぁゎ…ひぃ』
小便を漏らしている子供をかばうように人化した獣人が立ちはだかる。
皆、俺とは目を合わせずに、耳を威嚇の形にし尻尾はピンと立っている。
アルゼ--------
殺せ
危険危険危険--------
俺は今度こそ振り向かず走って逃げた。
陋屋に戻る途中で両親を見つけ、村であったことを話した。
その日、母親は村へ行ったきり帰ってこなかった。
次の日、疲れ切って帰ってきた母の手には布袋があった。
暖炉の前に座らされ、両親に訥々と話された内容が信じられず泣いた。
存在するだけで人々に恐怖を与える存在。
慣れた両親ですら目を合わせると恐怖で動けなくなる。
アルゼ--------と呼ばれていること。
皆と違う黒い毛。
今までこんなリウアン族はいなかった。
なぜ山頂に住んでいるのか。
(俺は普通じゃない--------)
今回村に一人で行ったことで、やはり殺すしかないとリウアン族たちがいきりたってたのを族長が抑えていた。
族長の妹である母親が一晩かけて説得し、布袋と家から絶対に出ないことを条件に殺されることは避けられた。
「ごめんね」
布袋を顔にかけながら泣いていた母。
謝るのは俺のほうだと言うのに、あの頃の俺はわかってなかった。
『どうして--------』
年月が経つにつれ俺は理解していった。
悪いのは俺だ。
アルゼで生まれてきた俺のせい。
俺の存在が人々を両親を恐怖に陥れている。
それ以来、村では布袋を被ること家から出ないことを強制された。
*
「おぇ?」
昔の事を思い出していた俺を心配そうにのぞき込む真っ黒な瞳。
「おぇ、いたい。だいじょぶ?」
まっすぐに俺の瞳を見ても怯えない。
「いたいの、ないない」
椅子によじ登り俺の頭を撫でてくれる。
ふんわりとアルゼの良い香りが漂い、その胸元に顔をうずめる。
(誰からも嫌われて)
アルゼ--------
(誰とも触れ合えず)
殺せ--------
「おぇ、いたいないよ。あるぜがよしよししてあげう」
小さいこの体が俺の今の世界の唯一つの宝物。
「アルゼ」
「あぃ」
抱きしめると壊してしまうそうなくらい細いのに。
「アルゼ…」
「はぁい」
なんと頼もしくて大きな存在なのか。
(どこにも行くな)
言葉にすれば俺の傍から離れなくなりそうだから言葉にはしない願い。
「ありがとうな」
「あぃ!」
この幸せだけは手離したくない--------
------------------------
冬が近づくと両親と共に里に下りて村はずれの家に住んだ。
何もかもが珍しい俺は家から出たくて仕方がなかったが、両親にきつく止められていた。
寒さが厳しくなり、両親が冬眠の準備に忙しくて目を離した隙に俺は家の外へと抜け出した。
村のはずれだからほかの家もなく、まわりは樹木だらけの元は狩り小屋だった小さな陋屋。
こうして里に下りてくるのは2度目だった。
初めての里での冬の時のこと。
本格的な冬になり冬眠する準備が整い陋屋の1室で両親と春が近づくまでの長い眠りについたはずだった。
眠る両親の横で一緒に眠った俺は、次の日の朝には目覚めてしまった。
なんとか冬眠しようと頑張ったがいつも朝になると目が覚めてしまう。
そうなると喉が渇くし腹もすく。
両親を起こそうと揺すったり声をかけてみたが全く起きてはくれない。
冬眠前に外に出るなとキツクいいつけられていたが、このままでは死んでしまうと思い外に出てみた。
山頂とは違い、雪が積もってはいても1ムタレほど。
道なき道を進み村の入口にたどり着いた。
沢山の家はどれも厳重に鍵がかけられ、誰一人起きているリウアン族はいなかった。
今はまだ冬の初め。
両親が冬眠していないということは村のリウアン族もしていないということだ。
(コッソリ見るだけなら叱られないかも)
村に行っちゃいけない理由は知らされていなかった。
俺はどうしても両親以外の同族を見てみたかった。
(幼体の子供って俺より小さいのかな)
ワクワクが止まらず村の入り口付近まで来たところで人の気配がした。
何だアレは--------
アルゼだ--------
恐ろしい--------
あれがアルゼ?--------
殺せ--------
たくさんの両親と同じような茶色い髪をした人と、それに混じってチラホラ見える幼体の茶色い獣人。
それらが発する悪意ある言葉が次々襲い来る。
木の陰から顔を覗かせた途端悲鳴を上げて後ずさる人々。
(なんで?)
(どうしてみんな逃げるの?)
(アルゼって何?)
悲しくなった俺が踵を返し逃げようとした時甲高い幼体の声がした。
『アルゼのくせに、むらにおりてくるな!』
俺に向けられた言葉だとわかった。
(アルゼとは俺の事なのか…?)
ゆっくりと振り向くと声の主であろう獣人の幼体の子供と目が合った。
俺より一回りくらい小さなその子供が腰を抜かしたように座り込む。
『あ…ぁゎ…ひぃ』
小便を漏らしている子供をかばうように人化した獣人が立ちはだかる。
皆、俺とは目を合わせずに、耳を威嚇の形にし尻尾はピンと立っている。
アルゼ--------
殺せ
危険危険危険--------
俺は今度こそ振り向かず走って逃げた。
陋屋に戻る途中で両親を見つけ、村であったことを話した。
その日、母親は村へ行ったきり帰ってこなかった。
次の日、疲れ切って帰ってきた母の手には布袋があった。
暖炉の前に座らされ、両親に訥々と話された内容が信じられず泣いた。
存在するだけで人々に恐怖を与える存在。
慣れた両親ですら目を合わせると恐怖で動けなくなる。
アルゼ--------と呼ばれていること。
皆と違う黒い毛。
今までこんなリウアン族はいなかった。
なぜ山頂に住んでいるのか。
(俺は普通じゃない--------)
今回村に一人で行ったことで、やはり殺すしかないとリウアン族たちがいきりたってたのを族長が抑えていた。
族長の妹である母親が一晩かけて説得し、布袋と家から絶対に出ないことを条件に殺されることは避けられた。
「ごめんね」
布袋を顔にかけながら泣いていた母。
謝るのは俺のほうだと言うのに、あの頃の俺はわかってなかった。
『どうして--------』
年月が経つにつれ俺は理解していった。
悪いのは俺だ。
アルゼで生まれてきた俺のせい。
俺の存在が人々を両親を恐怖に陥れている。
それ以来、村では布袋を被ること家から出ないことを強制された。
*
「おぇ?」
昔の事を思い出していた俺を心配そうにのぞき込む真っ黒な瞳。
「おぇ、いたい。だいじょぶ?」
まっすぐに俺の瞳を見ても怯えない。
「いたいの、ないない」
椅子によじ登り俺の頭を撫でてくれる。
ふんわりとアルゼの良い香りが漂い、その胸元に顔をうずめる。
(誰からも嫌われて)
アルゼ--------
(誰とも触れ合えず)
殺せ--------
「おぇ、いたいないよ。あるぜがよしよししてあげう」
小さいこの体が俺の今の世界の唯一つの宝物。
「アルゼ」
「あぃ」
抱きしめると壊してしまうそうなくらい細いのに。
「アルゼ…」
「はぁい」
なんと頼もしくて大きな存在なのか。
(どこにも行くな)
言葉にすれば俺の傍から離れなくなりそうだから言葉にはしない願い。
「ありがとうな」
「あぃ!」
この幸せだけは手離したくない--------
32
お気に入りに追加
566
あなたにおすすめの小説
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話
いんげん
BL
僕の運命の番は一見もっさりしたガテンのおっさんだった。嘘でしょ!?……でも好きになっちゃったから仕方ない。僕がおっさんを幸せにする! 実はスパダリだったけど…。
おっさんα✕お馬鹿主人公Ω
おふざけラブコメBL小説です。
話が進むほどふざけてます。
ゆりりこ様の番外編漫画が公開されていますので、ぜひご覧ください♡
ムーンライトノベルさんでも公開してます。
その溺愛は伝わりづらい
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
第二の人生は王子様の花嫁でした。
あいえだ
BL
俺は幸福に命を終え、前世の記憶を持ったまま男が圧倒的に多いこの異世界に転生して公爵家御曹司となった。そして王子と婚約するが後から生まれてきた若い転生者に王子を奪われてしまう。
その時声をかけられた、辺境の悪魔と呼ばれ、黒いマスク姿で忌み嫌われるシュワルツ卿の元へ引き取られることに。実は彼は超大国の王子で、俺を手にいれるために属国のこの国へお忍びで来ていたと言い、俺を連れて帰り溺愛の限りを尽くす。
元おっさんの俺が第二の人生を謳歌する、あるある溺愛コメディなお話。主人公受けです。
国名がややこしいのでABつけています。ベンの国はガルデスフィールでかわりないのですが、人名が多すぎるので…。
そのうちがっつりR18です。性描写ありは★をつけています。
絵師活動もしているので表紙は自作です。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
竜王陛下の愛し子
ミヅハ
BL
この世界の遙か上空には〝アッシェンベルグ〟という名の竜の国がある。
彼の国には古くから伝わる伝承があり、そこに記された者を娶れば当代の治世は安寧を辿ると言われているのだが、それは一代の王に対して一人しか現れない類稀な存在だった。
〝蓮の花のアザ〟を持つ者。
それこそが目印であり、代々の竜王が捜し求めている存在だ。
しかし、ただでさえ希少な存在である上に、時の流れと共に人が増えアザを持つ者を見付ける事も困難になってしまい、以来何千年と〝蓮の花のアザ〟を持つ者を妃として迎えられた王はいなかった。
それから時は流れ、アザを持つ者が現れたと知ってから捜し続けていた今代の王・レイフォードは、南の辺境近くにある村で一人の青年、ルカと出会う。
土や泥に塗れながらも美しい容姿をしたルカに一目惚れしたレイフォードは、どうにか近付きたくて足繁く村へと通いルカの仕事を手伝う事にした。
だがそんな穏やかな時も束の間、ある日突然村に悲劇が訪れ────。
穏和な美形竜王(攻)×辺境の村育ちの美人青年(受)
性的描写ありには※印つけてます。
少しだけ痛々しい表現あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる